◇ ◇ ◇
「んあ……」
「マヨちゃん、眠かったら寝てもいいのよ。私が見てるから」
枕を抱えてベッドで寝転がるマヨに、横で座るマロンナは優しく言葉をかける。
「……ぶるる! カリオ達帰って来るまで起きてるです……というか寝られねえです」
「あらま、しょうがないね。じゃ、明日は少しお寝坊さんしちゃおっか」
マロンナはマヨの肩をポンポンと優しく叩く。
(……平気そうに見えて、子供にはキツイ状況よね。早くカリオ達が解決してくれるといいんだけど)
◇ ◇ ◇
「……聞いたか今の」
ニッケルがリンコに問う。
「マヨ、が……えーと、ちょっと待って、イニスア?」
二人は緊張感が体を伝うのを感じながら、後方でカリオとコレスの様子を見守る。
「イニスアの……囚人?」
「お前のような木っ端でも聞いたことはあるだろう。古代イニスア文明の七人の大罪人……アレは御伽話の中の話ではなく、現実に存在するモノなのだよ。まあそれ以上説明する気はないが――とにかく」
コレスはビームライフルの銃口をカリオに向ける。
「エシュル――マヨ・ポテトはこちらに渡してもらう」
「ふざけるな」
カリオのビームソードを握る手に、無意識のうちに力が入る。
「……礼儀も教養もない若者。あの女といい、お前といい、二年前もそうだったがつくづく度し難いな」
「……てめえ、さっきから言っているのは……ルースのこと言ってんじゃねえだろうな」
怒気のこもったカリオの問いかけに、コレスは再びわざとらしくため息をつくと、言い放った。
「……その馬鹿女の他に誰がいる」
ドン!
怒りのままに踏みつけたカリオのクロジの足が、地面を抉る。土が舞い上がるより速く、カリオのビームソード「青月」の一閃がコレスの機体を捉える。
袈裟斬り!
「……!?」
ビームソードを振り切ったカリオは跳躍し、コレスと距離を取る。おかしい。
(手ごたえがない……アイツもノーダメージだ。外した?)
ガァン!
「!!」
遠方から高出力のビームが飛来し、コレスの機体に直撃する。
「――ねえ、撃ってから聞くのもなんだけどさ、そいつがカリオの――二年前のホシノタウンの。そいつなんだよね?」
コックピットで頭の付近に配置された、狙撃用スコープを覗く明確な殺意がこもったリンコの眼が、次の瞬間大きく見開かれた。
狙撃ビームの直撃を受けたはずのコレスの機体が、無傷で立っているのである。
「ウソ、当たったはず……!?」
「……! また面妖な!」
バシュゥ! バシュゥ!
ニッケルは舌打ちしながら、二基のチョークで射撃する。だが、やはりこちらも直撃したにも関わらず、コレスの機体にダメージをまるで与えられていない。
「冗談キツイぜ……どういうからくりだ」
「ビームは効かないのさ。諦めたまえ」
コレスは口角を上げて見下すように言う。
「この特注の機体――『シトド』には特殊な物質で作られた塗料が使用されていてね。この星のビーム兵器に使われる粒子と反発する物質だ。撃ってきた君達の武器に使われているラカルン粒子はもちろん、カリオ・ボーズのビームソードに使われている『アマイロ粒子』ともね。つまりシトドにビームで攻撃しても、塗料に接する前にビームが弾かれ、損傷を与えられないということさ」
そこまで自慢げに語ったコレスは、再び無表情に戻る。
「ビームソードの刃は大量の粒子を纏わせたハイパーマイクロボット、エメトで構成されている。ラカルン粒子ではなく、青く光るアマイロ粒子の刃を持つ貴様の剣は前者を使ったモノより優れているだろう。だがその切れ味の差もこのシトドには関係ないこと――おっと、お喋りしている間にちょうどいい時間になったかな」
ドォン!
爆音が荒野に鳴り響く! 音のした方向へカリオ達は注意を向ける。
「おい、あっちは……」
「レトリバーか!?」
キクチシティの地上艦港から煙が上がっている!
「学の無い奴は可哀想だな。貴様らも、治安部隊も。こうも簡単に伏兵による奇襲を成功させることが出来るとは」
「おいブリッジ! ブリッジ! 聞こえるか! 応答しろ!」
コレスはわざと嘲るような言葉をカリオ達に浴びせ、優越感に浸る。ニッケルが慌てて通信を試みるも、大声と騒音がスピーカーから響くばかりで、中々通信士からの返事が来ない。
「クソッ!!」
港へ跳ぼうとするカリオ。
ビシュゥ!
「!?」
だがそのクロジの足元に、コレスのライフルから放たれたビームが着弾する。
「易々《やすやす》と行かせるわけがないだろう。我々《われわれ》『ドーンブレイカー』と貴様ら愚民どもとの違い。とくと味わいながら死ね」
◇ ◇ ◇
「向こうから入ってきやがったマズい!」
「待て早く銃を持て! 殺らなきゃ殺られるぞ!」
「奥へ逃げろ! 銃持ってる奴はこっちだ!」
耳をつんざく警報音と銃声。熱い煙と炎。
レトリバー艦内は大混乱に陥っていた。最低限の非常時の立ち回りや、銃の扱いなどをクルーは学んでいるが、実際に艦内に乗り込まれたのはこれが初めてであった。
「艦長! まだ出てきちゃダメだ!」
廊下に出てきたカソックを、銃を持ったクルーが怒鳴りつける。
「マロンナとマヨは! 誰か見てねえのか!」
カソックが大きな声でそう聞くと、クルー達の顔に焦りの色が出る。
「おばさんは食堂で見てねえ……二人ともマヨの部屋か!? こっちから逆方向だ!」
「モルモかムスターが近いんじゃないか? アイツらに無線で……うわっ!」
ダダダダダ!
全身を特殊装備で包んだ数人が、廊下の奥からカソックとクルー達目掛けて銃を撃つ!
今までの旅で最大の危機がレトリバーに襲い掛かる。
(マヨ・ポテトの災難⑤ へ続く)