「勉強会かぁ、楽しみだなぁ」
「本命は蓮花の補習対策だけどね」
勉強会をすることになり、ハルキは一人盛り上がっていた。
曰く、勉強会なんてしたことがないので、友達とそういうことをするのは憧れていたのだとか。
無邪気でかわいいんだから。
「ったく、勝手に決めやがって」
「オーケーしておいて今更なに言ってんのよ」
「うっ……」
聡に内緒で決めてしまったわけだけど、聡は美人に惹かれて勉強会をオーケーしたわけだし、今更なにを言っても遅い。
それがわかっているから、聡本人バツが悪そうだ。
「勉強会だからねー、変なこと考えたらだめだよー」
「わ、わかってるっての」
ま、この勉強会は聡と蓮花の顔合わせも兼ねているんだ。
変なこととは言うものの、少しくらいは進展してくれないとね。
とはいえ蓮花のあのグイグイ行く性格なら、あまり心配はしていないけど。
「で、勉強会っていつやるんだよ」
「それは相手から聞かないとなんともかな」
そもそも、補習対策の勉強会だ。つまり、補習より前の日にやらないと意味がない。
なので、補習の日程がわからないと予定の立てようがないのだ。
赤点とは無縁の私は、当然補習日なんて覚えていない。
これを蓮花に言ったら、泣きつかれそうだけど。
「ただ、そう遠くないと思うよ」
なんたって、補習でもダメなら部活動禁止……というくらいだ。
ってことは、後の方にはならない。夏休みの最初の方だろう。
……というか、補習もダメだったら部活動禁止になるのに、蓮花は部活していていいんだろうか。
まあ、私の知ったことじゃないけど。
「やー、聡ってばラッキーボーイめ。蓮花ちゃんは美人だし、女だらけでハーレムってやつじゃないかこのこのー」
「わっ。や、やめてくださいってっ」
ハルキは聡の肩に手を回し、ニコニコと笑いながら聡の頭を撫でていた。
そんな距離感だから、聡にはいろんなところが当たったりしている。うらやましい。
対して聡は、距離感を測り損ねている。
……いくら弟みたいだからって言って、距離感が近すぎる。
聡相手だけならまだしも、他の男にも同じような距離感じゃないだろうな。
「ねえハルキ……」
「ふぁ、あぁ……」
他の男の子にも、同じような距離感じゃないのか。
それを聞こうとしたけど、ハルキの大きなあくびにより言葉を飲みこんだ。
私はハルキを聡から引き離しつつ……
「ハルキ、寝不足?」
あくびの原因を聞いた。
するとハルキは、目をこすりながら「んー」と口を開いて。
「ちょっと昨夜夜更かししちゃってね。いやあ、スマホってすごいよね。ちょっと検索したら面白い動画がたくさん出てきてさ」
どうやらハルキの寝不足の原因は、寝る前にスマホを操作していたことによるものらしい。
原因を聞いて、私はため息を漏らした。
「ダメよ、寝る前にスマホ見たら眠くなくなるって言うし。それに、寝不足はお肌の天敵よ。女の子なら気を遣わないと」
「へぇ……そうなんだ」
ハルキは、スマホを買ってからスマホに夢中になってしまっているようだ。
気持ちは、わからなくもないけど。私だって、初めて携帯を手にしたときは嬉しかったし。
とはいえ、使い方はちゃんとしないと。
「カレンはいろいろ気を遣ってるのか」
「そうよ。女子高生としては当然よ」
ちょっと胸を張る。
ハンカチの件でハルキに女子力が負けたと思っていたから、これで少しは見返せたかしら。
「そっかぁ。……あ、じゃあカレンがそんなにきれいなのって、いっぱい気を遣っているからなんだね?」
「……まあ、ね」
ハルキの言葉に、私はつい顔をそらしてしまう。
きれいって……あなたのために努力したんだけどね。
というか、さらっときれいとか言わないでよ。にまにましそうな表情を抑えるの大変なんだから。
「ふーん」
「な、なによ」
「別にぃ?」
なにやら意味深な視線を向けてくる聡に、私はにらみ返す。
どういう意図があるのかはわからなかったけど、私の視線から逃げるように顔をそらした。
そんなこんなで、家に帰宅した。
「そういえば、カレンの家に来るのって今日が初めてだよ」
「そうなの?」
リビングにて、椅子に座るハルキは家の中を見回しながら話した。
その言葉に、聡が反応する。
そう、ハルキを今日まで家に呼んだことはない。
だって……は、恥ずかしかったん、だもん。
「えー、再会して三ヶ月も経ってるのに」
聡が、引いたような目を向けた。
「べ、別に呼んだって楽しいことはないんだし。いいじゃない」
なんとなく、バツが悪くなって私は顔をそらした。
この反応は、ハルキに嫌に思われてないだろうか。チラッと横目で見た。
するとハルキは……にこりと、笑っていた。
「ま、カレンにもいろいろ準備があったんだろうしさ。ボクだって準備するのに時間がかかったりするよ」
「そんなもんかなー」
まるで私をフォローするような言葉に、私の胸の奥はあたたかくなった。
「ま、いいや。俺ちょっと荷物置いてくるよ」
そう言って、聡はリビングから出ていく。
空き部屋はあるし、まあ適当に使ってもらえばいい。
……さて、意図せずハルキと二人きりになってしまった。しかも家で。
と、とりあえずなにか話さないと。黙ったままだと間が持たない。
「ね、ねえハルキ……」
「すぅ……」
ハルキに、話しかける……だけど、返ってきたのは寝息だった。
ハルキの顔を見つめると……目を閉じて、眠っている。椅子に座ったまま。
静かな寝息を立てて、肩を上下させて……きれいな髪が、目元にかかっている。
手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、触れれば壊れてしまいそうな……儚さを、感じる。
「……」
そして、私の視線は……ハルキの唇へと、まるで誘導されるように移っていた。