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第7話 天使と食堂

 食堂で前田紗栄子まえださえこの集団の端に座り勉強を始めようとしたら、隣のやつが前田さんに声を掛けた。


「前田さん! これ分からないので教えてもらえないかな」


「え? どれどれ?」


 前田さんは身を乗り出して答えようとしている。


 ふと見ると、少し複雑だが俺でも分かる問題だ。


「それぐらい、俺でも教えられるぞ。前田さん、俺に任せてくれるか?」


「え? いいの? えーと……」


 前田さんが俺を見る。こいつ、俺の名前覚えてないな。


中里蒼なかざとあおです」


「あ、そうそう。中里君、だよね。覚えてるよ」


「いや、絶対忘れてたでしょ」


「そんなことない。ど忘れだよ」


 やっぱり忘れられていたようだ。


「とにかく、俺が教えられるのは教えるから。俺、学年2位だからね」


「あ、そういえばなんかそんなこと言ってたね」


 うーん、学年2位とかほんと興味ないんだな。


「じゃあ、任せてくれるか?」


「うん。お願いね」


 前田さんが俺に任せた以上、隣のやつも断れないだろう。

 俺のことをにらみながら問題集を出してきた。


「お前に分かるのか?」


「ああ。じゃあ、教えるぞ。これはな……」


 俺は教えると言った以上、ちゃんと丁寧に教える。


「どうだ? この説明で理解できたか?」


「……なるほどな。お前、教えるのうまいな」


 意外にも本当に教えて欲しかったようだ。こいつはまじめなやつだな。


「そ、そうか。役に立てて良かったよ」


「また、なんかあったら頼む」


「あ、ああ」


 なんか照れくさくなった。


 その後も、前田さんに質問がどんどん上がるが、俺が分かる問題は俺が教えるように分担していく。

 だが、中には俺が教えようとすると「ああ、自分でやるからやっぱいいわ」と取り下げるやつも結構居た。


 そんな感じであっという間に時間は過ぎていく。

 すると、食堂の外から駆け足でやってくるやつがいた。小島有紀だ。


「ハァハァ。紗栄子! 来たよ」


「あ、有紀。もうそんな時間か」


「帰ろうか」


「うん!」


 前田さんが荷物を片付け始める。すると、周りの男子も一斉に片付けを始めた。前田さんと一緒に帰ろうという魂胆か。まったく、しょうがない奴らだ。


 と思いつつ、俺も片付けを始めた。



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