「私の、好きなタイプは……」
じっと、ハルキを見つめていた。
私が好きなのは、あなただと……そう訴えるように。
けれど、その気持ちが伝わるわけもなく。
「カレン?」
「!」
首をかしげるハルキの言葉に、私は我に返った。
わ、私は今……なにを言おうと、していたんだ?
『カレンの好きなタイプとかも気になるし……』
『……ハルキ』
こ、これじゃあ……私の好きなタイプが、ハルキだって言っているみたいじゃないか!
いや、間違ってはいないんだけど……で、でもちょっと待って!
私、自分でも意識しないうちに……封印していた気持ちが、溢れそうになってる!?
「……か、かっこいい、人よ」
なんとか自分を取り繕う。
……取り繕えて、いるだろうか?
「へー、カレンってば面食いだったの?」
「か、顔の話じゃないわよ! ……私が、かっこいいって感じた人」
「それはまた、難易度が高そうだね」
なんとか、ごまかせたかな。ごまかせたよね?
それに、これはなにもでまかせを言っているわけではない。
……私の中では、ずっとハルキが『かっこいい人』だったんだもの。
「私だけじゃなくて……ハルキの理想も、教えてよ」
「ボクの?」
私だけ答えるのは不公平だ……そんな意味を込めて、私は聞く。
さっきは、告白云々の話はしたけど、ハルキの理想のタイプを聞いていない。
それを聞いて、私はどうしたいのか……それは、わからないけど。
でも、聞きたい。
「そうだなぁ……強いて言うなら、一緒にいて楽しい人、かな」
「一緒にいて……楽しい……」
うーんと考えるようにしてから、ハルキは答えた。
それは、外見とかではなく……中身の答え。
それも、ハルキがどう感じるか、というものだ。
頭がいい子とか、運動できる子、というものなら……頑張ればどうにかなるけど。
一緒にいて楽しいなんて、ハルキの主観でしかない。私が頑張ったところで、なんの意味もない。
……頑張るって、なにをだよ。
「そう。やっぱり、お互いの相性って大事だと思うんだよ。
……あ、そう考えたらカレンが当てはまるかも」
「!」
それはきっと、ハルキにとっては……なにげない、一言。
だけど私にとっては、どうしようもなく嬉しくて……そして、苦しい一言。
どうして、そんなことを平然と言えてしまうのだろう。
「あははは、なーんてね!」
わかってる。……それは、ハルキが私のことを恋愛対象として、なんとも思っていないからだ。
当然だ。私は女の子で、ハルキも女の子。むしろ、ハルキが女の子だとわかった上でこんな感情を抱いたままの私が、おかしいんだ。
捨てなきゃ、こんな気持ちは。この三カ月、この気持ちを封印して、いい友達として側にいようと誓ったじゃないか。
「カレン? どうかした? さっきから様子がおかしいけど」
こんな変な気持ちになっているのに、ハルキが心配してくれるだけで……嬉しいと感じてしまう。
あぁ……ホントに、なんでハルキが男の子じゃなかったんだろう。
もしくは、私が男でもよかったかもしれないな。
「……なんでもない。ちょっと、疲れちゃって」
「確かに、今日は暑いもんね」
最近は、温暖化の影響だろうか……七月に入ったあたりで、すでに暑かった。
夏休みともなれば、猛暑が猛威を振るう。そのおかげか、ハルキはすんなりと私の言葉を信じてくれた。
こうも暑いと、運動は好きだけど運動部に入ってなくて良かったと思う。
ハルキは優しいから、こんな簡単な嘘にも騙されちゃう。
ハルキに嘘をついてしまう自分が、なんだか嫌だなぁ。
「なら、木陰に移動しようか。ここよりはマシでしょ」
「うん」
私を支えるようにして、ハルキは木陰へと移動する。
こういうさりげないエスコートに、いちいちときめいてしまう。肩を抱くハルキの手が、熱い。
いや……ハルキの手が触れた、私の肩が熱いんだ。
「ふぅ。近くに水場でもあればいいんだけどね」
「いいよ、そこまでしなくても」
疲れてしまったというのは、嘘だ。だから、それほど深刻になるほどでもない。
それをごまかすように、私はある方向を指差した。
「ほら、あそこ。走ってるの聡じゃない?」
「え? ……あ、ホントだ」
指差す先には、聡らしき人物が走っていた。
陸上部の顧問に挨拶に行っただけだというのに、どうして走ることになっているのか。私が知るよしもない。
でも、ハルキの興味はそらせたようだ。
「すごいなぁ、本当に速いんだね」
「ね」
あの様子じゃ、聡は心配することはなさそうだな。
しばらく待っても続くようだったら、メッセージだけ残して帰ろう。
「あれ?
「ん? あ、蓮花ちゃん」
ふと、私たちを呼ぶ声がした。
そこにいたのは、クラスメイトの
彼女は元気に手を振り、こっちに近づいてきた。いつも伸ばしたままの金髪に染めた長髪は、今は後ろで縛られ一つになっている。
「そういえば蓮花、陸上部だったっけ」
「そういえばって、華怜ひどいなー」
彼女の着ているユニフォームを見て、蓮花も陸上部員であったことを思い出す。
蓮花は額の汗をぬぐい、それでも笑顔だった。
「二人とも、どうしたの? 委員会の用事?」
「いや、弟の付き添い」
「ふぅん。
あ、ねえ聞いてよ! 今練習してたら、なんかめっちゃかっこいい子が来たの! しかもその子めちゃくちゃ速いんだよ! 同じ学校の生徒って感じじゃないし、なんか中学生っぽいんだよね!」
「あ、それウチの弟」
「マジで!? 紹介して!」
あー……面倒なのが来ちゃったよ。