◇ ◇ ◇
「おおおおお!」
横一文字! 真っ向! 逆袈裟! 逆水平! 逆真っ向! 袈裟斬り! 逆水平!
横一文字! 袈裟斬り! 逆袈裟! 袈裟斬り! 逆真っ向! 真っ向!
カリオは連続でいくつもの斬撃を、コレスのシトドに浴びせる。
「……ふむ、私としても想定以上にいい性能だなこれは」
だが、シトドの装甲には小さく焦げ目がついただけで、殆どダメージを与えることが出来ない。コレスはその防御力に満足した様子で、愉快そうにカリオが攻撃してくるのを眺めている。
「カリオ! そいつは後回しだ! 先に周りの白クロジを……」
バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!
「!!」
カリオに呼びかけるニッケルのコイカルに向かって、複数の白いクロジがビームライフルを連射する! ニッケルはシールドをかざしながら、後方へ蛇行移動してこれを凌ぐ。一方、攻撃した側である白いクロジ達も同じように後ろへ下がっていく。
「逃がさない! ……ってヤバッ!」
引いていく白いクロジ達を狙撃しようとしたリンコが、スコープから目を離し、後方へ飛び退く。
ドドォン!
直後、先ほどまでリンコがいた場所にミサイルが着弾した!
「遠距離兵装の後詰め……! こんな時に!」
リンコは遥か前方を見やる。彼女達がいる主戦場より二キロメートル離れた位置から、ミサイル砲台を複数搭載した武装地上艦が一隻、攻撃してきたのだ。
「随分戦力持ってるなおい! このままだとレトリバーが……!」
逆袈裟! 袈裟斬り! 横一文字!
(コイツは、コイツだけは!)
何度斬りつけてもシトドの装甲を満足に傷つけることが出来ない。痺れを切らしたカリオはビームソードの柄を充填部に接続、〝納刀〟して一呼吸置くと、強く踏み込んで〝抜刀〟する。
ギャギギィン!
宙に三本の青い閃光が大の字に走る! ウキヨエ流居合術・一瞬三斬ダイモンジ!
「……それがウキヨエ流とかいう流派の剣術か」
――コレスの乗ったシトドは、ダイモンジの三つの斬撃を胴体に直に受けてなお、無傷でいる。
(クソ……クソッ……コイツだけは……コイツだけは!)
個人の戦闘技術という点では、コレスよりカリオの方が圧倒的に上である。シトドに施された塗料の技術は、その実力差を易々《やすやす》と覆すものだった。カリオが斬りつける度に、塗料と接触したビームソードの刃が歪み、宙に粉状の青い光が舞う。
「コレスさん、標的――エシュルの確保に成功。敵艦から退避します」
「よろしい。最後まで抜かりの無いように」
部下からの通信で報告を受けたコレスは、カリオの斬撃をシールドで受けると、ビームライフルでカリオのクロジを殴りつけた。
「ぐっ!」
クロジの頭部を殴られ、カリオは尻もちをつく。
「もう時間稼ぎの必要はなさそうだ。お前みたいな奴の相手は疲れる。これに懲りて二度と私に関わらないでもらいたいね」
「てめえ、マヨを……」
「殺しはしないさ。お前と違って使い道があるんだ。じゃあな」
コレスは円筒状の物体を軽く投げる。その物体から大量の白い煙が発生する。煙幕だ。
「コレス! 待て!」
「待てカリオ! レトリバーに仕掛けてきた敵が動いている!」
呼び止めるニッケルの声に、カリオは動きを止める。歯を食いしばり、溢れそうになる激情を抑えつけながら、レトリバーの方へと向きを変える。
「レトリバーの近くから離れていく艦がある! アレを追わねえと――」
「――ニッケル……ニッケル! すまねえ、すぐ応答できなくて!」
焦りを隠しきれないニッケルに、ようやく通信士から返事が返って来る。
「インコ! 無事か! すまねえ俺達がいながら」
「ニッケル……すまねえ、すまねえ!」
通信士――インコは無精ひげの生えた顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、マイク越しにニッケルに話しかける。
「モルモとハリネが……死んじまった……銃で、撃たれて、血止まんなくて……! 怪我人も沢山出て……ヤムさんと医療スタッフが治療してくれてるけど、どうなるかわからねえって……おばさんも危ないかもしれねえんだ……」
「おばさんって、マロンナおばさんか!?」
「マヨと一緒の部屋にいて……守ろうとしたんだと思う……部屋に駆けつけた時は血まみれで……マヨはもう、いなくて……マヨまでいなくなって、クソッ」
インコがすすり泣きながら必死で絞り出す声をスピーカー越しに聞いて、ニッケルの熱くなっていた頭が冷えていく。回り始めた頭で必死に考える。
「……カリオ、リンコ。追跡はしない。レトリバーへ戻ろう」
ニッケルは静かな声でカリオとリンコにそう提案した。
「追わねえのかよ!」
「……」
カリオの怒声が聞こえてきても、ニッケルは言葉を発しなかった。彼の心情を察したカリオは、荒い息を整え直し落ち着こうとする。
「……いや……すまねえ。ニッケルに当たっちまった……でも……マヨは……」
「……コレスとかいう奴の言う通り、すぐに殺されることはないだろう。殺すつもりなら今さっき出来たはずだ」
「レトリバーのみんなが気になる……そっちも急がないと取り返しのつかないことになるかも」
リンコも強い鼓動を抑えるように深呼吸して、言葉を絞り出す。
――カリオはビーム刃を消すと、柄を腰の充填部に接続する。
「――レトリバーへ戻ろう。もう誰も死なせたくねえ」
(マヨ・ポテトの災難EX⑥ へ続く)