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第二部

GET READY FOR SECOND JAM①




トリガーを引け


迷わず でも慎重に よく狙って


そう進むと決めたのなら


あいた風穴と手に入れたガラクタが


おまえの行き先を決めてくれる




 ◇ ◇ ◇




 ひと月ぶりの雨が止み、強い日差しが街の土に照り付ける。


 テエリク大陸中央の少し南寄りに位置する街、タカハシシティの屋台街は多くの客でにぎわっていた。


 通りの真ん中をずんずんと歩いて突き進む、少年と少女。身長は百三十センチメートルぐらいで十歳前後だろうか。


 少年の方は栗毛くりげの短髪、Tシャツに短パン、くたびれたスニーカーに小さなショルダーバッグという質素しっそな服装で少女の前を歩いていく。その後ろからついていく少女もまた、Tシャツに短パン、くたびれたスニーカーに小さなショルダーバッグという服装。ただ首から上を見ると、彼女の方がほんの少し、見た目のインパクトは強い。黒髪で短めのミディアムヘアの少女は、赤文字で「目覚め」と「インカ」が交互に表示されるLEDサイバーサングラスで目を覆い隠していた。




「……お! ちょっとだけ席空いてる! タニシャ、こっちだ!」


 少年――スケト・ウダラは少女を急かす。「タニシャ」と呼ばれた少女は小走りして追いかける。


「おぉ、スケト! ここがうわさのカニチャーハン屋さんですか!」


 スケトとタニシャは急いでカウンター席に座る。「カニチャーハン」と書かれたのれんの下で、スケトとタニシャ――タニシャ・メークインはその匂いからまず堪能たんのうする。


「カニなんて内陸じゃあまり食えないからなぁ! バイオテクノロジーさまさまだぜ!」


 スケトとタニシャは中サイズのカニチャーハンを店主に頼み、お冷を受け取る。


「おいスケト、これあげるです」


 タニシャはバッグから一冊の本を渡すとスケトに手渡した。


「ん? どして?」

「この前スケトの誕生日たんじょうびだったって聞いたので、プレゼントを見繕みつくろってきました」

「……この本、えちえちユニバースじゃねえか。気持ちはうれしいけどお前、俺がこれを喜ぶと思ってんのか?」

「え、男はエロ本が好きだって知り合いのおっちゃんが」

「……俺からのアドバイスだ、そいつは信用するな」


 ガーンと口を縦に大きく開けてショックを受けるマ……タニシャを見て、スケトは困ったように頭を掻く。


「あー……気持ちは嬉しいし受け取る。あんがとな」


 その言葉を聞いたタニシャはみるみるうちに笑顔になり、彼女のサイバーサングラスに表示される文字が「ライオン」に変わる。




「カニチャーハン中、二つお待ち!」


 店主が二つのカニチャーハンを、二人の目の前のカウンターに置いた。卵が均一に行き渡った黄金こがね色のチャーハンの上にカニの身がこんもりと乗せられており、先ほどよりも強くただよう匂いも相まって、スケトとタニシャの食欲を暴力的にそそった。


 二人は雑に手を合わせて食前の挨拶を済ませると、すぐにチャーハンにがっついた。期待以上の美味が口の中に広がる。危うく魂も抜けてしてしまいそうになる絶品。


「スケト、誕生日はどんな感じだったんですか」

「んー?」


 口いっぱいにチャーハンを頬張りながら、何と無しにタニシャが聞くと、スケトは前の一点を見つめながら話し始めた。


「大したことはしてねえよ。かーちゃんと小さいケーキ食ったぐらい。プレゼントは一応もらったけど」

「とーちゃんは?」

「仕事だった」


 スケトはチャーハンをレンゲですくって口に放り込む。


「毎日毎日よく休まねえもんだな、街の門の見張り」

「どれくらい休み取ってるですか」

「月一ぐらいかな。カラダは頑丈がんじょうだからとか言いやがってさ。ロードーキジュンホーはどうなってんだって話だ」


 もぐもぐとチャーハンを頬張ほおばりながら話すスケトの様子を見て、タニシャのサイバーサングラスに「低気圧」と文字が表示される


「ひょっとしてとーちゃん誕生日いなかったんで寂しいですか?」

「んなっ!? バカ! そんなわけねーだろ! 俺だってもう十歳だ、親父が誕生日にいないくらいなんてことねーよ! ……ってかよタニシャ、お前――」


 顔を真っ赤にして怒りながら話していたスケトの声色が急に落ち着く。


「――背伸びすぎじゃね?」

「そうですか?」

「そうですかじゃねえよ。おまえがこの街に来てからまだ半年だろ? ニ十センチぐらいは伸びてるぞ」


 マ……タニシャは自分の頭のてっぺんをぽんぽんと叩いてみる。


「成長期じゃないすかね」

「ありえねーから! 新記録だと思うんだけど……ちょっとおまえのことをメディアに紹介してもいいか」

「やっぱ男はスケベじゃないですか」

「スケベな話はしてねえよ」


 そんな話をしていると、屋台の奥のラジオからニュースが聞こえてくる。地上艦の車列を襲撃した、逃亡中の盗賊に関するニュースだ。女性アナウンサーの声が、予測される逃走ルートを読み進めていく。


「……この辺りの近くにまで来てるかもしれないのか、レッドハイエナ団」

「この前のニュース、悲惨ひさんでしたね」

「結構この辺りも増えたよな、物騒ぶっそうな話。あのドーンブレイカーを壊滅かいめつさせたっていう〝ブラックトリオ〟もこの辺にひそんでるとか噂立ってるし」


 それを聞いてタニシャは飲みかけていたおひやでむせた。




(GET READY FOR SECOND JAM② へ続く)

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