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第37話 そう考えたらカレンが当てはまるかも



「私の、好きなタイプは……」


 じっと、ハルキを見つめていた。

 私が好きなのは、あなただと……そう訴えるように。


 けれど、その気持ちが伝わるわけもなく。


「カレン?」


「!」


 首をかしげるハルキの言葉に、私は我に返った。

 わ、私は今……なにを言おうと、していたんだ?



『カレンの好きなタイプとかも気になるし……』


『……ハルキ』



 こ、これじゃあ……私の好きなタイプが、ハルキだって言っているみたいじゃないか!

 いや、間違ってはいないんだけど……で、でもちょっと待って!


 私、自分でも意識しないうちに……封印していた気持ちが、溢れそうになってる!?


「……か、かっこいい、人よ」


 なんとか自分を取り繕う。

 ……取り繕えて、いるだろうか?


「へー、カレンってば面食いだったの?」


「か、顔の話じゃないわよ! ……私が、かっこいいって感じた人」


「それはまた、難易度が高そうだね」


 なんとか、ごまかせたかな。ごまかせたよね?

 それに、これはなにもでまかせを言っているわけではない。


 ……私の中では、ずっとハルキが『かっこいい人』だったんだもの。


「私だけじゃなくて……ハルキの理想も、教えてよ」


「ボクの?」


 私だけ答えるのは不公平だ……そんな意味を込めて、私は聞く。


 さっきは、告白云々の話はしたけど、ハルキの理想のタイプを聞いていない。

 それを聞いて、私はどうしたいのか……それは、わからないけど。


 でも、聞きたい。


「そうだなぁ……強いて言うなら、一緒にいて楽しい人、かな」


「一緒にいて……楽しい……」


 うーんと考えるようにしてから、ハルキは答えた。

 それは、外見とかではなく……中身の答え。


 それも、ハルキがどう感じるか、というものだ。

 頭がいい子とか、運動できる子、というものなら……頑張ればどうにかなるけど。


 一緒にいて楽しいなんて、ハルキの主観でしかない。私が頑張ったところで、なんの意味もない。

 ……頑張るって、なにをだよ。


「そう。やっぱり、お互いの相性って大事だと思うんだよ。

 ……あ、そう考えたらカレンが当てはまるかも」


「!」


 それはきっと、ハルキにとっては……なにげない、一言。

 だけど私にとっては、どうしようもなく嬉しくて……そして、苦しい一言。


 どうして、そんなことを平然と言えてしまうのだろう。


「あははは、なーんてね!」


 わかってる。……それは、ハルキが私のことを恋愛対象として、なんとも思っていないからだ。

 当然だ。私は女の子で、ハルキも女の子。むしろ、ハルキが女の子だとわかった上でこんな感情を抱いたままの私が、おかしいんだ。


 捨てなきゃ、こんな気持ちは。この三カ月、この気持ちを封印して、いい友達として側にいようと誓ったじゃないか。


「カレン? どうかした? さっきから様子がおかしいけど」


 こんな変な気持ちになっているのに、ハルキが心配してくれるだけで……嬉しいと感じてしまう。


 あぁ……ホントに、なんでハルキが男の子じゃなかったんだろう。

 もしくは、私が男でもよかったかもしれないな。


「……なんでもない。ちょっと、疲れちゃって」


「確かに、今日は暑いもんね」


 最近は、温暖化の影響だろうか……七月に入ったあたりで、すでに暑かった。

 夏休みともなれば、猛暑が猛威を振るう。そのおかげか、ハルキはすんなりと私の言葉を信じてくれた。

 こうも暑いと、運動は好きだけど運動部に入ってなくて良かったと思う。


 ハルキは優しいから、こんな簡単な嘘にも騙されちゃう。

 ハルキに嘘をついてしまう自分が、なんだか嫌だなぁ。


「なら、木陰に移動しようか。ここよりはマシでしょ」


「うん」


 私を支えるようにして、ハルキは木陰へと移動する。

 こういうさりげないエスコートに、いちいちときめいてしまう。肩を抱くハルキの手が、熱い。


 いや……ハルキの手が触れた、私の肩が熱いんだ。


「ふぅ。近くに水場でもあればいいんだけどね」


「いいよ、そこまでしなくても」


 疲れてしまったというのは、嘘だ。だから、それほど深刻になるほどでもない。

 それをごまかすように、私はある方向を指差した。


「ほら、あそこ。走ってるの聡じゃない?」


「え? ……あ、ホントだ」


 指差す先には、聡らしき人物が走っていた。

 陸上部の顧問に挨拶に行っただけだというのに、どうして走ることになっているのか。私が知るよしもない。


 でも、ハルキの興味はそらせたようだ。


「すごいなぁ、本当に速いんだね」


「ね」


 あの様子じゃ、聡は心配することはなさそうだな。

 しばらく待っても続くようだったら、メッセージだけ残して帰ろう。


「あれ? 華怜かれん晴樹はるきじゃーん!」


「ん? あ、蓮花ちゃん」


 ふと、私たちを呼ぶ声がした。

 そこにいたのは、クラスメイトの高科 蓮花たかしな れんげだった。


 彼女は元気に手を振り、こっちに近づいてきた。いつも伸ばしたままの金髪に染めた長髪は、今は後ろで縛られ一つになっている。


「そういえば蓮花、陸上部だったっけ」


「そういえばって、華怜ひどいなー」


 彼女の着ているユニフォームを見て、蓮花も陸上部員であったことを思い出す。

 蓮花は額の汗をぬぐい、それでも笑顔だった。


「二人とも、どうしたの? 委員会の用事?」


「いや、弟の付き添い」


「ふぅん。

 あ、ねえ聞いてよ! 今練習してたら、なんかめっちゃかっこいい子が来たの! しかもその子めちゃくちゃ速いんだよ! 同じ学校の生徒って感じじゃないし、なんか中学生っぽいんだよね!」


「あ、それウチの弟」


「マジで!? 紹介して!」


 あー……面倒なのが来ちゃったよ。

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