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第41話 じゃあカレンがそんなにきれいなのって



「勉強会かぁ、楽しみだなぁ」


「本命は蓮花の補習対策だけどね」


 勉強会をすることになり、ハルキは一人盛り上がっていた。

 曰く、勉強会なんてしたことがないので、友達とそういうことをするのは憧れていたのだとか。


 無邪気でかわいいんだから。


「ったく、勝手に決めやがって」


「オーケーしておいて今更なに言ってんのよ」


「うっ……」


 聡に内緒で決めてしまったわけだけど、聡は美人に惹かれて勉強会をオーケーしたわけだし、今更なにを言っても遅い。

 それがわかっているから、聡本人バツが悪そうだ。


「勉強会だからねー、変なこと考えたらだめだよー」


「わ、わかってるっての」


 ま、この勉強会は聡と蓮花の顔合わせも兼ねているんだ。

 変なこととは言うものの、少しくらいは進展してくれないとね。


 とはいえ蓮花のあのグイグイ行く性格なら、あまり心配はしていないけど。


「で、勉強会っていつやるんだよ」


「それは相手から聞かないとなんともかな」


 そもそも、補習対策の勉強会だ。つまり、補習より前の日にやらないと意味がない。

 なので、補習の日程がわからないと予定の立てようがないのだ。


 赤点とは無縁の私は、当然補習日なんて覚えていない。

 これを蓮花に言ったら、泣きつかれそうだけど。


「ただ、そう遠くないと思うよ」


 なんたって、補習でもダメなら部活動禁止……というくらいだ。

 ってことは、後の方にはならない。夏休みの最初の方だろう。


 ……というか、補習もダメだったら部活動禁止になるのに、蓮花は部活していていいんだろうか。

 まあ、私の知ったことじゃないけど。


「やー、聡ってばラッキーボーイめ。蓮花ちゃんは美人だし、女だらけでハーレムってやつじゃないかこのこのー」


「わっ。や、やめてくださいってっ」


 ハルキは聡の肩に手を回し、ニコニコと笑いながら聡の頭を撫でていた。

 そんな距離感だから、聡にはいろんなところが当たったりしている。うらやましい。

 対して聡は、距離感を測り損ねている。


 ……いくら弟みたいだからって言って、距離感が近すぎる。

 聡相手だけならまだしも、他の男にも同じような距離感じゃないだろうな。


「ねえハルキ……」


「ふぁ、あぁ……」


 他の男の子にも、同じような距離感じゃないのか。

 それを聞こうとしたけど、ハルキの大きなあくびにより言葉を飲みこんだ。


 私はハルキを聡から引き離しつつ……


「ハルキ、寝不足?」


 あくびの原因を聞いた。

 するとハルキは、目をこすりながら「んー」と口を開いて。


「ちょっと昨夜夜更かししちゃってね。いやあ、スマホってすごいよね。ちょっと検索したら面白い動画がたくさん出てきてさ」


 どうやらハルキの寝不足の原因は、寝る前にスマホを操作していたことによるものらしい。

 原因を聞いて、私はため息を漏らした。


「ダメよ、寝る前にスマホ見たら眠くなくなるって言うし。それに、寝不足はお肌の天敵よ。女の子なら気を遣わないと」


「へぇ……そうなんだ」


 ハルキは、スマホを買ってからスマホに夢中になってしまっているようだ。

 気持ちは、わからなくもないけど。私だって、初めて携帯を手にしたときは嬉しかったし。


 とはいえ、使い方はちゃんとしないと。


「カレンはいろいろ気を遣ってるのか」


「そうよ。女子高生としては当然よ」


 ちょっと胸を張る。

 ハンカチの件でハルキに女子力が負けたと思っていたから、これで少しは見返せたかしら。


「そっかぁ。……あ、じゃあカレンがそんなにきれいなのって、いっぱい気を遣っているからなんだね?」


「……まあ、ね」


 ハルキの言葉に、私はつい顔をそらしてしまう。

 きれいって……あなたのために努力したんだけどね。


 というか、さらっときれいとか言わないでよ。にまにましそうな表情を抑えるの大変なんだから。


「ふーん」


「な、なによ」


「別にぃ?」


 なにやら意味深な視線を向けてくる聡に、私はにらみ返す。

 どういう意図があるのかはわからなかったけど、私の視線から逃げるように顔をそらした。


 そんなこんなで、家に帰宅した。


「そういえば、カレンの家に来るのって今日が初めてだよ」


「そうなの?」


 リビングにて、椅子に座るハルキは家の中を見回しながら話した。

 その言葉に、聡が反応する。


 そう、ハルキを今日まで家に呼んだことはない。

 だって……は、恥ずかしかったん、だもん。


「えー、再会して三ヶ月も経ってるのに」


 聡が、引いたような目を向けた。


「べ、別に呼んだって楽しいことはないんだし。いいじゃない」


 なんとなく、バツが悪くなって私は顔をそらした。

 この反応は、ハルキに嫌に思われてないだろうか。チラッと横目で見た。


 するとハルキは……にこりと、笑っていた。


「ま、カレンにもいろいろ準備があったんだろうしさ。ボクだって準備するのに時間がかかったりするよ」


「そんなもんかなー」


 まるで私をフォローするような言葉に、私の胸の奥はあたたかくなった。


「ま、いいや。俺ちょっと荷物置いてくるよ」


 そう言って、聡はリビングから出ていく。

 空き部屋はあるし、まあ適当に使ってもらえばいい。


 ……さて、意図せずハルキと二人きりになってしまった。しかも家で。

 と、とりあえずなにか話さないと。黙ったままだと間が持たない。


「ね、ねえハルキ……」


「すぅ……」


 ハルキに、話しかける……だけど、返ってきたのは寝息だった。

 ハルキの顔を見つめると……目を閉じて、眠っている。椅子に座ったまま。


 静かな寝息を立てて、肩を上下させて……きれいな髪が、目元にかかっている。

 手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、触れれば壊れてしまいそうな……儚さを、感じる。


「……」


 そして、私の視線は……ハルキの唇へと、まるで誘導されるように移っていた。

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