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マヨ・ポテトの災難EX⑤




 ◇ ◇ ◇




「おおおおお!」


 横一文字よこいちもんじ! こう! 逆袈裟ぎゃくけさ! 逆水平! 逆真っ向! 袈裟斬けさぎり! 逆水平!    

横一文字! 袈裟斬り! 逆袈裟! 袈裟斬り! 逆真っ向! 真っ向!


 カリオは連続でいくつもの斬撃ざんげきを、コレスのシトドにびせる。


「……ふむ、私としても想定以上そうていいじょうにいい性能だなこれは」


 だが、シトドの装甲そうこうには小さくげ目がついただけで、ほとんどダメージを与えることが出来ない。コレスはその防御力ぼうぎょりょくに満足した様子で、愉快ゆかいそうにカリオが攻撃してくるのを眺めている。




「カリオ! そいつは後回あとまわしだ! 先に周りの白クロジを……」


 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


「!!」


 カリオに呼びかけるニッケルのコイカルに向かって、複数の白いクロジがビームライフルを連射する! ニッケルはシールドをかざしながら、後方へ蛇行移動してこれをしのぐ。一方、攻撃した側である白いクロジ達も同じように後ろへ下がっていく。


「逃がさない! ……ってヤバッ!」


 引いていく白いクロジ達を狙撃そげきしようとしたリンコが、スコープから目を離し、後方へ飛び退く。


 ドドォン!


 直後、先ほどまでリンコがいた場所にミサイルが着弾した!


遠距離兵装えんきょりへいそう後詰ごづめ……! こんな時に!」


 リンコははるか前方を見やる。彼女達がいる主戦場しゅせんじょうより二キロメートル離れた位置から、ミサイル砲台ほうだい複数搭載ふくすうとうさいした武装地上艦ぶそうちじょうかんが一いっせき、攻撃してきたのだ。


「随分戦力持ってるなおい! このままだとレトリバーが……!」 




 逆袈裟! 袈裟斬り! 横一文字!


(コイツは、コイツだけは!)


 何度斬りつけてもシトドの装甲そうこうを満足に傷つけることが出来ない。しびれを切らしたカリオはビームソードのつか充填部じゅうてんぶ接続せつぞく、〝納刀のうとう〟して一呼吸置ひとこきゅうくと、強くみ込んで〝抜刀ばっとう〟する。




 ギャギギィン!




 ちゅうに三本の青い閃光せんこうが大の字に走る! ウキヨエ流居合術いあいじゅつ一瞬三斬いっしゅんさんざんダイモンジ!




「……それがウキヨエ流とかいう流派りゅうは剣術けんじゅつか」


 ――コレスの乗ったシトドは、ダイモンジの三つの斬撃を胴体どうたいじかに受けてなお、無傷でいる。


(クソ……クソッ……コイツだけは……コイツだけは!)


 個人の戦闘技術という点では、コレスよりカリオの方が圧倒的あっとうてきに上である。シトドにほどこされた塗料とりょうの技術は、その実力差を易々《やすやす》とくつがえすものだった。カリオが斬りつけるたびに、塗料と接触せっしょくしたビームソードのやいばゆがみ、宙に粉状こなじょうの青い光が舞う。




「コレスさん、標的ひょうてき――エシュルの確保かくほに成功。敵艦から退避たいひします」

「よろしい。最後までかりの無いように」


 部下からの通信で報告を受けたコレスは、カリオの斬撃をシールドで受けると、ビームライフルでカリオのクロジをなぐりつけた。


「ぐっ!」


 クロジの頭部を殴られ、カリオはしりもちをつく。


「もう時間かせぎの必要はなさそうだ。お前みたいな奴の相手はつかれる。これにりて二度と私にかかわらないでもらいたいね」

「てめえ、マヨを……」

「殺しはしないさ。お前とちがって使い道があるんだ。じゃあな」


 コレスは円筒状えんとうじょうの物体を軽く投げる。その物体から大量の白いけむりが発生する。煙幕えんまくだ。


「コレス! 待て!」

「待てカリオ! レトリバーに仕掛けてきた敵が動いている!」


 呼び止めるニッケルの声に、カリオは動きを止める。歯を食いしばり、あふれそうになる激情げきじょうを抑えつけながら、レトリバーの方へと向きを変える。




「レトリバーの近くから離れていくかんがある! アレを追わねえと――」

「――ニッケル……ニッケル! すまねえ、すぐ応答できなくて!」


 あせりをかくしきれないニッケルに、ようやく通信士から返事が返って来る。


「インコ! 無事ぶじか! すまねえ俺達がいながら」

「ニッケル……すまねえ、すまねえ!」


 通信士――インコは無精ぶしょうひげの生えた顔をなみだでぐしゃぐしゃにしながら、マイク越しにニッケルに話しかける。


「モルモとハリネが……死んじまった……銃で、撃たれて、血止まんなくて……! 怪我けが人も沢山出て……ヤムさんと医療いりょうスタッフが治療ちりょうしてくれてるけど、どうなるかわからねえって……おばさんも危ないかもしれねえんだ……」

「おばさんって、マロンナおばさんか!?」

「マヨと一緒の部屋にいて……守ろうとしたんだと思う……部屋に駆けつけた時は血まみれで……マヨはもう、いなくて……マヨまでいなくなって、クソッ」


 インコがすすり泣きながら必死でしぼり出す声をスピーカーしに聞いて、ニッケルのあつくなっていた頭がえていく。回り始めた頭で必死に考える。




「……カリオ、リンコ。追跡ついせきはしない。レトリバーへ戻ろう」


 ニッケルは静かな声でカリオとリンコにそう提案した。


「追わねえのかよ!」

「……」


 カリオの怒声どせいが聞こえてきても、ニッケルは言葉を発しなかった。彼の心情しんじょうさっしたカリオは、あらい息をととのええ直し落ち着こうとする。


「……いや……すまねえ。ニッケルに当たっちまった……でも……マヨは……」


「……コレスとかいうやつの言う通り、すぐに殺されることはないだろう。殺すつもりなら今さっき出来たはずだ」

「レトリバーのみんなが気になる……そっちも急がないと取り返しのつかないことになるかも」


 リンコも強い鼓動こどうおさえるように深呼吸して、言葉を絞り出す。 


 ――カリオはビーム刃を消すと、つかこし充填部じゅうてんぶに接続する。


「――レトリバーへ戻ろう。もう誰も死なせたくねえ」




(マヨ・ポテトの災難EX⑥ へ続く)

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