食堂で
「前田さん! これ分からないので教えてもらえないかな」
「え? どれどれ?」
前田さんは身を乗り出して答えようとしている。
ふと見ると、少し複雑だが俺でも分かる問題だ。
「それぐらい、俺でも教えられるぞ。前田さん、俺に任せてくれるか?」
「え? いいの? えーと……」
前田さんが俺を見る。こいつ、俺の名前覚えてないな。
「
「あ、そうそう。中里君、だよね。覚えてるよ」
「いや、絶対忘れてたでしょ」
「そんなことない。ど忘れだよ」
やっぱり忘れられていたようだ。
「とにかく、俺が教えられるのは教えるから。俺、学年2位だからね」
「あ、そういえばなんかそんなこと言ってたね」
うーん、学年2位とかほんと興味ないんだな。
「じゃあ、任せてくれるか?」
「うん。お願いね」
前田さんが俺に任せた以上、隣のやつも断れないだろう。
俺のことをにらみながら問題集を出してきた。
「お前に分かるのか?」
「ああ。じゃあ、教えるぞ。これはな……」
俺は教えると言った以上、ちゃんと丁寧に教える。
「どうだ? この説明で理解できたか?」
「……なるほどな。お前、教えるのうまいな」
意外にも本当に教えて欲しかったようだ。こいつはまじめなやつだな。
「そ、そうか。役に立てて良かったよ」
「また、なんかあったら頼む」
「あ、ああ」
なんか照れくさくなった。
その後も、前田さんに質問がどんどん上がるが、俺が分かる問題は俺が教えるように分担していく。
だが、中には俺が教えようとすると「ああ、自分でやるからやっぱいいわ」と取り下げるやつも結構居た。
そんな感じであっという間に時間は過ぎていく。
すると、食堂の外から駆け足でやってくるやつがいた。小島有紀だ。
「ハァハァ。紗栄子! 来たよ」
「あ、有紀。もうそんな時間か」
「帰ろうか」
「うん!」
前田さんが荷物を片付け始める。すると、周りの男子も一斉に片付けを始めた。前田さんと一緒に帰ろうという魂胆か。まったく、しょうがない奴らだ。
と思いつつ、俺も片付けを始めた。