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GET READY FOR SECOND JAM③




 ◇ ◇ ◇




「はー食った食った。ホッケ先生もう起きてるかな」

「今回の算数の宿題はイケてると思うです。ホッケのおっさんをギャフンと言わせるです」

「おっさん言うな」


 スケトとタニシャの二人はカニチャーハンの屋台を出た後、腹をさすりながら通りを歩く。ホッケ先生はワケ合って学校に通えない・通っていない子供達に読み書きや計算などを教えてくれる、昔の日本でいうところの寺子屋のようなものを運営している人だ。


「スケト、しばらくしたらデカい学校に入学するってマジですか」

「え、あー……うん」


 タニシャの言葉に、何故かうつむき気味で返すスケト。タニシャはその顔をのぞき込むように頭を傾ける。


「な、なんだよ」

「何か嫌なことでもあるですか。悪い奴がいるならマ……じゃなかった、このタニシャさんがぶっ飛ばしてやりましょうか」

「なんでいつも自分の名前をマ……って間違えかけるんだよ。別にそんなんじゃねえよ。その、ただ……」


 スケトの目が横に流れる。タニシャは不思議そうにその様子を見つめる。


「……おまえも学校に入学したらいいのに、とか、そのちょっと……」


 その言葉を聞いてタニシャはあごに手を当て、「ほう」と口に出す。


「ふむ……なるほど、私が学校に……え? なんすか、みゃくありですかスケト、私に!? セクハラですか!?」

「アホかタコ! そんなんじゃねえけどよ。くさっても半年遊んだ仲だし、そう! 腐れ縁って言うの? だから、その、一緒に――」


 その時、おこるスケトの視界の端に、子供を肩車する父親の姿が映り、言葉が止まる。その様子に気づいたタニシャも、同じ方へ視線を移す。


「やっぱ父ちゃんロスですかスケト」

「違わい! てかロスってなんだ死んでねーよ父ちゃんは!」


 スケトは両手を頭の後ろにやって空を見上げる。


「……さみしいワケじゃねえって。だってよ、寂しくなるほど一緒にいた覚えがねえんだもん」


 空を見ながらそうつぶやくスケトの横顔を、さっきと同じようにタニシャは見つめる。サイバーサングラスの文字が「旅愁りょしゅう」に変わる。


「ずーっと仕事でいなくてよ、たまーに休んだと思ったら寝てるし、出かけるのも俺は母ちゃんと二人でってのが多くて。そりゃ時々話すことはあるけど……何話したかちゃんと思い出せねーことの方が多いんだよ」

「スケト……」




 ホォオオオン!




「ほあ!?」


 突然、辺りにけたたましくサイレンがひびき渡る!


「災害用のサイレンじゃない……襲撃しゅうげき!?」


 スケトとタニシャが戸惑っていると、防弾チョッキとヘルメットを身に着けた、物々しい姿の治安部隊が何人も通りに現れた。


「街の近くに不審船団ふしんせんだんを確認しました。 治安部隊の誘導に従って、速やかに避難場所へ向かってください」


 通りに設置されたスピーカーから流れる音声をきっかけに、住民達のどよめきと足音で、通りが一気に騒がしくなる。


「ほああ……! えらいことです! 避難場所ってあっち……スケト?」


 タニシャは隣にいたスケトがいなくなってることに気づく。あわてて辺りを見回すと、街の正門の方へ駆けていくスケトの背中が見えた。


「のあー!? スケト! 避難場所は逆ですぅー!」


 スケトはタニシャの方を振り返ることなく、どんどんと前へ進んでいった。




 ◇ ◇ ◇




「レッドハイエナ団か、確かにこの辺にいるんじゃねえかって推測すいそくはあったけどマジかよ……」


 コマイはズーム表示されたサブモニターに映る、ハイエナの赤い旗を見つめる。


「早めに治安部隊が動けそうでよかった」


 ナツトはそう小さく口にすると、ふぅっとため息を吐いた。


「大丈夫か?」

「ああ、これが仕事だ」


 ナツトの過去を知るコマイが心配して声をかけると、彼はすぐに答えた。


「見張り役の俺らの仕事はここまでかね。流石にこのタイミングでこの街を狙うのは盗賊どもの判断ミスだろ。すぐに勝負付きそう」

「……気は抜けんさ。無事に事が済むまではここを離れん」




 ◇ ◇ ◇




 街の正門から二キロメートル離れた地点。緊急出動したタカハシシティ治安部隊のビッグスーツ二十機が、レッドハイエナ団の旗を掲げる四隻の地上艦へ急接近する。


「再度警告する! それ以上街に接近するようであれば――」

「なんだひどいことでもするのか?」


 コックピットのスピーカーから飛び込んでくる男の声。盗賊側からの通信が治安部隊の警告をさえぎる。レッドハイエナ団の先頭の地上艦の甲板の上に、明るい赤色のビッグスーツが仁王立におうだちしている。男の声はそのパイロットのものだ。両手には二丁のサブマシンガン。




「そいつはゴメンだ。だから先に俺がお前らに酷いことをするよ」




 赤いビッグスーツのパイロット――バッケ・ダヌキがそう言うなり、その機体は突如、甲板の上から消えた。


「なっ!?」


 バッケのスピードに反応できず、ライフル銃を構えたまま棒立ちになる治安部隊のビッグスーツ達。その群れの中心に、瞬間移動のごとくバッケの機体が出現する!


 バッケは高速移動の勢いそのまま水平に一回転。同時に両手のサブマシンガンを周囲の敵機に向けて連射する!




 ズダダダダダ!




「ぐあっ!」

「がっ!」


 一瞬にして七機の治安部隊のビッグスーツが、蜂の巣のように穴だらけになり、倒れる!


(速い! レッドハイエナ団にここまでの実力者がいたのか!?)


 治安部隊のうちの一機が、慌てて実弾ライフルの銃口をバッケに向けようとする。バッケはそれより更に速く、その機体の側面に回り込むと、サブマシンガンの銃口を頭部に押し当て引き金を引く。


 パァン!


 コックピットで機体ダメージのフィードバックを受けた治安部隊員が、頭から血を噴き出し、事切れる。


「なんだアイツ!? こんな一瞬で……」


 狼狽うろたえながらも、残りの治安部隊の機体がバッケに向けて銃を構える。




 ◇ ◇ ◇




 その様子を門番のナツトとコマイは、機体のアイカメラから得られる映像をズーム表示して見ていた。


「ヤバい、雲行きが怪しい。なんだアイツ……盗賊風情ふぜいにしちゃ腕が良すぎるぞ!」


 コマイの緊張した声をスピーカーから聞きながら、ナツトはライフル砲の安全装置を外し、水筒すいとうの水を少し、口に含んだ。




(GET READY FOR SECOND JAM④ へ続く)








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