子犬を保護して三日目。
後ろ足の傷跡はかなり見えなくなった。うぶ毛のような体毛も生えている。
昨晩さんざん子犬と戯れたあと、テオは計画の実現に向けていつもより念入りに治療を施した。力を使いすぎたせいで、またしてもそのまま眠ってしまったようだ。
保護して三日目でこんなに回復するとは予想外だったが、自分の治癒能力で友を救えたと思えばテオにとって慰めにもなった。
完全に回復したら、こいつと一緒に旅に出よう────。ドラゴン族の手が届かないもっともっと遠くへ……。
子犬はもう床を走り回っている。
「元気だな」
テオの声に子犬は振り返り、ゴロンと腹を見せた。 腹を見せるのは甘えと信頼の証だ。
テオはヨシヨシと子犬の腹をめいいっぱい撫でてやる。そして、あることに気付いた。柔らかな下腹に黒い痣のようなものがあった。体毛がびっしり生えていてハッキリとは見えない。
傷かもと思ってまじまじ見ていると、子犬の真っ赤な突起がにゅっと顔を出し「おい!」と思わず声を上げてしまった。
子犬はひっくり返ったまま、尻尾をフリフリと振っている。
悪気はないのだ。子犬は撫でられテンションが上がり、喜んでるだけ。
苦笑いすると子犬は起き上がりまた顔をベロベロ舐めてきた。
「アハハ! くすぐったいって」
相変わらず、激しい愛情表現だ。
鼻をスンと
ん?
少し鼻詰まりをしているようだ。そういえば外はいい天気なのに、体も気怠い。昨日の治療の疲れと、うたた寝したせいで風邪を引いてしまったのかもしれない。
「気を付けなきゃ」
せっかく子犬が完治しても、自分が病気になっては旅立てなくなる。体調は万全ではないが、それでもテオの心にはほのかな勇気が宿っていた。
壁に貼り付けた古い地図を見る。
いつか────と考えていた旅立ち。
ここを離れるのは不安だし、寂しくもある。事情も聞かずに家族同然に受け入れてくれたマルゴには感謝もしている。でも、もともと長居する予定ではなかったのだ。旅立つ準備を言い訳にし、長く居過ぎたぐらいだった。
ペロリと手を舐められ見ると、子犬が丸い目でこちらを見上げていた。
テオはコクリと頷く。
相棒がいるだけで、こんなに心強いのかと思い知る。
懐いてくる子犬に微笑みかけた。
お前と出会えて本当に良かった。
「またあとでな」
子犬の頭を何度も撫で、テオは部屋を出た。