◇ ◇ ◇
「よし、もう出られる!」
「急かして悪いなタック!」
「構わねえ! こんな時間に騒ぐ近所迷惑なバカをぶっ叩いてこい!」
レトリバーの格納庫では大きな声が飛び交う中、三機のビッグスーツの発進準備が完了する。発生している戦闘の詳細はわからないが、キクチシティ側から入ってきた情報から推測すると街、もしくはその中にある何かを狙った襲撃の可能性が高い。
「一番機、ニッケル、出るぞ!」
「二番機、リンコ、行くよ!」
二機のコイカルが格納庫から飛び出す。カリオのクロジもハンガーから歩き出し、出入り口に立つ。円形アイカメラが夜の荒野を見据えて、光る。
「三番機、カリオ、出る!」
勢いよく飛び出すクロジ、カリオは腰のビームソードの柄に手を添えた。
◇ ◇ ◇
ダダダダダ! ダダダダダ!
「クソ、妙に動きがいい!」
治安部隊の青いビッグスーツが、白いビッグスーツへ向けてサブマシンガンを連射する。白いビッグスーツは機体の高さの半分ほどのシールドを前方に構えると、それでマシンガンの弾を受けながら、治安部隊の機体との間合いを一気に詰める。
「まずい! 避け……」
治安部隊の隊員は回避動作を取ろうとするが間に合わない。白い機体の右手のヒートソードが青い機体のコックピットを貫く。
「ダニーもやられたチクショウ!」
「釣り出されるな! 陣形を立て直す!」
治安部隊の機体達が一歩引こうとすると、複数の白い機体は逃すまいと、散開して左右から囲もうとに高速移動し始める。
(判断が早い、集団戦に慣れてやがる!)
お互いに銃口を向け合ったその時――
ガァン!
遠方から緑色のビームが飛来し、白い機体のコックピットを貫く! リンコの狙撃だ。
バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!
続けざまに四発の緑色のビームが、きっちり四機の白い機体のコックピットを貫く。ニッケルのビームライフルと、楔型浮遊砲台「チョーク」による攻撃だ。
「ちょっと待て、こいつら――」
ニッケルが敵機を見て眉をひそめる。スコープ越しに敵機を確認したリンコも同様である。
「これって……共和国軍!? こいつらが乗ってるの、クロジだよね!?」
二人が困惑した理由は襲撃者の駆る機体にあった。彼らの乗っている機体はカリオの乗っているモノと同じ、ホージロ社製の「クロジ」。特殊な改造を施されたカリオの機体とは装備や細部が異なるが間違いない。その機体色は白。白のクロジはケーワコグ共和国軍で用いられていた中でも特に多かった機体と色の組み合わせだ。
ブォン!
青く光るカリオのビームソードが、一機の白いクロジを水平に真っ二つにする。
(共和国軍の残党……? なんだってこんな街を襲おうとしてやがんだ?)
二機の白いクロジがヒートソードを振りかぶり、カリオの黒いクロジに飛び掛かる。
ブォン! ブォン!
日本の青い光の筋が宙を走り、二機の白いクロジを斬り伏せる。
「助かるぜアンタ!」
治安部隊の一人からカリオへ音声通信が届く。
「襲われる心当たりは?」
「わからん! 近頃は盗賊も近くで見てねえし、大体白い機体に狙われるなんて……キクチシティは終戦間際まで共和国領だった街だぞ!?」
カリオの問いに治安部隊員はそう返す。しかしのんびり通話している間もなく、また白いクロジが三機、カリオに向かって間合いを詰めてくる。
(チッ、考えるのはコイツら全部ぶちのめしてからにするか!)
ブォン! バシュゥ! ガァン!
三機の敵機のうち、一機はカリオのビームソードで真っ二つになり、一機はニッケルのチョークの射撃でコックピットを射抜かれ、最後の一機もリンコの狙撃で胸部に風穴をあけられ、倒れた。
「例の傭兵達か、一瞬で我らの部隊が半数以下に……!」
優勢を保っていたはずの白い機体の群れは、一瞬で形勢が逆転する様を目の当たりにし、態勢を立て直そうと引き始める。
「逃がすか!」
ニッケルが跳躍して追おうとした時である。
ボシュゥ!
「!?」
太い紫色のビームが飛来する! ニッケルは慌てて機体を傾け、回避動作を取る。高出力のビームがニッケルのコイカルのすぐ右側を通っていく。
「正面からの射撃……新手か!?」
ニッケルは前方から飛来する機体を見据える。他のクロジと同じく機体色は白。
(友軍識別信号なし、普通に考えたら敵側の増援だけど……)
後方で構えるリンコは照準を新たに飛来した機体に合わせる。白い機体だがクロジではない。クロジやコイカルと比べると一回り小さく、滑らかな曲面を描く装甲が特徴的な機体だ。
ライフルとシールドという、シンプルな装備をした小さな機体は、白いクロジの群れの前方に着地する。その百メートル弱前方に立つカリオは、ビームソードを構えて小さな機体を睨む。
その時だった。
「その珍妙なビームソードだけのクロジ……色は変わったが、まさかカリオ・ボーズか?」
カリオはコックピットのスピーカーから発せられたその声を聞いて、目を丸くする。そしてその表情はみるみるうちに険しくなっていく。
「おまえ……コレス……コレス・T・アクダマか」
カリオが発したその少し震えた低い声からは、強い憎悪が滲み出ていた。小さな機体のコックピットで、ブロンドの髪をオールバックに整え、四角いフレームの眼鏡をした男――コレス・T・アクダマは僅かに口角を吊り上げる。
「まさかあの子供を匿っているのが貴様とはな。三流映画を思わせる、強引なドラマチック展開じゃないか」
「子供だと?」
カリオはコレスのその言葉に反応する。
「マヨの事か?」
コレスはカリオがそう問うのを聞くと、一転無表情になり、ズレた眼鏡を上げる。
「かつての上官に対して随分無礼な態度だな。そうか、マヨ・ポテト……確かそうだったな。おまえの……あのふざけた女が標的の子供に付けた名前は」
「……標的? ふざけた女?」
カリオはこみ上げる怒りを必死で抑えながら、コレスの言葉を聞き続ける。
「……そういえばおまえは、そこまで詳しくは知らないのか」
コレスはため息をつくと、淡々《たんたん》とカリオにこう言った。
「マヨ・ポテトと名乗るその子供は、『イニスアの囚人・シャマス』の妹――エシュル。古代イニスア文明の民だ」
(マヨ・ポテトの災難EX④ へ続く)