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マヨ・ポテトの災難EX⑨

「ルース、今日はどれくらい遊べるですか?」

「んーそうね……午前中は大丈夫かな」

「おお、たっぷり!」


 ルースの足にしがみついたまま、マヨがニカッと笑顔を作る。


「けんきゅーのお仕事、ひまなんですか?」

「あはは、まあね……さて! 何しよっか!」




 戦争が終われば、この研究所で仕事することもなくなるかもしれない。そうなったらこの子はどうすればいいだろう?




 この少女は近隣きんりんにある古代イニスア文明の遺跡いせきで、カプセルの中でコールドスリープしている状態で発見された。それをきっかけに始まった第九技術研究所だいきゅうぎじゅつけんきゅうじょの調査で判明した事実に、関わった研究員は頭を抱えることとなった。


 研究員達はそれを秘密ひみつにすることとし、少女に新たな名前――マヨ・ポテトという名を与えた。長い眠りから目覚めたその少女は、笑顔でその名前を受け入れた。




(マヨちゃんのこと……妙なところにバレたりしたら私もマヨちゃんも、研究所のみんなも危ない。どうしたらいいかな……)


 正座せいざして、うわの空で考えるルースのひざに、マヨがドカッと大きなぬいぐるみを置く。ルースは笑い、マヨと遊び始めた。




 ◆ ◆ ◆




「何しに来たんだカボチ」

「もうちょっとあたたかくむかえてくれてもいいじゃねえか」

「……ひまじゃないぞ」


 カリオとルースの家の玄関先げんかんさき突如訪とつじょたずねねてきたカボチが、カリオの雑な応対に口を尖らせる。


「いや暇だろ絶対。そのゴミ捨てた後どうせ昼寝とかするんだろ」

「正解。お前の相手するほどの元気はねえよ……ってかお前もくまスゲエぞ。ゆっくり休んだ方がいいんじゃねえか」

「……なあ、お前も薄々うすうすへんだと思ってんじゃねえのか? 長すぎんだろ休み」


 カリオは手に持っていたゴミ袋を地面に置く。


「……中尉ちゅういと何度か連絡を取っているけど、より上からはまだ指示が出ていないらしい」

「カリオもそうしてたのか。反乱軍はすぐ近くの街まで来ている。流石に今更戦うことはねえだろうけど、投降とうこうするにしてもこのまま家でのんびりしている場合じゃねえだろ俺達」


 二人はあごに手をやって考える。




「……駐屯地ちゅうとんちって今から俺達が行っても、別に怒られねえよな?」




 ◆ ◆ ◆




「ベーコンレタスサンド売り切れてた……」

「というかアレ、食材の入荷遅にゅうかおくれてるだろ」


 ルースが自分のデスクに座ると、彼女の上司であるジローも、ルースの席の斜め向かいの自分のデスクに、買って来た昼食を置いて座る。


「そっか、近いうちに反乱軍がここに来て町の諸々《もろもろ》を……自治権的じちけんてきな? のをなんやかんやしようって時だし、配送業者はいそうぎょうしゃさんも様子見しちゃうかぁ」

「反乱軍が到着したらひとさわぎありそうだな。昨日行きつけのバーで早速さっそくなぐり合い寸前の口論こうろんしている連中がいたぞ」


 ジローは焼きそばパンにかじりつく。


「……なあ、あの子どうするか決まったか? マヨちゃん」

「んーそうですね……」


 ルースはたまごサンドを食べながらし目がちになり、考える。


「流石に一時的なあずけ場所を探す時間もなさそうで……一旦、私の家に住まわせられないか、一緒に住むパートナーに相談してみようかと……」

「できることがあれば俺にも相談してくれ。時間がないのは辛いが、急がないとな。この町に駐在している大佐なんだが、軽く調べてみたがやっぱりこのことは知られたくない。最悪、町から出ることも考えておいた方がいい」

「そうですね……」




 昼休みが終わると、ルースはマヨのいる部屋でノートパソコンのキーボードを叩きながら業務を進める。マヨはその後ろのスペースで漫画まんがを読んでいる。この年頃の子供が「大人の仕事の邪魔をしない」という立ち回りが出来ることに、ルースも、他の研究員達もおどろきを隠せなかった。


(正確な年齢はわからないからアレなんだけど……同じくらいの年頃の他の子供達と、得意なこと・苦手なことが違うのよねぇ。暮らしていた環境がそれだけ違うってコトなのかなぁ)


 ルースは整理して綺麗きれいになったフォルダの中を見てふぅっ、とため息をついた。




 ◆ ◆ ◆




「閉まってるなぁ門」

第二機動兵器小隊だいにきどうへいきしょうたいだけじゃなくて駐屯地丸ごと誰もいねえのか」


 ホシノタウン駐屯地の金属製きんぞくせいの大きな門の前で、カリオとカボチはため息をつくとその場に座り込んだ。


「……知らない間に俺達クビとか!?」

「何言ってんだカボチ……え、マジで? 上官も整備員せいびいんも丸ごと?」


 二人が話しているところに歩きながら煙草たばこを吸う年配の男が近づいてきた。


「何馬鹿なこと言ってんだおめえら」

「お、ゴーヤのおっさん」

「歩き煙草ダメでしょ」


 カボチの指摘に年配の男、軍のメカニックのゴーヤは、眉間みけんにしわを寄せながら煙を吐く。


「けっ、俺みたいなのが今更煙草のマナー守ってもしゃあねえだろ。人殺しの機械をいじくる仕事してんだぞ」


 ゴーヤはそう言うと門の上によじ登り、施設の敷地内しきちないへ入ってしまう。


「勝手に入っていいのかよゴーヤ」

「勝手に上の連中がめ出しやがったんだからいいんだよ。おまえらもひまつぶしに手伝わねえか? 反乱軍の人間が来るまでに片付けられる物は片付けたくてな」


 カリオの制止に屁理屈へりくつで返したゴーヤは、まっすぐに機体格納庫へ歩いていく。カリオとカボチの二人は顔を数秒見合わせると、両手を門の上に引っ掛けてよじ登り始めた。 




 ◆ ◆ ◆




進捗しんちょくはどうだ、エンブン」

「ビッグスーツ部隊はいつでも出撃可能です」


 ホシノタウンから少し離れた荒野。一隻いっせきの地上艦の中で、コレス大佐の問いに部下のエンブン・トリスギがきびきびと返事をする。


「ケーワコグ共和国がやぶれるなら、私が新しいケーワコグ共和国を立ち上げでやる。『ドーンブレイカー』の初陣ういじんは間もなくだ」




(マヨ・ポテトの災難EX⑩ へ続く)


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