◇ ◇ ◇
空が白み始める。カリオはベッドから起き上がり、部屋から出る。仲間達の
「少しは寝られたか?」
ニッケルが疲れの取れない顔で苦笑いを作りながら聞いてくる。
「いんや、でも横になれただけでもだいぶ楽になった」
そう言いつつも、カリオの声は少し弱々しい。普段であれば深夜に一戦交えたぐらいでは疲れることなどない二人だが、マヨが
「オヤジに聞いたが、クライアントはもうニ十分もすりゃ
「クライアント……トロン・ボーンって言ったよな? 向こうは俺のコト知らねえだろうが俺は……多分知ってる」
◇ ◇ ◇
カミヤシティから
医療船への乗り込み口ではトロン・ボーン自身が出迎えた。整った顔立ちに美しいブロンドヘアが似合う、三十代と思われる男性だ。
「やっぱりか」
タラップの下からトロンを見上げるカリオがそう口にすると、トロンは目を細めて
「私は君に
「同じ軍だったからって
同じ軍? と聞いてくるニッケルに、カリオはトロンと目を合わせたまま答える。
「トロン・ボーン。
それを聞いたリンコは口をあんぐり開けて
「将官!? あの若さで!? あのイケメンが!?」
「あの軍の階級の基準はよくわかんねえ。俺も写真で見たことがあるだけで、
そう言うとカリオは、トロンの後ろに立つ小柄な年配の男が自分達を
「そうだな、直接こうやって会うのは初めてだ。君のコトは色々な人間から話を聞いている……っとそうだ、のんびりはしていられないな。中で話そう」
◇ ◇ ◇
「……さっきのおっさん、俺達のコト……」
船内の廊下を歩きながら、カリオは思わずトロンに聞いた。
「すまない。彼は――反乱軍に身内を
「そうか……」
ニッケルとリンコが複雑な心境になっているのをトロンは見逃さなかった。
「……私も元軍人とはいえ、戦争はもうこりごりだ。あんなにも短い戦いだったにもかかわらず、失ったものは数知れず、そのくせ
「この件、カリオ君からはどれくらい話を?」
応接室に通されたレトリバーのクルー達がソファに座ると、トロンも座り、そう聞いて来た。
「話、というよりは……カリオが軍を抜けて、レトリバーのクルーになったのが、ちょうどホシノタウンが
「そうか……大まかな状況は知って頂けているようだ」
トロンは目を瞑る。
「コレスにホシノタウンの
トロンは深く頭を下げた。
「ちょ、おい」
突然の謝罪に戸惑い、言葉に詰まるニッケル達。トロンは顔を上げると一同を真っ直ぐに見つめ返す。
「……
トロンが頭を上げると、ニッケルが一泊置いて言葉を発する。
「……つまりこの仕事、俺達にとっては身内の
「
リンコが「うしっ!」と小さく声に出して拳を握る。
「受けようよ。私もこの仕事、他の人に任せたくない」
カリオもトロンを見て答える。
「俺も――」
――不意にカリオの頭に、あの日、自宅の玄関から出発するルースの笑顔が浮かぶ。
「――俺も、やるよ」
三人の目を見ると、トロンは改めて彼らに託すべきだという思いを強くする。
「ありがとう。ではより
◇ ◇ ◇
「エシュルはどうだ」
とある施設。ロングコートを着たコレス・T・アクダマが、白衣に身を包んだ部下に問いかける。
「ぐっすり眠ってますよ。最後の
そう答えた部下の視線の先、周囲を様々な検査機器やロボットアームで囲まれたベッドの上に、検査着姿のマヨ・ポテトが
「そうか。接続までは
コレスの口角は言葉の
(……)
マヨの意識は眠りの底に落ちていた。その
(マヨ・ポテトの災難EX⑰)