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第39話 友達と弟が付き合うのは構わない感じ?



 そんなこんなで、聡に蓮花を紹介することに決めた私。

 蓮花本人が年下でも構わないのだと言うのだし、聡だってハルキがありならハルキと同い年の蓮花もありのはずだ。


 それに……見た目は派手めでギャルみたいな蓮花だけど、中身はわりと真面目で初心だ。

 まあ初心な子が彼氏欲しいのかがっつくのかって話だけど。


 金髪に染めた髪も、高校デビューのようなものだし。それ以前から蓮花を知っている身からすれば、わりと安心して聡を預けられる先ではある。


「で、蓮花はこんなところでなにしてるのよ」


 私たちは、聡を学校に案内してここまで着た。蓮花も、部活中なら学校にいてもおかしくない。

 でも、陸上部は向こうで部活中のはずだ。なんで離れたこんなところにいるんだろう。しかも校舎から歩いてきた。


 その質問に、蓮花はあははと苦笑いを浮かべた。


「ちょっと、生徒指導の先生に呼ばれちゃってね」


「まさかその金髪……」


「違うわよ」


 ウチの高校は、わりと服装や髪型は自由な校風だ。常軌を逸したものでなければ、たいていのものは良しとされている。

 なので、蓮花の金髪染めもなにも言われない。はずだ。


 現に、この三ヶ月なにもなかったわけだし。

 髪のことで呼ばれたのか聞いたら、蓮花は違うと答えた。


「じゃあ、なにがあったの?」


「たいしたことじゃないんだよ。ただ、テストの点が……ね。補習を合格できなかったら、夏休み中部活は禁止だって」


「たいしたことじゃん!」


 ま、生徒指導の先生に呼ばれるとしたら、身だしなみか勉強のことについてだろう。多分。

 そして、それは勉強のことだった。


 蓮花は、言っちゃなんだけど頭がいい方ではない。それでも、この高校に入学できるくらいの学力はある。

 入学時だって、危うげはなかったはずだけど……


「……サボってたね?」


「ぎくっ」


 ぎくって言葉にして言う人初めて見た。


 蓮花は入学してから、部活に力を入れていた。

 おかげでタイムが伸びたとかなんとか喜んでいたけど、代わりに学力が……ってことか。


 笑い事じゃないじゃないか。


「ねぇ、二人とも……」


「……勉強教えてって?」


「さっすが、話が早い!」


 蓮花は私たちに、勉強を教えてと頼むのだ。

 テストのカンニングをしようとか、答えを写してしまおうとか……そういう頼みならば断るけど、補習合格のために勉強を教えるのならば別に全然ありだ。


 ただ、私はここで一つ、いいことを思いついた。


「なら、ここに聡も混ぜちゃう?」


「えっ」


「聡を?」


 私の提案に、蓮花とハルキは驚いた様子だ。

 それはそうだろう。私たちの……いや蓮花の補習予習に、聡を混ぜようというのだ。


 でも、これは単なる思いつき……ではあるけど、それだけじゃない。


「聡は二年後、部活推薦でこの高校に入ると思う。でも、いくら推薦で入れるって言っても、高校の学力にあった頭は持っておいたほうがいいでしょ?」


「それはまあ、そうだね」


「だから、蓮花の補習予習に聡を混ぜて、聡の勉強会にもしちゃうの」


 我ながら、ナイスアイデアだと思う。


 蓮花と聡を一緒に勉強させる。二人の時間が増える。聡は高校の予習ができる。蓮花は補習を回避できる。

 ウィンウィンウィンだ。


「けど、聡はまだ中二だよ? 高一の勉強なんて……」


「あら、人によっては中一の時点ですでに狙いの高校を決めて、試験勉強をしているというし。早すぎるってことはないわ」


 むしろ受験勉強も兼ねていると考えれば、中二の夏というのはベストなタイミングと言えるんじゃないだろうか。


「さ、聡くんと、勉強会かぁ……で、でも、補習の勉強会に呼ぶなんて、なんだか恥ずかしい……」


「せっかく聡との勉強会セッティングしてあげるんだから文句言わない。

 それに一緒だからって舞い上がらないこと。あんまりバカなところ見せたら、聡から引かれちゃうかもよ」


「……頑張る」


 そして蓮花を聡と一緒に勉強させることで、蓮花の集中力を上げる効果も期待できる。

 部活はともかく、勉強に関して集中力があるとは言えない蓮花。


 でも、気になる異性の前でカッコ悪いところは見せられない。

 この際、すでに赤点を取って補習に挑む……というカッコ悪いのは無視しよう。こっからだ。


 まさか、補習でさらに赤点を取るなんてカッコ悪いところを見せられないだろう。


「よし、じゃあそれで決まり」


「当事者抜きでどんどん話が進んでいく」


 ハルキなの言葉に、確かにと思わなくもないけど……ま、なんとかなるだろう。

 最悪、ハルキと蓮花にお願いとおねだりさせれば、聡は簡単に落ちるはずだ。


 男子中学生……いや、聡はそういうのにはチョロいはずだ。


「じゃ、細かいことはまた連絡するから。蓮花は部活に戻りなよ」


「そうね。用事も終わったのに戻るの遅くなったら、怒られちゃう」


 そううなずいて、蓮花は駆け出そうとして……


「じゃあ、勉強会の件よろしくねー」


「おー」


 そう言い残して、走り去っていった。

 その後ろ姿を見送り、私はほっと一息。


「カレン的には、友達と弟が付き合うのは構わない感じ?」


「まあ、複雑ではあるけど……うん、それはそれでありかな」


 これがうまくいけば、蓮花には春が来る。聡にも春が来る。

 そして私は、安心してハルキを独り占めできる。これだ!


 自分で自分の策略に震えてしまうね。

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