◆ ◆ ◆
「聞こえたか今の」
駐屯地にも爆音は届いていた。ルースとの通話を終えて、携帯端末をポケットにしまったカリオは、音のした方を見やる。
「……さっき言ってたレーダーに映っていたってのはどこだ!」
「え!? 防壁の南側――」
一人の兵士がコックピットの兵士に叫んだその時――
ドォン!
耳の奥を金槌で叩くような爆音が、格納庫にいる兵士たちを襲う。同時に壁を爆風が突き破り、天井が崩れて落ちてくる。
「!!」
突然の出来事になすすべなく、カリオは突風に吹き飛ばされた。
◆ ◆ ◆
「着弾確認しました」
ホシノタウンの南側の荒野、地上艦のブリッジでコレス・T・アクダマとエンブン・トリスギは部下から報告を受ける。
「いいんですか? あの町、潰しても」
「〝エシュル〟を確保した後でならな」
シートに座り頬杖をつくコレスは、隣で立つエンブンにそう答えた。
「反乱軍が到着した時に、我々の動向をあまり掴まれたくない。殺せるものは殺して壊せるものは壊して去る」
ドォン!
コレスの乗る地上艦からロケット弾が発射される。十秒ほどすると、再びホシノタウンから爆音が響いた。
「身を隠すために離れた街にこれから戻ることになるとは、二度手間極まりないな」
「部下に任せては?」
「エシュルは最重要の標的だ。自分の目で確かめないと気が気でなくてね。車の準備は出来ているな? エンブン、ここは任せる」
艦の指揮をエンブンに任せると、コレスはシートから立ち上がりブリッジから退室していく。
◆ ◆ ◆
「……ぐ、あぁっ、げほっ」
強い耳鳴りが頭をつんざく。どちらが上か下かもわからず、カリオは体をごろごろと転がして咳き込む。背中と肩の痛みに顔をしかめながら、起き上がろうと懸命に手足を動かす。
肩で息をしながら、なんとか目を開ける。舞う粉塵が霧のように立ち込め、まるで何も見えない。
「クソッ、カボチ……ゴーヤ……ユーリ……カラワ……クソッ、誰か返事出来ねえか」
粉塵に覆われた空間には、カリオのしゃがれた声しか響かない。カリオはまた咳き込むと大きく息を吸って吐くのを繰り返す。そしてもう一度、今度ははっきりした声で呼びかける。
「誰か! 動ける奴は――」
「カリオか!? 無事か!? こっちだ!」
声のした方へカリオは反射的に走り出す。
「ユーリか!? おまえ怪我は――」
カリオは言いかけて止まる。粉塵の中から見えてきたのは仲間の兵士であるユーリと――頭から血を流し、事切れたカボチの姿だった。
「チクショウ、目を開けたら、カボチが……顔の形、変わってて……」
ユーリは今にも泣きだしそうな顔と声で、感情のまま言葉を吐き出す。
「カボチ、おいカボチ!! そんな、おい!」
カリオは我を忘れ、動かなくなったカボチの肩を揺する。だが、いくら呼びかけても、その開いたままの目に再び光が宿ることはなかった。
「カリオ……カリオ……!」
離れた場所から呼ぶ声がする。その方へ向くと瓦礫の下敷きになったゴーヤがカリオの名前を呼んでいた。
「おっさん! 今なんとかする!」
「違う! ごほっ……カリオ! お前のビッグスーツが見えるか……アレに乗れ!」
カリオはゴーヤの視線の先を見上げる。白いクロジが辛うじて大きなダメージを受けずにハンガーに立っている。
「そんなこと言っている場合かよ!」
「俺を助けようとすることの方がそんなことだ! この一発では終わらねえ――」
ドォン!
ゴーヤが言い終わるより先に、さらに爆音が響く。この格納庫ではない、どこか町の中に着弾したようだ。
「クソッ まだ撃って……!」
「ここはもう崩れる! 外ではしゃいでいるクソどもをぶった斬って来い! 俺の――」
ガラララ!
二発目の攻撃の振動で、格納庫の天井が崩れ落ちてくる!
「俺が作った、おまえのクロジ――」
落ちてきた天井は容赦なくゴーヤを押し潰した。ユーリが咄嗟にカリオの襟首を掴んで引き寄せると、カリオがいた場所に巨大な瓦礫が落下した。
「クソッ……クソックソックソッ!」
「カリオ……ビッグスーツで出よう」
叫ぶカリオを、涙をこらえながらユーリが促す。
「俺のビッグスーツも生きている。誰が攻めてきてるか知らねえが、生き残りでやれるだけやろう。これ以上はやらせねえ」
カリオは真っ赤になった目で自分のクロジを見上げる。
粉塵が晴れていく。生き残った兵士達を待つかのように、数機の白いクロジが格納庫が崩れてなお、ハンガーに立っている。
◆ ◆ ◆
「砲撃だ! 間違いない!」
第九技術研究所のスタッフ達に緊張が走る。マヨはルースの服の裾を思わずギュッと握る。
「シェルターに入るぞ! ルース、遺跡調査部のメンバーは俺が確認するから先に――」
ダダダダダ!
「!!」
ジローがルースとマヨに避難を促そうとしたその時、研究所の入り口側から発砲音が響いた。
――入り口では数人の研究所スタッフが射殺されていた。小銃を装備し戦闘服に身を包んだ数人の歩兵達が押し入る。さらにその集団の中から一人、ロングコートを着たブロンドヘアーの、眼鏡をした男――コレスが姿を現す。
「世話役の女の情報はエンブンから聞いているな? エシュル本人とその女は生きたまま捕らえろ。他は殺せ」
(マヨ・ポテトの災難EX⑫ へ続く)