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マヨ・ポテトの災難EX⑦




 ◆ ◆ ◆




 その大陸は一国がおさめるにはあまりにも大きすぎた


 穴だらけの統治とうちはやがていかりを生み、戦火をまね


 そのあらそいはたった一つの季節きせつの中で終わった


 それでも幾多いくた無辜むこいのちかれ


 いたみは幾千幾万いくせんいくまんむね穿うがった




 ◆ ◆ ◆




「グレネードランチャー?」

「お前も装備そうびしていけってさ」


 マヨ・ポテトがレトリバーに保護ほごされた日からおよそ二年前。ケーワコグ共和国陸軍ホシノタウン駐屯地ちゅうとんち


 軍より支給された白いクロジ。そのハッチが開いたままのコックピットで、シートに座る丸刈まるがりの共和国軍の准尉じゅんい、カリオ・ボーズは、ハッチの横で煙草たばこを吸う年配メカニック――ゴーヤ・タンプルに、今回の任務にんむで使用する装備について聞かされていた。


「……焼夷弾しょういだん(爆発で破壊するのではなく、攻撃対象を燃やすことを目的としたたま) を使うんだと。普通の弾やけんより被害を広げられるからってよ」


 ゴーヤは煙草のけむりを吐いて、気怠けだるそうに言った。カリオは無表情でゴーヤのいた煙をながめている。


「……もうな、首都は陥落かんらくするらしいぞ。そうなったら一気だ。大陸の東側のここも、共和国の旗を降ろすことになる。俺はもう悪あがきはしたくねえ。俺達共和国の人間なんてどこかに消えちまった方が、色々丸くおさまるに決まっている。なのによ、上の連中は、このに及んでお前にそんなモノ持たせて、町をはらえって――」

「俺なら大丈夫だよ」




 カリオはことげに答えた。――つもりだったが、ゴーヤはカリオの顔を指さして、まっすぐに見つめ返す。


「目の下のくまがスゲエんだよお前。うそも下手ならストレスマネジメントもヘタクソだ。いいか、お前らの世代はどいつもこいつも礼儀れいぎだかマナーだか知らねえが、どんな奴に対してもお行儀ぎょうぎよく接しやがって、それがよくねえ。俺が若い時はもっと生意気なまいきだったのによ。そんな生真面目きまじめだと体ぶっつぶしちまうぞ。いいか、本気でおこるやり方と本気でさけ飲んで忘れるやり方、あとは……本気でカミさんにあまえるやり方、そんなところか? おぼえておけ。絶対にだ」


 ゴーヤはさっきより大きく煙を吐くと、忌々《いまいま》しげに口を動かし続ける。


「あのなんで大佐たいさになったのかわからん大佐の言う事なんて、もう聞きたくねえ」


 ゴーヤは急にかなし気な表情になると、武器ぶきハンガーにけられたグレネードランチャーを見つめる。


「……命令にさからえずに、あんなもんお前に持たせようとしてる俺が言えたコトじゃねえな」

「任務が終わったら前行ったトコ……なんだったっけ、『オポッサム・タッチダウン』か。あそこで飲もう」


 カリオはシートから立ち上がり、大きく背伸びをして欠伸あくびをすると、ゴーヤと同じようにグレネードランチャーを見つめる。


「……ミーティング行ってくる」




 ◆ ◆ ◆




「攻撃目標はクマガヤタウンの三カ所――」


  特別大きいわけでもないミーティングルーム、そこでスクリーンに映し出された写真を眺めながら、カリオを含むケーワコグ共和国陸軍第二機動兵機小隊は、大佐であるコレス・Tテロール・アクダマの説明を聞いていた。


「――町の外へ逃走はさせるな。作戦区域に味方部隊以外の生体反応がないことを確認したのち帰還きかんすること」


 攻撃目標として指定されたのは病院二カ所と学校が一カ所だ。共和国軍の攻撃を数日間受け続けて、クマガヤタウンの防衛戦力ぼうえいせんりょくは残り少ない。を見て町の中へ進入する手筈てはずだ。




「なあ、ホントにいるのかよ反乱軍」

「知らん」


 となりに座る兵士――カボチ・パンプキンが聞いてくるのを、カリオはさらっと返した。


「敵兵は市民を盾にするために医療機関いりょうきかんや教育機関などをアジトにする……っていうコレス大佐のいつもの考えだろ」

「……お前、平気そうにしてるけど隈スゲエな。なんだよ俺と同じじゃねえか」


 小声で話す二人に気づいたコレスが冷たい視線しせんを投げかける。


「そこ。言いたいことがあるなら言ったらどうだ」


 威圧感いあつかんのある口調に、カボチは思わず頭を下げてしまう。




「――反乱軍は本当にそこにいるんですか」




 カリオが発した問いかけに対し、コレスのまゆがピクリと動く。カボチ含む他の兵士達は緊張きんちょうした様子で、体はなるべく動かさず視線だけをカリオに向ける。


「ばっ、馬鹿ばか! おまえあおってる風に聞こえるぞ!」

「おまえの代わりに質問してやってるだけだカボチ」


 小声でやり取りするカリオとカボチの方を向き、コレスはかけている眼鏡めがねを指で押し上げる。


「そこはそれほど重要ではない。当たりを引いて反乱軍を殺せればそれもよし、もしいなくとも、共和国の民ならば共和国のために死んでも、何も問題なかろう。我々の言う事を聞かない町なんぞに住んでいるのが悪い。自己責任じこせきにんだ」


 コレスはカリオの座る席の前まで歩いていき、彼を見下ろす。


「カリオ・ボーズ准尉……以前にも似たような話をした気がするのだが、どうにも飲み込みが悪いようだな。武装ぶそうの追加の話はメカニックから聞いただろう。田舎剣術いなかけんじゅつで防衛戦力を殺しきったらそいつで町をしっかり焼いてこい。いい加減に誰のために仕事をしているのか、理解したまえ」


 そう言い放ち、席から離れていくコレスの背中をカリオは見つめる。横からカボチが顔を寄せて、また小声で話しかけてきた。


「もしかして、ちょっと怒ってるのお前?」




(マヨ・ポテトの災難EX⑧ へ続く)





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