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マヨ・ポテトの災難EX②




 ◇ ◇ ◇




 勝色かついろまった夜空に幾千いくせんもの星がまたたき、大きさの違う二つの月がくっきりと見える。


 キクチシティ、地上艦停泊所ちじょうかんていはくじょ


 街で夕食を済ませたレトリバーのクルー達は艦に戻り、各々《おのおの》自由に夜を過ごしていた。




「カリオ~。カリオ~いますか~」


 自室のベッドで寝転ねころがっていたカリオは体を起こす。ドンドンドンとざつにドアがノックされる。顔を見なくても来訪者らいほうしゃの正体はわかる。


「おい、もうちょい静かにノックしろ」


 自室のドアを開けるなり、カリオは視線を下に落とし、そこにいるマヨをにらむ。マヨは両手でストローのささった小さなびんを持っている。


「マロンナおばさんがシャボン玉作ってくれました! やりましょうぞやりましょうぞ!」

「マジか~……明日にしねえか? 今日はまあまあつかれたぞ」


 カリオの気の抜けた顔を見て、マヨはビッと右手の人差し指を立てて言い放つ。


「古代のことわざ知ってますかカリオ。『急がば回れ』」

「難しい言葉知ってるのはめてやるが、この場合『ぜんいそげ』な? ってかこの時間、お前そろそろた方がいいだろ」


 ほっぺをふくらませて、むくれるマヨの頭に、カリオはあきれながらポン、と手を乗せる。


「明日朝メシ食った後で付き合ってやるから、今日はもう寝ろ。ほら、部屋に送ってやるから」




 ◇ ◇ ◇




 テエリク大陸西部の荒野。




「カーッ! シケてやがるぜ!」

「いい加減切り替えろよ、グチグチ言ってたってしょうがねえだろうがよ」


 夜の荒野を砂埃すなぼこりを上げながら、ビッグスーツや人型戦車はせられなさそうな、小さな地上艦が灯りをつけて走る。


「アイツ、明らかに買値かいね下げてきてねえか?」

「まあその辺りあやしいのはそれはそう。だから今、良さそうな取引先探してんだよ。こうやってペラペラいたんだ紙めくって」


 自動車の車内より少し広い程度のブリッジで、太り気味の男と細身の口ひげの男が会話している。二人は廃品回収業者はいひんかいしゅうぎょうしゃだ。街で人から買い取ったり、破壊された兵器などからあさって手に入れた廃品を企業などに売って生計を立てている。


「この流れ、なんか負のループに入ってねえか? 新しい取引先が出来たと思ったら足元見られて、それで別の取引先に乗りえたらまた……」

「それを言うんじゃねえ! 口に出すとまた……おい、アレ見えるか?」


 細身の男が突然前を指さす。太り気味の男が目を細めて、ライトで照らされた先を見ると、岩とは違う大きな何かの塊が見える。太り気味の男は地上艦の速度を落としていく。


「前にこの辺り通った時にあんなのあったか? 土に埋もれていたとか?」

「……あれ、船かなんかじゃねえのか?」


 地上艦が停止する。




 その目の前に現れたのは、ロケットのような形をした金属の乗り物の残骸ざんがいだった。




 ◇ ◇ ◇





 カリオの意識は眠りの底に落ちていた。


 クルーのほとんどが寝静ねしずまった地上艦は静かだ。廊下ろうかあかりもロウソクのようにつつましい。


 ……――……


 何かが朝まで帰ってこないはずの意識を呼び戻す。覚醒したおぼろげな思考が、暗闇の中で何かをとらえる。カリオは目をつむったままうなり、寝返りを打つ。


 ……! ……!


 カリオは再び低く唸る。これは、音だ。


 ……タタタ! タタタタタタ!


 目を瞑った暗闇の中、聞き覚えのある音が呼ぶ。銃声じゅうせい


「……!」


 カリオはまぶたをぱちりと開けて、ベッドから起き上がる。




 タタタタタタ! タタタタタタ!




 銃声! そう遠くない場所で戦闘が行われている!


 カリオは自室を飛び出してまず艦内の状況を把握はあくしようとする。数秒も経たないうちに、その廊下ろうかの奥からニッケルが早歩きでやってきた。


「カリオ! ちょうど起こしに行こうと思っていたところだ! 聞いたか、銃声」

「ああ。でも今起きたところで何もわからねえ。外だよな?」

「俺もわからねえ。とにかく俺は上の階を見てくる……お、リンコも起きたか。二人は万が一に備えて格納庫かくのうこへ」


 リンコが部屋から頭を出して廊下をのぞく。彼女とカリオに指示を出したニッケルは上階へとまた早歩きで進んでいく。


「二人とも起きてんじゃん、もしかしてヤバいの?」

「俺も起きたばかりでわかんねえ、ニッケルの言う通り格納庫へ行こう……あ」

「あ……マヨだよね? 部屋から出ないように言っておかないと」


 リンコとカリオが話していたところに、ふくよかな女性がやってくる。レトリバーの料理長、マロンナ・モンブラだ。


「二人とも出るのかい? あぶなそうな感じだねえ」

「まだわからねえが……おばさん、危ないから部屋で待機しててくれ。マヨにも言ってやらねえと」

「子供一人じゃ少し不安でしょ、私がマヨちゃんの部屋に行って二人で待っておくのはどうだい?」


 カリオとリンコはうなずいて、マロンナの提案ていあんを受け入れる。にわかにさわがしくなる船内。二人は格納庫へ速足はやあしで向かっていく。




 ◇ ◇ ◇




 ダダダダダ! ダダダダダ!




 キクチシティから一キロメートルほどしかはなれていない荒野では、三十機以上のビッグスーツが入り乱れる戦いが発生していた。片方はキクチシティの治安部隊ちあんぶたい。もう片方は所属不明しょぞくふめい襲撃者達しゅうげきしゃたち


 ダダダダダ! ダダダダ!


 その後方で、白い船体に緑色みどりいろのアクセントカラーを入れた地上艦が待機たいきしている。ブリッジではブロンドのかみをオールバックに整えた、四角メガネの男が前方の戦場をながめている。


「……手間取っているな。私も出る」

「コレスさん!? で、出るんですか!?」

標的ひょうてき傭兵ようへいが保護しているのだろう? 治安部隊に手間取っていては後の戦闘にひびく」


 驚く地上艦の艦長にそう答えると、「コレス」と呼ばれた四角メガネの男はブリッジから格納庫へ向かっていった。




(マヨ・ポテトの災難EX③ へ続く)

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