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霊魂のねぐら、うろつく咎人⑦

「さて帰るか、てか帰りたいぜマジで」


 ニッケルは町の外へ向きを変えるが、カリオとリンコは動かない。


「ん? どうした?」

「あー……持って帰る写真しゃしん動画どうがもデータも何もねえと思ってな」


 カリオの返事にニッケルの胸中きょうちゅういや予感よかんが芽生える。


「最低限、地下のコントロールユニット?の写真なり持って帰れそうな部品はあった方がいい気がするんだよね。それに町をおおっている雲についても調べとかなきゃだし」

「さっきたおしたデカいの、多分無人機むじんきだと思うんだがやけに奇妙きみょうな作りだった。こっちも調べておいた方がいい……ってか肝心かんじんの町の壊滅原因かいめつげんいんもハッキリしてねえだろ。十中八九あのエメトの仕業しわざだとは思うがそもそもなんで暴走ぼうそうしたのか――」


 リンコとカリオが話すのを聞いてニッケルのほおあせつたう。


「いやだ! もういいだろ! 俺は帰る!」

「仕事なんだからちゃんとしろよ。大体正体はオバケじゃねえってわかったんだからビビるこたぁねえだろ」

「どうしてもっていうなら止めないけど、私たちは残るから一人になるよ?」


 ニッケルは歯を食いしばってふるえる。




 ――結局この後、三人は日がれるまで調査を続けた。




 任務にんむ後、レトリバーに帰ってきたニッケルはよっぽどこわかったのか、それともねたのか、ぐ自分の部屋に戻り布団ふとんもぐり込んだ。


「カリオ、ニッケルが部屋から出てきてくれないので代わりにトイレついてきてください」

「……気に入っているのかその般若面はんにゃめん


 カリオがそう聞くと般若面をかぶったマヨはグルルルとうなって威嚇いかくして見せた。気に入っているらしい。




 後日、クライアントから任務にんむのお礼と、収集しゅうしゅうして手渡てわたした情報と物品からわかった事について報告があった。


 あの町にはハシナガ・コーポレーションとは別の企業きぎょう拠点きょてんがあり、両社で協力きょうりょくし、ビッグスーツの無人操作むじんそうさ新装備しんそうび研究けんきゅう実験じっけんを行っていたことがわかった。いたんだ大量のビッグスーツは様々なコミュニティから廃棄予定はいきよていだったものをかき集めたモノ、黒髪くろかみの機体は新装備の試験機しけんきとして作られたモノらしい。

 町の周囲を覆っていた黒い雲も、自治体の許可を得て配置した、研究中の拠点防衛設備きょてんぼうえいせつび試作型しさくがたとわかった。


 暴走ぼうそうしたエメトについて、関連する業務ぎょうむたずさわっていたハシナガ・コーポレーションの社員の中に、自殺事件じさつじけん被害者ひがいしゃ接点せってんのある人物がいたらしい。カリオ達が収集したデータの中には、彼が書いたものと思われる事件に関する記録きろくが見つかった。それ以上の事はわからず、原因の特定は出来なかったが、彼がエメトの暴走に関わっていた可能性かのうせいは高いだろう……とのことだった。




「クライアントの企業さんってどんなところなんだっけ? 今更だけど」


 リンコはロリポップキャンディーをめながら、マヨと一緒にトイレから戻ってきたカリオに話しかける。


艦長オヤジがざっくり調べたらしいが、表も裏もスキャンダルらしいものは見当たらなかったらしい。今回の調査利用して悪さするような所じゃなさそうだってよ」


 そこまで言ってカリオはあっ、と口を開けて思い出す。


あやしいって言ったらよっぽどアイツの方が怪しかっただろ。ウドだかムドだか」

「あー、彼ね。でもせいぜいソロの泥棒どろぼうとかそんなもんじゃない? あそこまで侵入しんにゅう出来たのだって、なんかサイバネ技術んでたとかでしょ。私達に見せてないだけで」

「うーむ……そんなもんか」

「そうよ」 




 かくして、ちょっと不気味ぶきみな任務は、ちょっとなぞを残しつつも達成たっせいとなった。




 ◇ ◇ ◇




「〝会社〟の〝社員〟がどこにいるのかはわからないってわけか」


 太陽たいようの光が入らず、空の見えないにわ。赤いショートミディアムヘアのたくましい男――ルガルが、庭の木の下で座り、銀髪ぎんぱつのポニーテールの男と会話している。


「由々《ゆゆ》しき事態だ。私が先に封印ふういんされたばっかりに」

「由々しき……って、別に誰かが殺しに来るわけでもないんだからのんびりやったらいいだろう、マドク」


 ルガルがあきれるように話すのを聞いて、銀髪のポニーテール――マドクはため息をつく。


「あの頭の悪そうな外のたみが大陸中にウヨウヨしているのを見て、お前は気分が悪くならないのか?」

「いや、俺らの時代の民とそんな変わってねえだろ……なあ、イルタ」


 ルガルは離れた場所の草の上で寝転ねころがっているイルタに声をかける。イルタはボーッと見えない空を見つめて返事をしない。


「フン、相変わらず愛想あいそのない脳筋のうきんゴリラ女め。まあいい、私は私で勝手に進めるさ」


 マドクは庭を去っていく。


「はぁ、やっぱあいつめんどくせえ性格してるな……ん?」




 ルガルは庭に隣接りんせつした建物から誰かが出てくるのに気づく。現れたのは柔和にゅうわな顔つきで、毛先がハネたセンターパートの黒髪くろかみの青年――モリオカタウンでカリオ達と一時行動を共にしていた、ウド・エバッバだ。


「ルガルさんただいま。イルタさんは……寝てるのかな」

「出かけてたのか『シャマス』」


 ウド・エバッバと名乗っていた青年――「シャマス」はルガルを見てにこやかに笑顔を作る。


「はい、外に出てみて正解でした。取り敢えず言語は問題なさそうだし、地理的な問題はどこかで書物なりデータなり手に入れれば何とかなるか……」


 あごに手をやって考えるシャマスを見て、ルガルが聞く。


「お前はお前で外でやりたい事でもあるのか?」


 シャマスはルガルの方へ向いて、また笑顔で答える。


「まだ決めていません。ズルいようですけど皆さんの様子見ながらゆっくり考えようかなって」

「なるほどズルいな」


 ルガルはそう言って笑う。




「シャマス」


 離れた場所からイルタがシャマスを呼ぶ。


「起きてたんですねイルタさん」

「外、何か面白そうな話はあったか?」


 シャマスは上を見上げて少し考える。


「イルタさんが面白がりそうな話かぁ。新しい賞金首の話もあったけどアレは雑魚ざこ過ぎてダメだろうし……なんか右翼うよくっぽい武装組織ぶそうそしきの動きが怪しいみたいなうわさぐらいかな、聞いたのは……あ!」


 そこまで話して急に何かを思い出したのか、シャマスは手をパン、と叩いて鳴らした。


美味おいしいイタリアンの店、調べてきたんだった! データ渡しますよイルタさん」

「ホントか」


 イルタは体を起こしてシャマスの方を向く。顔は無表情むひょうじょうのままだが、喜んでいるであろうことはシャマスにも伝わった。


「礼を言う。私からも今度何か用意しよう」

「いいんですよそんなの。それよりそんなところで寝落ちしないように気をつけてくださいね。風邪かぜ引きますよ?」


 シャマスはデータの入った小さなデバイスをイルタに手渡す。イルタはデバイスを指先で回しながら見つめ、もう一度シャマスに礼を言った。


「シャマスも少し休むといい。まだ起きてからそれほど時間がってないだろう」

「ええ、少し庭でのんびりしてから一寝入りします」




 部屋に戻るイルタを見送ると、シャマスは草の上に腰を下ろす。


「あの丸刈まるがりの人達、大丈夫だいじょうぶだったかなぁ。……まぁいっか、死んでても。どうせこれから僕達ぼくたちのせいで沢山たくさん死ぬだろうし」


 シャマスはそのまま仰向あおむけに寝転がり、しばらく、見えない空を見上げていた。




霊魂れいこんのねぐら、うろつく咎人とがびと おわり)

(第一部終章 マヨ・ポテトの災難EX へ続く)

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