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マヨ・ポテトの災難EX⑲




 ◇ ◇ ◇




 オオクボシティから南西へ五キロ、そこにあるツッパル遺跡いせきから更に西へ十五キロの地点。トロンとのブリーフィングから二日後。


 くもり空の下、人の生活圏せいかつけんから遠く離れた場所にたたずむ巨大な基地。近くのがけの上から三機の黒いビッグスーツと、トロンが手配した近隣都市の治安部隊のビッグスーツ七機がそれを見やる。


「あれがコレスの基地か、かなりデカいな」


 三機の黒い機体のうち、二機のコイカルに乗っているのはニッケルとリンコ、残り一機のクロジに乗るのはカリオである。


「先方が実弾・実体剣じったいけん装備を支給してくれたのは助かるが……プルツ・サンデか」


 ニッケルは実弾ライフル、リンコは実弾スナイパーライフル、そしてカリオは刀状かたなじょうの実体剣を今回装備している。




 ◇ ◇ ◇




 数時間前、トロン・ボーンとのブリーフィング中。




「先の戦いでわかる通り、コレスの乗機『シトド』にビーム兵器は通用しないとみていい。加えて、敵方はそれをまだ数機所有していると思われる」

「マジか……」


 トロンが仕入れた情報をもとに説明するのを聞いて、レトリバーの三人の傭兵ようへいしぶい顔を見せる。


「加えて、別種のバリア装備を備えているらしい。とはいえ実体装備を用いれば戦闘は格段に楽になるはずだ。こちらで用意してある。届くにはもう少し時間はかかるが」

「え、別のバリアあるの? いやーキツイような……」


 とはいえマヨの救出を急がなければならない現状、策をるのに時間はかけられない。


「先ほど言った通り、プルツ・サンデの脅威度きょういどは未知数。場所はこちらでつかんでいるので、コレスがマヨ・ポテトを乗せて起動させる前に何とか奇襲きしゅうして破壊したいが……もし起動してしまった場合、すまないが現場の君達にぶっつけ本番の対応をしてもらうことになる。」


 レトリバーのクルー達はプルツ・サンデの立体映像を見つめる。エメトはビッグスーツ乗りにとって少なからず馴染なじみのある機械で、モリオカタウン跡地あとちでもそれがからんだ現象への対応を経験している。だが以前のイルタとの戦いで、イニスア文明の遺産いさんの脅威もまた味わっている。今までにない難しい仕事になるだろうと、そこにいる全員が感じていた。




「ねえ、トロン。一つ、聞いてもいい?」


 そうトロンに声を投げたのはリンコだった。


「……マヨの救出、成功したらさ、その……マヨはその後、どうするの?」


 それは確認しておかなければならないことだった。任務には直接影響えいきょうを及ぼさない、しかし彼等にとってはとても大事な質問だった。




 家族ともいえるクルーのこれからのこと。




 トロンは全員の目を順番に見て、答えた。


「……正直に話そう。傭兵を生業なりわいとして各地を転々とする一隻の中型船に、彼女を乗せておくのは危険すぎる。能力そのものに目をつけられねらわれる可能性は勿論もちろん、彼女が『イニスアの囚人しゅうじん』という危険因子きけんいんしへどういった影響を与えるかも定かじゃない。大陸全体における優先的な保護対象として、各大都市と協議を重ね、より厳重げんじゅうな保護の下に置く必要がある」


 トロンはそう言って目を閉じる。


「勿論、彼女を囚人しゅうじんのように扱うのではなく、可能な限りめぐまれた権利と環境を提供するように尽力じんりょくする。ただ先ほど言った通り――レトリバーは降りてもらうことになる」




 レトリバーの四人は正面からその言葉を飲み込んだ。気づいていた。マヨと出会った日から、いつかはこうなる日が来るということに。それでもその唐突さに、のどがつっかえそうになる。




 ◇ ◇ ◇




「んあ……」




 マヨ・ポテトは大きな欠伸をしながらまぶたを開けた。こじんまりとしていて、玩具おもちゃや本で少し散らかった部屋。地上艦「レトリバー」にて少女に与えられた私室だ。


 いつもなら陽気なクルーが行き交うにぎやかな船内が、今日はいやに静かだ。


「……?」


 不思議に思いながらマヨは目をこすりながらベッドを降り、部屋から廊下ろうかに繋がるドアを開けた。




「……?」


 ドアを開けたマヨは目をぱちくりさせる。石のような白壁、白い照明で照らされた空間。後ろを振り返ると、さっき出たばかりのはずのレトリバーの個室はどこにも見当たらず、広い廊下のような空間が広がっていた。


「ここにいたのかエシュル」


 マヨが声のした方を振り返ると初老の男性が近づいてきていた。ゆったりとして、無地でシンプルなデザインの布の服をまとったその男性は、マヨの前でかがんで視線の高さを合わせた。


「そろそろ時間だ。お兄ちゃん――シャマスの方はもうすぐ初仕事だ。マヨも頑張がんばれば有名人になれるぞ」




(これ……)


 マヨの頭の中で、急にもやが晴れていく感覚が走る。


(これ……シャマス兄ちゃんと一緒にいた研究施けんきゅうし――)




 キュイイイイイ!!




「!?」


 唐突とうとつな駆動音。さっきまで広めの廊下だった空間が、突如とつじょ薄暗い金属に囲まれた小さな空間に変わっていた。


 マヨは驚きながら周囲を見渡す。すぐそこに小窓があるのがわかる。マヨはそこから外をのぞいた。


 すぐ目の前に、黒髪のルーズサイドテールの女性、奥には小銃しょうじゅうを持った戦闘服の兵士と、ロングコートを着た四角い眼鏡めがねのオールバック。


(あれ……私、この人達、知ってるです……?)


 女性がこちらを振り向いた。窓の外から懸命けんめいに何かを伝えようとしてくる。


(……ルース?)


 マヨは唐突に、自分でも気づかぬうちにその名を口にした。




 その人のコト、その時起こった出来事を、


 ――少女は思い出した。




「ルース!!」




 パ ン


 マヨがルースの名をさけぶと同時に、無情な発砲音がひびわたる。




 ◇ ◇ ◇




、エシュル接続問題なし。オールグリーンです」

「よし、試運転を始めろ」


 武装勢力ドーンブレイカーの基地。その管制室かんせいしつでコレス・Tテロール・アクダマは巨大なモニター越しに機動兵器「プルツ・サンデ」の様子を見守る。


「二年近く遠回りしたが、まあよい。その性能が本物ならば大陸の半分は俺にひざまずくことになる!」


 プルツ・サンデが駆動音を上げながら、緑色のカメラアイを光らせた。




(マヨ・ポテトの災難EX⑳ へ続く)





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