目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

マヨ・ポテトの災難EX⑱

「今回の標的、コレス・Tテロール・アクダマは元共和国陸軍大佐もときょうわこくりくぐんたいさ。内戦中、ホシノタウン駐屯地指令ちゅうとんちしれいを務め、カリオ君が所属していた共和国陸軍第二機動兵機小隊きょうわこくりくぐんだいにきどうへいきしょうたいの指揮もっていた男だ」


 立体映像プロジェクターが、ブロンドのかみをオールバックに整え、四角いフレームの眼鏡めがねをした男の写真を映し出す。コレスの顔写真だ。


「一般人の犠牲をいとわない冷酷れいこくな作戦で軍功ぐんこうを上げる一方で、裏では都市自治体や企業とのコネクションを構築、また、戦後は大陸再統一路線たいりくさいとういつろせんを軸にしたプロパガンダで民衆からも支持者を集め、『ドーンブレイカー』と名付けた武装集団ぶそうしゅうだんを立ち上げた」


 トロンの説明を聞きながら、ニッケルは鼻の先を指でさする。


「『ドーンブレイカー』ねえ……戦中から何かたくらんでいたわけか。ホシノタウンにはそのコレスの企みを継続するために、不都合なモノが残っていたってことか?」


 ニッケルの言葉を聞いて、トロンが答える。


「今となっては詳細しょうさいは分からないが、関係各所の記録書類・データの類は勿論もちろん、カリオ君のようにコレスの言動の一端いったんでも知っている〝人間〟など、〝抹消まっしょう〟したいモノは沢山あっただろう」

「……早く頭吹き飛ばさないとカラダに悪そう」


 リンコは破壊されたホシノタウンの情景を思い出し、イライラした様子で腕を組み、指をトントンと動かす。




「……最終的に何を目指して行動しているのかはわからん。最悪自己顕示欲じこけんじよくを満たしたいだけの可能性すらある。ただ、マヨ・ポテトの拉致らちそのものについては、『プルツ・サンデ』と呼ばれる兵器の起動が目的だろう」

「プルツ・サンデ?」


 プロジェクターが別の立体映像を映し出す。通常のビッグスーツと比べて四倍近い全幅を持つ巨大な機動兵器だ。カエルのようなずんぐりむっくりした輪郭りんかくではあるものの、各部の無機質むきしつな装甲が武骨ぶこつ雰囲気ふんいきを出している。


「これまたヤバそうな……マヨがイニスア文明の人間だとか言ってたが」


 話すニッケルの横でカリオは立体映像をじっと見つめる。


「コレスがそう言っていたのか。君達が保護していたマヨ・ポテトは……」


 トロンは少し躊躇ためらうように一呼吸して、続けた。


「カリオ君の知人、ルース・サテールの所属しょぞくする共和国陸軍第九技術研究所きょうわこくりくぐんだいきゅうぎじゅつけんきゅうじょが、ある遺跡いせきで発見したイニスア文明人の生き残りだ」

「ルースって、カリオの恋人だった……」


 リンコがおどろきの表情を見せる中、トロンはまた続ける。


「SFみたいな話だが、コールドスリープ状態で発見され、目覚めた後も健康状態は悪くなかったらしい。そして彼女はただの生き残りじゃない。伝説となっている『イニスアの囚人しゅうじん』のうち一人と、遺伝子いでんし的に非常に近い関係がある」




 ニッケルはそこまで聞くと、頭をぼりぼりと掻いた。


「すまねえ、その……俺達は伝説として聞いているだけで、実際の『イニスアの囚人』がどんなものかはっきりと知らねえ。そこを教えてもらえることはできるか」

「わかった。そのすじに詳しい人間から共有してもらった資料を出そう」


 プロジェクターの映像がまた切り替わる。七人分の顔写真と、ビッグスーツのような人型機動兵器のモノと思われる資料、複数の文書が映し出される。


「この大陸で四千年前に滅亡めつぼうしたと言われている〝イニスア文明〟。その時代、機動兵器〝ウストク〟を駆り、大陸中の人命をおびやかす破壊と殺戮さつりくの末に、冷凍刑に処された犯罪者達だ」

「……!! ねえこの銀髪ぎんぱつの女! フロガー・タマジャクの時におそって来た赤い機体の!」


 リンコが顔写真の一つを指さす。銀の長髪ちょうはつに赤いひとみの顔立ちの整った女性。それを見たニッケルも確信した。


「カリオはその時気を失ってたから見てないか。コイツがクロキシティの任務の時に襲って来た赤い機体のパイロット――確かイルタと名乗っていた女だ」

「コイツがか……こんな華奢きゃしゃな奴が、あんなヤベエの……」


 カリオはじっとその顔写真を見つめる。今思い出しても、あの赤い機体――フライデの非現実的な戦闘能力には寒気さむけを感じるほどだった。


「君達がその戦闘後にいくつかの街に共有してくれた情報、私も受け取って調べていた。そう、その女性がイルタ。経歴不明けいれきふめい素性不明すじょうふめい、そもそもどうやって捕縛ほばくし、冷凍刑を実行できたのか不明。彼女の行動でニ十の都市がほろび、一千万以上の人命が失われたと言われる、七人の囚人の中でも一番危険とされている人物だ」


 先の任務で彼女と実際に戦った三人の傭兵達は、それが決して法螺話ほらばなしではないという事実を受け入れざるを得なかった。




「……待て、こっちの、コイツは……モリオカタウンの!?」


 カリオが別の顔写真の一つに指をさす。間違いなくモリオカタウンでの任務で出会った青年、ウド・エバッバだった。


「そちらにも会ったことがあるのか?」


 トロンは少し驚いた様子で、ウドの写真に視線を移す。


「以前、任務でたまたま会ったことがあるんだけど……」

「……そいつが『シャマス』だ。マヨ・ポテトと近しいとされている人物」

「!?」


 レトリバーの四人は一斉にプロジェクターに顔を近づけて、ウド・エバッバ――「シャマス」の写真を食い入るように凝視ぎょうしする。


「こいつが……」

「……マヨと!?」

「シャマスは機械・道具を中継ちゅうけいすることなく、生身でエメトを自由に操作そうさする能力を持つと言われている」

「エメトを操作する?」


 カリオが具体的なイメージをつかめずにいるところにトロンが捕捉ほそくを入れる。


「例えばビッグスーツの武装において高級品のビームソード。エメトを刀身の形になるように浮遊ふゆうさせ、コントロールする仕組みだが、それはつかさやにあたる部分に仕込まれた機構によって行われる。彼、シャマスならそのような機械がなくとも……たとえぱだかの状態でも、必要なエメトさえあればビームソードは勿論もちろん、ビーム手裏剣しゅりけんやビームで出来た可愛かわいいワンコだって作れるという話だ」


 それを聞いたカリオはトロンに問う。


「……もしかしてマヨも、同じ力を持ってるっていうのか」

「……そうだ。なんとかサルベージできた第九技術研究所のデータを見るに、可能性は極めて高い」


 カソックはひたいに手を当てる。偶然ぐうぜんの出会いで拾った少女。彼らにとって、すっかりかけがえのない仲間となっていた彼女の秘密ひみつ。いずれ知らなければならない――そうわかっていたはずなのに、と彼らは胸の内を鉄球でなぐられるような感覚を覚えながら、顔をおおうか、天をあおいだりした。




「聞きてえことが山ほど出てきたが……とにかくはコレスを止めねえと。マヨを利用されてプルツ・サンデって奴が起動しちまったらどうなるんだ?」


 ニッケルがトロンに聞く横で、カリオとリンコも戸惑う気持ちを抑えようと、トロンの説明に集中する。


「プルツ・サンデは言わば、シャマスやマヨのような能力者の力を増大させるブースターだ。スペックの全てが明らかになったわけじゃないが、少なくとも半径数キロの範囲はんいにあるエメトを全て自在に操れるくらいの性能はある。そしてあやつるエメトの特性によっては、街一つを十分で更地さらちに変えかねない」




(マヨ・ポテトの災難EX⑲ へ続く)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?