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第40話 すごい美人だよ



「よ、おかえりー」


「た、ただいま……です」


 蓮花と別れてしばらくしてから、聡が戻ってきた。

 気さくに手を上げるハルキに、聡はおずおずと手を振り返した。


 やはりまだ、距離感に慣れないようだ。


「あはは、ですだなんて。そんなかしこまる必要ないって」


 聡の挙動に、ハルキはお腹を抱えて笑っていた。

 中性的とは言え、その顔は美少女の部類に入る。でもハルキの取る行動は、所々で男の子っぽい。


 男の子に間違われるのは顔のせいかと思っていたけど、ハルキの挙動にも原因があるのではないかと思ってきた。


「それで、どうだったの陸上部は」


「ん? あぁ……とりあえず長距離走って見せてくれって言われたんで、走ってきた。待たせる形になって悪かったな」


「それはいいんだけど、挨拶だけのはずがよかったの?」


 私が陸上部の様子を聞くと、聡は額に滲んだ汗を服の袖で拭いながら答える。

 その様子を見たハルキが、自分のポケットからハンカチを取り出してそれを差し出しながら、聞いた。


「まあ、走ることになるかもとはなんとなく思ってたし。……い、いいって別に」


「だーめ。ちゃんと拭かないと」


「わ、わかったからせめて自分で……」


「じっとしてなさい」


 ハルキのハンカチを見て、その必要はないと聡は拒否。多分、女の子からのハンカチを使うなんて恐れ多いとか思ってるんだろう。

 だけど、ハルキは逃さない。


 ハルキの剣幕に聡は諦めてハンカチを受け取ろうとするが、ハルキは自分の手で聡の額にハンカチを押し当てた。

 そしてそのまま、聡の汗を拭ってやるのだ。


「……っ」


「ほら、そんな顔赤くしちゃって。暑いんだったら、無理しないの」


「いやっ、これは……」


 ハルキによる汗拭き拭きに、聡は顔を赤くしていた。

 それが、暑さによるものだと思った様子のハルキだけど……それが暑さによるものではないと、私はわかっていた。


 聡め……ハルキに拭き拭きしてもらうなんて、うらやまけしからん。


「いいってハルキ、それくらい自分でやらせなよ」


「えー、でも」


 私はなんとなくそれが嫌で、ハルキからハンカチを奪い取る。

 本当ならハルキのハンカチを使わせるのもイヤだけど、私はあいにくハンカチを持ってきていない。これしかハンカチがない。


 くっ……こういうところで、なんか女子力がハルキに負けてしまっているような気がする。

 いや、普段なら持ってるんだよ? 今日はその、急だったから……


「はい、聡」


「……おう」


 さすがにハンカチをそのまま奪い去るなんてことはできないので、聡に渡した。

 聡は不服なのかどうかわからないけど、複雑そうな表情を浮かべながらハンカチを受け取った。


「さ、帰ろっか」


 ひとまず用事も終わったことだし、私たちは家に戻ることに。


 聡が言うには、陸上部の雰囲気はいいらしい。顧問はもちろん、上級生も優しい人ばかりだと。

 まあ聡が入学する二年後には、すでに今の一年生以外卒業しちゃってるんだけどね。


「気に入ったみたいならよかったよ」


 聡がウチの陸上部に入れば、その頃には三年生になった蓮花と一緒に部活をすることができる。

 その頃には、二人の関係はどうなっているのだろう。


 まあ、まだ二人を会わせてもないのにそれを考えるのは早いか。


「聡、さっき私の友達も交えて四人で、勉強会開こうってことになったから」


「……いきなりなんの話だ」


 帰路を歩く中、突然私が話しだした内容に聡は頭にはてなを浮かべていた。


「聡が陸上部に言っている間に、ボクたちの友達と話をしてね。そこで、勉強会をしようってことになったんだ」


「……勉強会はいいとして。さっき四人って言ってたように聞こえたんだけど……」


「私、ハルキ、友達、聡」


「なんでだよ!」


 ハルキの説明を受け、その上でさっき私が言ったことを聞いてくる聡。

 勉強会の参加メンバーを聞いて、聡はわかりやすく驚いている。


「なんで会ったこともない、姉ちゃんたちの友達と勉強会する流れになってんだよ! 三人でやれよ!」


 ま、当然の反応ではある。


「や、いろいろ考えたんだよ。いろいろ考えた結果、聡も混ぜよーってことになったんだよ」


「なにをどう考えたんだよ!」


 さすがに、本人抜きでいろいろ決めたのはまずかったかな。ハルキも困っているし。

 うーん、どうしたもんか……なんてね。


 こういうとき、聡を納得させる方法を私は、知っている。


「聡、その友達だけどね」


「あ?」


 私は聡の耳元に、顔を近づける。


「すごい美人だよ」


「!」


 そして、言う。決定的な一言を。

 すごい、とまでは誇張しているかもしれないけど、美人なのは本当だし。


 そして、それを聞いた聡の反応は……


「ま……まあ、もう約束しちゃったんなら……仕方ないわな。やってもいい、かな」


「ホント? やったー」


 にやつきそうな口を必死に耐えている、面白い表情を浮かべていた。

 ちょろいぜ。


 この反応なら聡は、やっぱりハルキに対する気持ちはハルキ個人に向けたものというより年上のお姉さんに向けたものの可能性が高いな。

 これなら、蓮花とくっつけるのも充分可能だ。

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