◇ ◇ ◇
キョァアアア!!
甲高い咆哮が大地と空を震わせる。鋭い角と爪、蝙蝠のような翼を持った巨大なトカゲのような顔をした生物――ワイバーン。十五メートル近くあるその巨体の胸を、ビームが貫いていた。
ビームを撃ったビッグスーツ、コイカルのコックピットでニッケル・ムデンカイはふぅ、と息を吐く。
「ったく手こずらせやが……うお!?」
ニッケルはビームライフルを構え直す。ワイバーンは胸にあいた穴から紫色の血を流しながらも、咆哮を上げながらニッケルのコイカルに噛みつかんと首を伸ばしてくる。
「この!」
ワイバーンの横からカリオ・ボーズの乗ったクロジが、ビームソードで斬りかかる。
真っ向!
縦に振り下ろされた斬撃が、ワイバーンの首を斬り落とす! 即死したワイバーンがうつ伏せに崩れ落ちると同時に、カリオはニッケルの隣に着地する。
キョァアアア! キョァアアア!
二人の前方から、先ほどの個体より一回り小さい二匹のワイバーンが飛来する!
ガァン! ガァン!
独特の発射音と共に放たれた、緑色のビームが二匹のワイバーンの胸を貫く! 心臓を貫かれた二匹のワイバーンは即死し地面に墜落、砂埃をあげながら二十メートルほど滑って行き、そのまま動かなくなった。
「よし、片付いたね」
二匹のワイバーンを仕留めたのは、カリオとニッケルのいる位置より一キロメートルほど離れた位置で、ビームスナイパーライフルを構えるもう一機のコイカルだ。そのコックピットでリンコ・リンゴはゆっくり息を吐いて体の力を抜いた。
「レトリバー、ワイバーン九匹の掃討は完了した。クライアントへの連絡を頼む。……ああ、そうだ。クライアントの確認が終わるまで俺達はここで待機する」
ニッケルがレトリバーのブリッジへ任務完了の報告を入れる。
レトリバーの三人の傭兵が請け負ったのは、テエリク大陸の東部、キクチシティの自治体からの依頼だ。街の近くで目撃されたワイバーン九匹の討伐。それが任務の内容だ。
「すぐ近くにいるんだよね? クライアントさん」
リンコは周囲の安全を確認すると、脳波コントロールをオフにする。自身の体が動くようになると、両手を上に上げて大きく伸びをした。
「俺らの動きが把握できるくらいの場所にはいるだろ。雇った傭兵が前金だけぶん取って逃げやがったらたまったもんじゃねえしな」
「私ら信用ないね~」
「照れるよな」
ニッケルも笑いながら脳波コントロールをオフにし、水筒を手に取って水を一口飲む。
「……む」
「……? カリオ、どうした?」
動きを止めたニッケルのコイカルの横で、カリオはクロジの腕を片方、ぐるぐると回す。
「む。ちょっと動きが悪いかもしれん。俺のクロジ」
「マジか。ワンオフ機やら億単位の賞金首やらとの激戦続きだったからなぁ……ガッツリ見てもらった方がいいだろ」
「タックに頼んでみるか……でもあまり傷んでいるようだったら金が足りねえかも」
少しクロジの調子を確認した後、カリオも脳波コントロールをオフにして休息を取る。十分も経たないうちに、クライアントの地上艦と、護衛の車列が現場に到着した。
◇ ◇ ◇
「達成報酬、確かに受け取った」
「ありがとうございました。これほどスムーズに対処していただけるとは」
レトリバーの応接室、艦長のカソック・ピストンはクライアントのキクチシティ自治体職員、ノヒト・ヤクバと握手を交わす。
「もう一度、そちらの街に寄港してもいいかい? クルー達を労ってやりてえんだ」
「もちろんですとも。いくつかおいしいお店を紹介しますよ」
無事に後処理も終わり、応接室で歓談するカソックとノヒトの横に、クルーカットの長身の男が微動だにせず立っている。
「エンブン、おまえもどこかオススメの場所はないか」
ノヒトに声を掛けられたその男――エンブン・トリスギは小さくため息をつくと、無愛想に答える。
「すみません。業務関係で立ち寄る場所以外、特に遊びに行ったりすることもないものでして」
冷たい調子の声に、カソックは少し戸惑いの表情を見せる。慌ててノヒトが声を落として、謝る。
「申し訳ございません。エンブンの奴、優秀な人間ではあるのですがどうも礼儀を忘れることが度々《たびたび》ありまして……」
カソックはノヒトがそう話すのを聞くと「気にしてないよ」と声をかけ、慌てる彼を落ち着かせる。
応接室の近く、任務を終えてシャワーを浴びたカリオは自室に戻ろうと廊下を歩く。途中でうろちょろしていたマヨ・ポテトが合流、手に持った枝の先にマキグソの形のオブジェが取り付けられた玩具で、カリオを突っつきながらついてくる。
「このおもちゃ、ここの街にも売ってますかねカリオ」
「そのウンコ増やす必要ねえだろ……買わねえからな」
タオルを首にかけたカリオは、やや引き気味でツッコミを入れる。
カリオ達の前方、応接室の扉からカソック、ノヒト、エンブンが出てくる。カリオはクライアントのノヒト達に会釈した。
「夕飯は街で食おう。ノヒトさんが上手い店を教えてくれた」
「わかった、俺は少しだけ部屋で寝る」
カリオとカソック、ノヒトが会話をする様子を、マヨが下から見上げている。
そのマヨの顔を見たエンブンは驚きのあまり目を丸くしてしまう。
(まさか……こんなところで!? いや……特徴が一致しているだけで別人の可能性もある)
「すみません。三区の工事の件で急な連絡が来ていますので少し外します」
平静を装い、そうノヒトに伝えると、エンブンは彼らから数メートル離れて通信端末でテキストを打ち込む。
(……重要標的のリストを確認したい。対象を発見した可能性がある……子供、性別はおそらく女、黒髪……)
(マヨ・ポテトの災難EX② へ続く)