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マヨ・ポテトの災難EX④




 ◇ ◇ ◇




「んあ……」

「マヨちゃん、ねむかったらてもいいのよ。私が見てるから」


 まくらかかえてベッドで寝転ねころがるマヨに、横ですわるマロンナは優しく言葉をかける。


「……ぶるる! カリオ達帰って来るまで起きてるです……というか寝られねえです」

「あらま、しょうがないね。じゃ、明日は少しお寝坊ねぼうさんしちゃおっか」


 マロンナはマヨの肩をポンポンとやさしくたたく。


(……平気そうに見えて、子供こどもにはキツイ状況よね。早くカリオ達が解決してくれるといいんだけど)




 ◇ ◇ ◇




「……聞いたか今の」


 ニッケルがリンコに問う。


「マヨ、が……えーと、ちょっと待って、イニスア?」


 二人は緊張感きいんちょうかんが体をつたうのを感じながら、後方でカリオとコレスの様子を見守る。




「イニスアの……囚人しゅうじん?」

「お前のようなでも聞いたことはあるだろう。古代イニスア文明の七人の大罪人だいざいにん……アレは御伽話おとぎばなしの中の話ではなく、現実に存在するモノなのだよ。まあそれ以上説明する気はないが――とにかく」


 コレスはビームライフルの銃口じゅうこうをカリオに向ける。


「エシュル――マヨ・ポテトはこちらに渡してもらう」

「ふざけるな」


 カリオのビームソードをにぎる手に、無意識むいしきのうちに力が入る。


「……礼儀れいぎ教養きょうようもない若者。あの女といい、お前といい、二年前もそうだったがつくづくがたいな」

「……てめえ、さっきから言っているのは……ルースのこと言ってんじゃねえだろうな」


 怒気どきのこもったカリオの問いかけに、コレスは再びわざとらしくため息をつくと、言い放った。


「……その馬鹿ばか女の他に誰がいる」






 ドン!




 いかりのままにみつけたカリオのクロジの足が、地面をえぐる。土が舞い上がるより速く、カリオのビームソード「青月せいげつ」の一閃いっせんがコレスの機体をとらえる。


 袈裟斬けさぎり!


「……!?」


 ビームソードをり切ったカリオは跳躍ちょうやくし、コレスと距離を取る。おかしい。


(手ごたえがない……アイツもノーダメージだ。外した?)




 ガァン!




 「!!」


 遠方から高出力のビームが飛来し、コレスの機体に直撃ちょくげきする。


「――ねえ、ってから聞くのもなんだけどさ、そいつがカリオの――二年前のホシノタウンの。そいつなんだよね?」


 コックピットで頭の付近に配置された、狙撃そげき用スコープをのぞく明確な殺意さついがこもったリンコのが、次の瞬間大きく見開みひらかれた。




 狙撃ビームの直撃を受けたはずのコレスの機体が、無傷むきずで立っているのである。




「ウソ、当たったはず……!?」

「……! また面妖めんような!」


 バシュゥ! バシュゥ!


 ニッケルは舌打したうちしながら、二基のチョークで射撃する。だが、やはりこちらも直撃したにも関わらず、コレスの機体にダメージをまるで与えられていない。


冗談じょうだんキツイぜ……どういうからくりだ」

「ビームはかないのさ。あきらめたまえ」


 コレスは口角を上げて見下すように言う。


「この特注とくちゅうの機体――『シトド』には特殊とくしゅな物質で作られた塗料とりょうが使用されていてね。この星のビーム兵器に使われる粒子りゅうし反発はんぱつする物質だ。撃ってきた君達の武器に使われているラカルン粒子はもちろん、カリオ・ボーズのビームソードに使われている『アマイロ粒子』ともね。つまりシトドにビームで攻撃しても、塗料にせっする前にビームがはじかれ、損傷そんしょうを与えられないということさ」


 そこまで自慢じまんげに語ったコレスは、再び無表情に戻る。


「ビームソードの刃は大量の粒子をまとわせたハイパーマイクロボット、エメトで構成されている。ラカルン粒子ではなく、青く光るアマイロ粒子の刃を持つ貴様のけんは前者を使ったモノよりすぐれているだろう。だがその切れ味の差もこのシトドには関係ないこと――おっと、おしゃべりしている間にちょうどいい時間になったかな」




ドォン!




 爆音ばくおんが荒野に鳴りひびく! 音のした方向へカリオ達は注意を向ける。


「おい、あっちは……」

「レトリバーか!?」


 キクチシティの地上艦港からけむりが上がっている!


がくの無い奴は可哀想だな。貴様きさまらも、治安部隊も。こうも簡単に伏兵ふくへいによる奇襲きしゅうを成功させることが出来るとは」

「おいブリッジ! ブリッジ! 聞こえるか! 応答しろ!」


 コレスはわざとあざけるような言葉をカリオ達に浴びせ、優越感ゆうえつかんひたる。ニッケルが慌てて通信を試みるも、大声と騒音そうおんがスピーカーから響くばかりで、中々通信士からの返事が来ない。


「クソッ!!」


 港へぼうとするカリオ。


 ビシュゥ!


「!?」


 だがそのクロジの足元に、コレスのライフルから放たれたビームが着弾する。


「易々《やすやす》と行かせるわけがないだろう。我々《われわれ》『ドーンブレイカー』と貴様ら愚民ぐみんどもとの違い。とくと味わいながら死ね」




 ◇ ◇ ◇




「向こうから入ってきやがったマズい!」

「待て早く銃を持て! らなきゃられるぞ!」

「奥へ逃げろ! じゅう持ってる奴はこっちだ!」


 耳をつんざく警報音けいほうおんと銃声。熱い煙と炎。


 レトリバー艦内は大混乱に陥っていた。最低限の非常時の立ち回りや、銃の扱いなどをクルーは学んでいるが、実際に艦内に乗り込まれたのはこれが初めてであった。


艦長オヤジ! まだ出てきちゃダメだ!」


 廊下ろうかに出てきたカソックを、銃を持ったクルーが怒鳴どなりつける。


「マロンナとマヨは! 誰か見てねえのか!」


 カソックが大きな声でそう聞くと、クルー達の顔にあせりの色が出る。


「おばさんは食堂で見てねえ……二人ともマヨの部屋か!? こっちから逆方向だ!」

「モルモかムスターが近いんじゃないか? アイツらに無線で……うわっ!」


 ダダダダダ!


 全身を特殊装備とくしゅそうびで包んだ数人が、廊下の奥からカソックとクルー達目掛めがけて銃を撃つ!




 今までの旅で最大の危機ききがレトリバーにおそかる。




(マヨ・ポテトの災難⑤ へ続く)



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