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マヨ・ポテトの災難EX⑭




 ◆ ◆ ◆




「フン、一機は市街地から人の少ない農業エリアに抜ける気か……とんだ甘ちゃんだな、第二機動兵器小隊だいにきどうへいきしょうたい


 襲撃者しゅうげきしゃの一人がレーダーの画面を見て鼻で笑う。一機は北東の畑や牧場が並ぶ農業エリア、もう一機は北西、オフィスビルや各種店舗が立ち並ぶ商業エリアへと進んでいく。


「アルファ一、三、四、ベータ一は北東へ。残りは北西へ向かえ」


 九機の白いクロジ達は、二手に分かれてカリオとユーリの機体を追う。




 北西の商業エリアに向かう機体を追う五機。その前方には砲撃で破壊された建物の瓦礫がれきが広がる。


「……! 動きが止まった」


 五人の襲撃者達はレーダーを確認する。移動を続けていた影が確かに静止している。その影は恐らく、あのビームソードのみを装備した機体だ。


「まだ砲撃が及んでいない市街地に入る前に迎え撃つつもりか。無意味なことを、どうせ続きの砲撃で破壊されるというのに」


 五人の乗ったクロジは、一軒の崩れかけたビルを包囲するように進んでいく。レーダーの影はそこで止まっている。この建物の裏に、先ほど自分達の味方をほふった敵――カリオ・ボーズがいる。




 ゴゴゴゴゴ!




「……! チィッ!」


 五人の目の前で元々崩れかけていたビルが、下から砂埃すなぼこりを上げてさらに崩れ、倒れていく!


「アイツが仕掛けたのか!」

「来るぞ! 集中し――」




 ブォン!




 通信する襲撃者が言葉を言い終わるより先に、瓦礫と砂埃の中から青い閃光せんこうちゅうを走る!


「え――」


 一機の襲撃者のクロジの頭部が、胴体から斬り離され宙をう。咄嗟とっさに他の襲撃者達は身構えるも、味方の首を飛ばした敵を目でとらえることが出来ない。




 ブォン!




 また青い閃光が飛ぶ。


 その光を目にした襲撃者の目に映る景色けしきが、突然回転して逆さまになる。彼の機体もまた、首から上を斬り落とされていた。


「こいつ冗談じょうだんじゃ――」




 ブォン! ブォン! ブォン!


 ……

 …………

 …………




 ――――




「――クソ」


 砂埃の中でカリオはうつむく。それが晴れていくと、五体のクロジの残骸ざんがいが現れる。頭部を失くした機体、縦に真っ二つにされた機体……カリオは五機の追跡者ついせきしゃを一機で、ビームソード一本で全てせた。


「なんだよ……なんなんだよこれ。すぐやられやがって、大した奴らじゃなかったじゃねえか……! こんなんだったら……」


 カリオの声がふるえる。


「こんなんだったら、俺がもっと器用に判断してたら、ちゃんと動いてたらカンタローは死なずに済んだじゃねえか……! ハヤトだってすくってやれたかもしれねえ……数にビビッて瓦礫にかくれたり逃げたりせずに、俺がさっさとぶった斬ってたら……二人は……こんな奴らに……」




 後悔こうかいを小さな声で絞り出す。その時、カリオの頭に浮かび上がったのは違う方向に移動したユーリの事だ。すぐにカリオは通信をこころみる。


「聞こえるかユーリ! 返事出来るか?」


 あせるあまり声が大きくなるカリオ。返事は来ない。


「ユーリ! 返事出来るか! ユーリ!」

「……カリオ」


 少し小さく、弱いユーリの声が返ってきた。


「ユーリ! こっちの追手おっては片付いた! 今からそっちに行く! 持ちこたえられるか!?」

「無理だな」


 ユーリは即答した。あまりに早く返ってきたあきらめのい返事に、カリオは首を振って言葉を出す。


「何言ってんだ、諦めんなよ! すぐに行く、それまで――」

「足は千切れて、バッテリーもやられてんだ。畑のド真ん中でな。あちこちに穴あいてそうなんだけどしゃべれてるのがすげえわ。」


 ユーリの声に荒い息が混じっている。カリオははげまそうとするが、のどに何かつっかえたかのように言葉が出なくなってくる。




「ユーリ、ダメだ、なんとか――」

「俺の方はいい。おまえは……せめて、一緒に住んでる彼女連れて町を出ろ」


 息を荒げながら言葉をつなげるユーリ。カリオはこらえきれずに、ほおを涙が伝う。


「ゴーヤのおっさんも、ハヤトもカンタローも……だからおまえだけでも、町を出て今度は兵士じゃな――」




 ガガガガン!!


「!!」


 カリオのコックピットのスピーカーから大音量の金属音がひびく。それがカリオの耳を思いっきりつんざくと、途端とたんに静かになった。


 ユーリの声は、もう聞こえてこない。




 カリオは少しの間、打ちのめされて目を閉じていた。瓦礫とビッグスーツの残骸が転がる中、ただ一機立つクロジのコックピットで、脳裏のうりに浮かんできたのはルースの姿。


 彼女と一緒に住む白壁の家。町から出かけてながめた水平線上の日の出。風になびくかみ。輝くひとみ


 カリオは彼女の勤める第九技術研究所のある方角を見やる。恐らくまだ砲撃は来ていない。




 ドォン!




 だが砲撃は着実に町の被害を広げている。狙いも読めない。いつ研究所が破壊されてもおかしくはない。


 カリオは地面をって、飛び上がる。誰が犯人かも、狙いは何なのかもわからない。とにかく生きてこの町をつしかない。せめて彼女だけでも救って。




 空には黒い雲が広がり、静かに雨が降り始めていた。




 ◆ ◆ ◆




 ドォン!




 町への砲撃の爆発音が、ルースとマヨのいる倉庫に響き渡る。


「あの砲撃もあなた達の仕業?」

「ああ、私にとって不都合なモノが色々残っているこの町には無くなってもらいたくてね。幸い内戦直後で大陸の治安は悪い。町一つ消えても食うに困った傭兵ようへい連中が略奪りゃくだつに来たと思われるさ」

「あなた達共和国軍の駐屯地ちゅうとんちがあるところに? この町がどんな理由でこわされようと、真っ先に事情を聞かれるのは駐屯地のおえらいさんのあなたでしょ? 頭悪い人ね」


 パァン!


 発砲音。ルースとマヨはびくり、と身を強張こわばらせる。マヨが入った金属扉のすぐ横の金属の壁に、くっきりと弾痕だんこんが残っている。コレスの右手には拳銃。彼が撃ったのだ。


「彼氏に似て随分ずいぶん生意気な口を利く女じゃないか」

「彼氏?」

「カリオ・ボーズだろう? あいつも何かと文句を言ってくる男でね。この砲撃で死んでくれるか、今この町を攻めさせている我々のビッグスーツに倒されてくれるとありがたいんだが」




 ルースは左手の拳をギュッとにぎる。爪が食い込み、血がしたり落ちる。


「……この変態。人の交際関係まで調べておいて彼まで殺そうとするの? 絶対に許さない。とさかに来た」


 ルースはポケットの中のリモコンのスイッチを押した。




 キュイイイイイ!!




「なんだ!?」


 唐突とうとつな駆動音。ルースの後ろの金属の扉――いや、金属で出来たロケットのような形をした機械が光を放つ! コレスと部下達は思わず一歩下がる。


「ルース!!」


 中からマヨが叫ぶ。ルースはずっとコレスを睨みつけている。


「どれだけここの情報がれているのかわからないですけど、マヨちゃんのコト以外は何か知っているんですかね大佐。例えば遺跡からの発掘品はっくつひんの話とか」


 ルースは不敵ふてきに笑う。


「……タイムマシンが実在する話とか。あっても信じませんよね」




(マヨ・ポテトの災難EX⑮ へ続く)

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