きゃっきゃとはしゃぐ蓮花。
この子……まさか中学生を……それも人の弟を!?
「蓮花ちゃん、もしかして聡に興味あるの?」
「さとる? へぇ、あの子聡って言うんだぁ。
だって、顔は悪くないし運動神経も良さそうだし」
蓮花の様子を見て、ハルキが聞いた。
それに対して蓮花は、意味ありげな笑みを浮かべて答えた。
この二人は最初は名字で呼び合っていたけど、次第に親しくなっていき、今では「
別に嫉妬なんてしていない。私なんて、ずっと前から呼び捨てにされてるししてるし呼び合う仲だし。
……でも、名字からだんだんと名前へ……という名前イベントは、少しうらやましくもある。
「聡……へぇ、
何度も名前を確かめるようにつぶやく蓮花に、私はきっとあきれた表情を浮かべていた。
「あんた、中学生相手に……」
「なーに言ってんの。中学生ったって、たった二つしか違わないんだよ! 二歳差なんて誤差だよ誤差!」
むっと反論するように、蓮花はぶんぶんと手を振った。
「そりゃ、高校生と中学生って考えると……あれかもしれないけどさ。二歳差って考えれば、あってないようなもんじゃない」
「ないもんではないと思うわよ」
ともかく、聡を気に入ったらしい蓮花。
まだ話したこともない様子なので、百パーセント顔で選んだなこの子。
やっぱりウチの弟、かっこいい部類に入るらしい。
「あの子、ウチの高校に入るの!?」
「さあ、そうなんじゃない」
「ひゃーっ」
どうしよう……友達が弟を狙っているというこの状況。姉としては複雑だ。
かといって、別に妨害する理由なんてないし……
……ん? ちょっと待って。もしも蓮花が、聡と付き合うようなことになったら。
「そうなったら……聡は、ハルキを狙わなくなる……」
「カレン? ブツブツ言ってどうしたの?」
「ぃよし、蓮花! 私は全面的に応援しようじゃないか!」
「ほんとー!?」
私の中で様々なピースがかちあい、その結果として蓮花と聡をくっつけることに決める。
蓮花を聡とくっつけてしまえば、聡がもうハルキを見ることはなくなるからだ。
そもそも、聡が今ハルキを気にしているのは、好きだからというより距離感の近いお姉さんにドキドキしている……というのが強い。
あれだよ、ドキドキと恋とを勘違いしてしまう。ストックホルムってやつだ。なんか違う気もする。
「いいの? そんな勝手に」
「いいのいいの、今の聡は猿なんだから」
「猿……?」
そう、恋に恋する乙女ならぬ、思春期男子がお姉さんにドキドキしているだけのこと。つまり、女の人なら誰でもいいのだ。猿なのだ。
だから、とりあえず年上の女性をあてがえばいい。
それに、私だって鬼じゃない。誰でもってわけじゃないのさ。
蓮花だって、ハルキほどじゃないけどイケてる方だと思う。本人は美容に気を遣っていると言うだけあって、それなりにかわいいし。
「くふふふふ」
「カレン……?」
「なんかまたバカなこと考えてそうね」
「そう言えば、蓮花ちゃん前に、カレンは頭いいけどバカなところがあるって言ってたよね。その意味が最近、わかった気がするんだ」
「でしょー!?」
くっ……なんか二人に、好き勝手言われている!
しかも、最近ハルキまでそんなこと感じてきていたのか!
「うるさいなぁ。そんなこと言うなら、後押ししてあげないよ」
「うわぁあ、ごめん、ごめんよー! もうからかわないから頼むよー、お、ね、え、ちゃ、ん!」
「……やっぱやめようかな」
考えてみれば、聡と蓮花が付き合えば……蓮花から、『お義姉ちゃん』と呼ばれる可能性があるのか。
しかも今の悪ふざけみたいに、ほぼ百パーセント呼んでくるな。
それを思うと、げんなりしてしまう。やっぱりやめて別の子にしようかな。
「お願いだよぉ! 高校生にもなって彼氏ナシは寂しいんだよぉ! イケメンの彼氏が欲しいんだよぉ!」
ついには私の腰にしがみつき、わんわんと泣き真似をし始める始末。ええい離れろ暑苦しい!
というか、本音ダダ漏れだな……
別に蓮花なら、そんな必死になれなくても彼氏くらいすぐに作れそうだけどな。
「蓮花ちゃん、彼とはどうなったの? 仲良くやってるみたいだけど」
ふと、ハルキが聞いた。
「彼……もしかして、滝野くんのこと?」
「そうそう」
二人の間で話が進んでいく。滝野くん? 誰だっけ。
いかんな、三ヶ月も経つのにまだクラスメイトの名前を覚えていないというのは。思い出せー、思い出せー。
……あぁ、初日にナンパしてきたチャラ男か。
「あれはだめねー、友達止まりかな。友達としてなら楽しいし一緒にいても苦にならないけど、彼氏ってなると……だめね」
具体的な理由は言わないが、とにかくだめらしい。とにかくだめってのが一番辛辣だなぁ。
名指しされてないのに、名前が出たあたり蓮花としても、仲のいい男の子って印象ではあるんだろうけど。
……ま、どんまい、チャラ男!
「クラスメイトや、同じ学年にもなかなかいい人は居ないわねー」
「年下はいいんかい」
「私、年齢差は気にしないタイプだからー!」
……心が強いな、蓮花は。