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GET READY FOR SECOND JAM④




 ◇ ◇ ◇




 避難場所ひなんばしょへ向かう群衆ぐんしゅうをかき分けながら逆の方向――街の正門側へ、スケトは息を切らしながら走っていく。


(……何やってんだ俺。何あせってんだ俺。盗賊の襲撃ぐらい治安部隊がなんとかする。父ちゃんは別に大丈夫だろ)




 ◆ ◆ ◆




 家に帰ってきたナツトは、テーブルに大きな箱を置いた。急に目の前に置かれたそれを見たスケトの目は丸くなる。


「これ……」

「開けてみろ」


 無愛想ぶあいそうなナツトの言葉を聞いて、スケトは箱を開けた。中にはしっかりとしたつくりのバックパックが入っていた。スケトはそれを手でゆっくりとさわってみる。


「何これすっげえ素材!」

「そのブランドは信用できる。俺が使ってる奴も同じブランドだが十年は使っている」


 そう言ってナツトは冷蔵庫れいぞうこへ向かい、野菜ジュースを取り出して少し飲む。


「半年後には学校へ行ける。その祝いだ」


 スケトは目を輝かせながらかばんを手に取る。


「ありがとう父ちゃん! 俺これ――」


 興奮こうふんしながら父へ話しかけようとしたスケトだったが、ナツトは既に冷蔵庫の前からいなくなっていた。




 ◇ ◇ ◇




(なんであの時のことが頭に浮かんでくるんだよ)


 スケトは走りながら首を横に振る。


(確かに父ちゃんと話した中ではまともな方の思い出だけどよ!)




 その時、大人の集団が乗った自動車がスケトの横を走って抜いていく。荷台に乗った大人達が身に着けているのは防弾ぼうだんチョッキにヘルメット、自動小銃じどうしょうじゅう。治安部隊だ。


「状況がわからん!」

「ビッグスーツの……」

「応答できる者は!?」


 抜かれるその一瞬で、様々な言葉がその荷台から聞こえてくる。その混乱とあせりが伝わって来る声色に、スケトの胸の奥で不安が大きくなる。


「父ちゃん……」


 スケトは息を切らしながら走り続けた。




 ◇ ◇ ◇




 ダダダダダ!


 治安部隊はバッケの機体に向けてライフルを斉射せいしゃする。対するバッケは射線の合間に飛び込み、回避しながらサブマシンガンを乱射。


 ズダダダダダ!


 一気に四機の治安部隊機が胸や頭を撃たれ、撃破される。


「残りは八機か」


 バッケは残心して敵の位置を確かめる。わずかな時間の攻防で半分以上の戦力を失った治安部隊は慎重しんちょうになり、発砲を止めてバッケの様子を見ている。


の先でも取るつもりか? あきらめろ、お前らでは俺の相手にならん」 




 その二キロメートル前方、街の正門前でナツトとコマイは、戦闘の様子が気になりつつも門から離れられずにいた。


「おい、治安部隊劣勢れっせいじゃねえのか…!」


 モニターに映る映像で、バッケの機体が跳躍するたびに、治安部隊のビッグスーツが撃破されていく。


「……構えるぞコマイ。奴らは確実にこっちまで来る」

「構えるって……! おい、俺達より強い治安部隊がやられてるんだぞ!? 俺達にどうこうできるかよ!」

「やるしかねえだろ!」


 不意に、前方が静かになった。ナツトとコマイはモニターを見つめる。銃声も聞こえず、砂埃も上がらない。ただ明るい赤色の、バッケのビッグスーツ一機がそこに立っているだけだった。


「……あれ、転がってるのは治安部隊かよ……マズいぞ、マズいマズいマズい!」


 赤いバッケのビッグスーツがコマイ達の方へ接近を始める。その後方からは彼の率いる、レッドハイエナ団の旗を掲げた地上艦が近づいてくる。


 ナツトはライフルの銃口をその方向へ向けて構え、深呼吸する。


「……」

「正気かよナツト! クソッ、やぶれかぶれだ!」


 コマイも観念してライフルを構える。相手は地上艦四隻と腕利うでききのビッグスーツ。対するこちらは人型戦車二機。相手の地上艦に搭載とうさいされている戦力がどれほどかはわからないが、はっきり言って勝ち目はない。




 ズガァン!




 ナツトはライフルの引き金を引いた。轟音ごうおんと共に銃弾がバッケ目掛けて飛んでいく。




 ズダダダダダ!




 現実は非情だった。バッケは容易たやすくその銃弾をサブマシンガンで撃ち落としてしまう。それを確認したナツトはコックピットで舌打ちする。


 ズガァン!  ズガァン!  ズガァン!


 ナツトは諦めることなくライフルを連射する。焼け石に水といえる行為だった。バッケは一発目と同じように、次々と飛来する弾丸をサブマシンガンで撃ち落としていく。そうしているうちにレッドハイエナ団の地上艦群は、どんどんと街の方へ近づいてくる。


「クソッ、クソッ、クソッ!」


 ズガァン!  ズガァン!  ズガァン!

 ズガァン!  ズガァン!  ズガァン!


 横のコマイもやけくそになりながらライフルを連射する。だが卓越たくえつしたパイロットが駆るビッグスーツからしてみれば、人型戦車が一機増えたところで、ありが一匹から二匹になったこととそう変わらない。むなしくも二人の放つ銃弾は、バッケに次々と落とされていく。




 ガコン!


 その戦闘の最中、街の防壁の通用口の扉が開く。中から飛び出してきたのはスケトだ。


 スケトは百メートル強ほど離れた、街の正門の方を見やる。何度か見たことのある父、ナツトの人型戦車が、長い銃を前方に構えている。


 ズガァン!


 耳をつんざくような轟音に、スケトは思わず耳をふさいだ。ナツトの人型戦車が銃を撃ったのだ。


 スケトは銃口が向けられている方角を見やる。禍々《まがまが》しい表情のけものが描かれた旗を掲げた地上艦の群れが、こちらへ向かってくる。


「え、ちょ、父ちゃん」


 子供のスケトでもすぐに状況は理解できた。分が悪すぎる。




 ――自分の父親がき殺される




 スケトの頭に直感がそう告げる。


(冗談じゃない)


 スケトはこぶしにぎりしめた。


(十歳になっても大して話できてねえのに、こんなんで死んじまったら、俺は父ちゃんと――)


「父ちゃん!」


 スケトは力の限りさけんだ。ライフルの轟音がその叫びをかき消す。ぐんぐんと大きくなっていく盗賊の地上艦。


「父ちゃん! 父ちゃん!」


 スケトは叫ぶのをあきらめない。




 もう正門と盗賊との距離はそうない。盗賊の地上艦の甲板の上、バッケのサブマシンガンの銃口はついに――ナツトの人型戦車の方へ向けられる。


「……父ちゃーん!」


 スケトは必死でさけぶ。操縦桿そうじゅうかんを握るナツトは、自身に向けられる銃口を見て死を覚悟した。






 ブォン!






「!!」


 バッケは突如、甲板の上から横に飛び退く。次の瞬間、目にもとまらぬ速さの斬撃が真上から地上艦に襲い掛かった!


 ドゴォン!


 地上艦はその先端から縦半分ほどを一撃で破壊され、その場に停止した。辛うじて回避できたバッケは、その位置に視線を移す。




「……なんだコイツは」




 前方半分をひどく破壊された地上艦のすぐそばに、黒色のビッグスーツが立っていた。それが今の一撃を放った当人であることはすぐにわかった。




 その手には機体と同じほどの長さがあるであろう巨大な金属の大剣


 その身体ボディ漆黒しっこくのマントに隠され見ることは出来ない。


 《だいだい》色のアイカバーの奥のセンサー群が光り、盗賊達を射竦いすくめた。




(GET READY FOR SECOND JAM⑤ へ続く)


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