目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

GET READY FOR SECOND JAM⑤

 突然現れた黒い機体に、ナツトとコマイは釘付くぎづけになる。


「なん……だ……? 助かったのか?」


 コマイは戦闘中であることも忘れて口を半開きにする。一方、ナツトの方もおどろきで放心状態になっていたが、数秒でわれに返り、ライフルを構え直した。


「……新手……味方……なのか」




 面食めんくらっているのはバッケ側も同様だ。攻撃をモロに食らった地上艦から指示をう音声が、コックピットのスピーカーからあわただしく鳴り響く。


「……艦からすぐに脱出しろ。後続の艦はビッグスーツの発進準備」


 バッケは淡々《たんたん》とした声でそれぞれの艦に乗った部下に指示を出す。その視線は眼前がんぜんの黒い機体に向けられたまま動かない。


(見たことがない。ワンオフ機か……タカハシシティにはトーグリ・タンプルがいる。ワンオフ機がいる事自体はおかしくないが)


 バッケはサブマシンガンのグリップをにぎりなおす。


「楽な仕事にはなりそうにねえな……」




 ◇ ◇ ◇




「なんだあの黒いの……父ちゃんの味方なのか……?」


 スケトが状況を呑み込めずに突っ立っていると、出てきた通用口の方から自動車の駆動音が近づいてくる。


「いたー! スケト見っけたですー!」


 聞きなれた女子の声に、スケトは通用口の方を振り返る。通用口の近くに停められた自動車を降りて、走り寄ってきたのはタニシャだ。サイバーサングラスの文字が「勇者ゆうしゃ」に変わってる。


「やっぱり父ちゃんの様子見に行ってたです! 油断ならねえです! クソガキ!」

「ば、馬鹿ばか、そんなんじゃ」

「話は後にしろ! そこはあぶないから離れるぞ!」


 スケトがタニシャに抗議こうぎしようとしたところを、大人の男の声がさえぎった。タニシャが降りてきたバンタイプの自動車からだ。運転席にはターバンタイプのヘッドバンドを着けた青年が乗っている。声の主だ。


「タニシャ、アレ誰だ?」

「え!? えーとえーと」

「マヨ! まだるっこしい話は後だ! 離れるのが先!」

「マヨ!?」


 動揺どうようするスケトをタニシャがあわてて引っ張って車に連れて行こうとする。


「え、えーと、大丈夫! タックは変態へんたいだけど誘拐犯ゆうかいはんじゃないです!」

「不安だなあ!?」


 そう言いつつもスケトは予想だにしない事態の連続に、流されるように従うしかなかった。車はタニシャとスケトを乗せると急発進してその場を離れる。




 他の市民は避難ひなんを大体終えたらしい。すっかり人の気配がなくなった通りを自動車はぐんぐんと進んでいく。


「マヨ! その子がお前の言ってたダチか?」

「タック! わたすのことは今〝タニシャ・メークイン〟ってことにしとけって言ったのはタックですよ!」

「どうせこの車の行き先でバレるだろ、その辺りの話は後で考えようぜ」

「え、何? 何?」


 スケトはタニシャとタックという青年が話すのを聞いて混乱する。


「とにかく工場にいれば安心だ。マヨも見たろ? カリオの奴が帰ってきた。ギリギリセーフだったけどよ」

「おお、あの黒いのやっぱカリオでしたか。見たことあるロボだと思って――のわぁ!?」


 突如、タックが運転する自動車が段差に乗り上げて、激しくれる。転倒こそはしなかったが……はずみでタニシャの付けていたサイバーサングラスが外れ、ゆかに落ちた。


「おあ……」

「タ、タニシャ……お前、素顔が」


 タニシャの素顔があらわになるのを見て、スケトは目を丸くする。


「え、えっと、その顔……配られてた手配書かなんかで見たような……気のせいか? ってかマヨって……もしかして、マヨ・ポテト……」

「……へへへ……」




 タニシャ・メークイン、改めマヨ・ポテトは苦笑いしながら目をおよがせた。




 ◇ ◇ ◇




 ブォン!


 黒い機体は高速でバッケに突撃し、巨剣きょけんを振り下ろす。バッケは横に転がって回避しながらサブマシンガンで反撃を試みる。


 ズダダダダダ!


 超重量の武器による攻撃の直後にも関わらず、黒い機体は素早く跳躍ちょうやくし、弾丸を難なくかわす。再び二機は向き合って対峙たいじする。


「……なんだコイツは」


 バッケは同じ言葉を繰り返した。


「そりゃこっちの台詞セリフなんだが」


 眼前の黒い機体から男性の声が返ってくる。


「割と本気でりかかったのに難なくよけやがって、ただの盗賊頭とうぞくがしらじゃねえだろ」




 バッケは男の返事を聞きながらその機体を見つめる。黒い色、種類は異なるがけんだけという装備。


「おまえ……まさか〝ブラックトリオ〟のカリオ・ボーズか?」




 黒い機体のコックピットの中、シートに座る丸刈まるがりの細身の男――カリオ・ボーズはため息をついた。


「こっそり戻ってくるつもりだったのによ。派手にやってくれやがって」




 カリオは大剣をバッケに向けて構えた。




(GET READY FOR SECOND JAM⑥ へ続く)


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?