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GET READY FOR SECOND JAM②

「おい、大丈夫かよ。変なとこ入ったか?」


 スケトはゴホゴホとき込むタニシャの背中をポンポンと叩く。


「ごほっ、そんなうわさ立ってるですか」

「ほら、この街って色々な職人がいるので有名だろ? あそこのデカい工場だってクソ有名なビッグスーツ職人、トーグリ・タンプルがかじを取ってる工場だし。最近さ、ブラックトリオはあそこに地上艦とビッグスーツを隠してるんじゃねえかって噂があってさ」


 スケトは街の正門側を指さす。その先に見える大きな四角推しかくすい状の工場が、トーグリ・タンプルの工場だ。タニシャは咳き込むのが落ち着くと、改めてお|冷《》をゆっくりと飲みなおす。サイバーサングラスの文字が「絶壁」に変わった。


「ま、まあアレです、あくまで噂ですし、ブラックトリオは傭兵ようへいだけど盗賊とうぞくとかじゃないから大丈夫っすよ」

「確かになぁ。でも思いっきりホワイトな街とか企業側についてるからさ、マフィアとかにはかなりの懸賞金けんしょうきんが懸けられているみたいで、手配書も出回ってる。場所割れるとそいつらが襲ってくるかも。俺もこの前手配書見たんだけどさ、なんでか知らないけどブラックトリオの他に、そいつらと同じ船に乗っている子供にも一億テリの賞金が懸けられてるんだぜ。マヨ・ポテトって子」


 タニシャはむせた。スケトはゴホゴホとき込むタニシャの背中をポンポンと叩く。


「おめえ大丈夫かよ、風邪かぜでもひいたか?」

「いあ、大丈夫ですゲーッホゲホ!」




 なんだかんだしながら二人はカニチャーハンを平らげて、ふくれたお腹をさすりながら一息つく。




 ◇ ◇ ◇




 タカハシシティ、正門前。


 二体の人型戦車(ビッグスーツより前の世代の人型機動兵器)が、長い銃身じゅうしんのライフル砲を携えて、門の前で微動びどうだにせず立っている。


 ナツト・ウダラはそのうちの一体のコックピットの中で水筒すいとうをあけ、水を少し口に含む。晴れの日差しが、少し白髪が混じるようになった彼の栗色の髪を照らす。


「息子の誕生日たんじょうびの夜もここにいたんだって?」


 通信をつなぎっぱなしにしている隣の人型戦車から、同僚どうりょうのコマイ・カンカイの声が届く。ナツトは水筒のふたを閉めると、腕を頭の後ろにやってシートにもたれかかった。


「あいつだってもう十歳だ。親離れしていい頃だろ」

「俺はまだ何も言ってないぞ。さてはちょっと後ろめたい気持ちがあるな?」

「人の家の事にうるせえ奴だ」


 声が少しいら立っているのが伝わったのか、スピーカーの向こうからコマイのからかうような笑い声が聞こえてくる。


「シフトなんていくらでも代わってくれるヤツがいるんだから、もっとガキに構ってやった方がいいぜ。子供なんて俺達が仕事を二つ覚える間に背が倍になっちまうんだからよ」

「ご忠告どうも。俺は大丈夫だ」


 そっけないナツトの返事を聞いて、コマイは肩をすくめた。




 彼の事情は知っている。


 ナツトの故郷だった町はもう存在しない。町を統治していた連中が内紛を起こし、発生した戦闘が原因で壊滅したのだ。まだ子供で、着の身着のまま家族と共に逃げ出したナツトは、財産のほとんどを失いながらも、運よくタカハシシティで新たな生活を送れるようになった。


 門番の仕事はタカハシシティに避難してきたまだ子供の頃から始めたものだ。妻子が出来た今、彼は大して休みを取らず、門前に立って地平線をにらんでいる。辛い過去が彼を、息子の誕生日もそっちのけでそうさせるのだろうか。




 そんな彼にもっと肩の力を抜いて欲しいと思うコマイだったが、無理強いはできない。コマイは胸ポケットから煙草たばこを一本取り出して、口にくわえた。




 ◇ ◇ ◇




「なあ、マジでタカハシシティを襲撃するのかよ」


 日差しが照り付け、サボテンが点々と生える荒野。走る数隻の地上艦の内の一隻、その甲板で棘付き肩パッドを付けたガラの悪い男がそう聞いた。


「あんなデカい街襲撃してよぉ、反撃とか報復とか怖くねえか?」


 聞かれた丸ゴーグルを付けたせぎすの男は、ナイフを舐めながら答える。


「何回かこのやり方で上手くいってんだ。成功すれば実入りはデカいぜ」


 彼等がおしゃべりをしている頭上で大きな赤いはたひるがえる。大きく口を開けて牙を剝き出しにするハイエナの顔が描かれた旗――レッドハイエナ団の旗だ。




 その地上艦の艦長室で、一人の屈強くっきょうな男が豪華ごうかな革張りの椅子に座り、デスクの上に足を放り投げて何者かと通信機で会話している。


「予定通りの時間にタカハシシティをとらえそうだ」


 そう通信機に言葉を投げた豪華な椅子に座った地上艦の艦長――バッケ・ダヌキは咥えた葉巻を吸う。


「いいのかい、アンタを巻き込まない保証はないぜ?」


 煙を吐きながらバッケがそう話すと、嫌らしい感じのする声が通信機のスピーカーから返って来る。


「私の事はご心配なく。それより、ちゃんと確認しておいてくださいね」


 はいはい、とめんどくさそうに返して通話を切ると、バッケは腰を上げて葉巻の火を消し、部屋の外へ出た。




(GET READY FOR SECOND JAM③ へ続く)







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