――ワンダーなダンジョンで行われてるSクラスFクラス対抗のダンジョンレース
「あぁぁぁぁ! とうとう最終フロア、地下27階に到達したぁぁぁ!」
外からのヴァイスさんの実況が響き渡る。……冷静に考えると地下27階って。円卓帝国の底に、そこまでの深さは無いと思うけど。魔法か何かなんだろうか。
そして俺達が今居るフロアは広く、奥の壁には、
――今回のターゲットアイテム、ハッピーボックスが飾られている
あれに先に触れた方が、このレースの勝利者だ。
「いいかぁぁぁ聞こえてるかフィアルダァァァ!
相変わらずの贔屓実況、だけど多分、フィアにとってその言葉は逆効果だ。そう、”すぐ隣”にいる彼女の表情からも良く解る。
「こんのぉっ!」
現在俺達は並走状態、走りながらのフィアの攻撃を、どうにか紙一重でかわしていく状況。
「アルテナッシアルテナッシ何も無しのアルテナッシィィィィ!」
名を連呼する有様は、怒りに燃えているというより、やっぱり、脅えているようにしか見えない。
施設で子供の頃、お互いに天涯孤独の身で拾われて、ひとりぼっち。
まだ才能に目覚める前の頃、お兄ちゃんって、俺に頼るしか無かった頃みたく。
……大きくなるに連れ、立場は逆転していった。フィアが俺を頼る事は二度とないと思ってたけど、それでも、
「――大丈夫、フィア」
俺は、思わず呟いた。
「助けるから」
その言葉は、一瞬、フィアの表情を呆けさせて、そして、
「ふぅざぁけぇんなぁぁぁっ!」
彼女の体を一気に燃やした、だけどフィアはその炎を俺にぶつけず、
「〈
「ピキャー!?」
自分のブーツに炎の翼を生やして、一気に加速した! 頭上のチビが鳴き声をあげる中、ハッピーボックスへと近づいていく、それを見て、
「メディ!」
「かしこまりました!」
俺は体を思いっきり前へ傾け、そして、
「【紫電】スキル」
体に電流を流して、無理矢理筋肉を加速する加速技! カクレミカクレ先輩を倒した時とは違う、全力バージョン!
「「〈
メディを背負ったまま一気に俺は、フィアを追い抜こうとして、そして、
「【炎聖】スキル――」
急ブレーキしたフィアは、
一気に体を捻って、加速する俺達を、
――右手の氷のハンマーで殴った後、
左手の炎のハンマーで、
「〈レッ
氷のハンマーを叩いた――
「――がはっ」
一気に、そう、
「あぐああ!?」
「きゃあああああ!?」
天井に激突するまで、殴り飛ばした。そのまま落ちる中で俺とメディは
「う、ぐ、ううぅ……」
し、死ぬ程痛い……、【皇帝】スキルで死ぬ事は無いけれど、骨が砕けそうな衝撃はそのまま残ってるし、そもそも全力〈
……フィアも、それを解ってる。だから、
「あは、あはは」
背後のハッピボーックスに触れようとせず、勝利の余韻に浸りながら、
「あははははは!」
笑いながら、電光石火のインターバルで、動けない俺を見下ろして、
「ほら、解ったでしょ、〔何も無しのアルテナッシ〕! あんたが私に勝つなんて絶対無理なのよ!」
そしてフィアは、うつ伏せになった俺の、
「あんなメイドなんかと、一緒に居たって――」
背中を見た。
「……何、これ?」
俺の背中には、メディがおぶさる事で隠していた、文字が書かれた紙が貼っている。
――それは
「ぬるぽ……?」
――フィアがその言葉を読んだ瞬間
俺の【○。。】を、大文字と小文字二つの組み合わせを埋めたスキルが!
【ガッ】が!
発動する!
「えっ!?」
フィアが驚きの声をあげたのは、寝てるはずの俺が姿を消したからだ、俺はその様子を、”フィアの背後、彼女の上”から見ている。
「あれ!?」
そして今のフィアの左手には、炎のハンマーが無い――俺がそれを握っているから。
「な、なに、どこへ――」
俺が今使っているスキル、それは、
【ガッ】スキル SSSランク
スキル解説[ぬるぽと言った者の背後上に瞬間移動してガッする]
。に”文字”じゃなくて”
(Eラン
そうだこれは、因果逆転! 事象確定の
フィアの後ろにテレポートした俺は、ボロボロの体で、手に持ったハンマーの重さを利用して、一気に、
振り下ろす!
「〈コーズコー
チビに当たらないように振り抜いた一撃は、彼女の後頭部を
「きゃあぁぁっ!?」
前のめりに倒れさせ、床へめり込むほどの衝撃を、与えていた。
「……はぁっ!」
俺は手元からハンマーを零す。〈
――それは勿論、ハッピーボックスだ
勝利条件を満たす為に、俺はそれに、
「タッチ」
触れた。
――その瞬間
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ヴァイスさんの
「ダ、ダンジョンレースはFクラスの勝ちぃぃぃ!? まさかこんな、いや、貴様達ぃぃぃ! 何を喜んでいるぅぅぅ! いやSクラスだけお通夜状態――何を笑っとるのだソーディアンナァァァ!? あ、マナコとか他のSクラスの奴等もちらほらとぉ!?」
……外の様子は直接見れないし聞こえないけど、実況でだいたい解るのが嬉しい。ともかく、俺達はやったんだ。
そう、俺達――皆で掴んだ勝利だ。
ライジやボンバリー、レース前から色々と動いてくれたクラスメイト達、そして、
……気絶してしまったんだろうか? 仰向けになって目を瞑ってるメディ。
――俺の背中に右手で触れてから
あの時、紙を貼り付けてからおぶさって、俺と一緒に戦ってくれたメディ。
そんな彼女をみつめながら、俺は口を開く。
「――ありがとう」
俺は、メディを通じて、皆への感謝を伝えるように、そう呟いた。
「……何、よ、アルテナッシ」
「あ、フィア」
フィアがゆっくりと、氷のハンマーを杖のようにして立ち上がる。
「何よ、今の技、何よ、今のレース、何よ、Fクラス、何よ――」
そして俺の方を、頭上の心配そうなチビドラゴンと一緒に見て、
「何よ、その
と、言った。
「……フィア、俺、知ってるんだ、フィアが昨日、中庭であの蛇女に脅されていたの」
「……それが、何よ」
「Sクラスなんか止めて、Fクラスに来よう、もう皆には相談してる」
「ふざけるな」
「……施設に入った一番最初の頃は、俺がフィアを守ってた、だけど」
お互い天涯孤独の身で、確か俺が5歳で、フィアが4歳で、
それから数年くらいは、俺をお兄ちゃんって慕ってた。
そう、だけど、
その後は、
「フィアが俺を、守ってくれるようになった」
そう言った。
「……何を言ってんのよ」
「フィアが才能を発揮して、俺が、役立たずだからといじめられはじめた時も、フィアが率先して俺をいじめる"ふり"をして、守ってくれてた、他の人達が手を出しにくいように」
「知らない」
「覚えてるよ――あの施設じゃ、無能な人
――誰かの役に立てないなら生きる居場所なんてない
前世と同じ価値観の中で俺は育った、だから、俺はフィアに迷惑をかけたくなくて、フィアから離れようとした。
「俺の事を罵倒はしたけど、絶対に、手は出さなかった、そんなフィアがいつも近くにいてくれたから、周りの皆も俺に手を出しにくくなった」
「知らない知らない、そんなの知らない」
「酒場には、役立たずの俺を、わざわざ従者にする為に追いかけて来てくれた」
「ふざけるな」
「今までありがとう、だから今度は」
俺は、
「メディや、Fクラス皆で、お前を守りたいんだ」
そう言った、
次の瞬間、
「――憐れむな」
「へ」
「同情なんか、するなぁぁぁっ!」
フィアが思いっきり叫んだ途端、
フィアのもった氷のハンマーが、え?
――なんかドス黒い闇のようなものが噴き出して
フィアを包み込んで、いや、入り込んでいく!?
「うるさいうるさいうるさい、〔何も無しのアルテナッシ〕が、私を守るな! Fクラスがどうとか、……メディがどうとか!」
こ、氷のハンマーが解けてく、いや、
「私だけが、あんたを守れるの! 何も無しの――〔お人好しのアルテナッシ〕を守れるの!」
――スライムになってフィアと一体化していく!
「皆より、あんな女より、私の傍にいなさいよ!」
どんどん体が氷に覆われていくフィア、頭の上のチビも、ピキャー!? って鳴いて逃げ出した。氷のハンマーは完全に消え失せ、フィアの体を乗っ取って、そして、
フィアは二つ名を、
……いや、これは二つ名じゃない、
――
「私を見てよ」
{炎聖氷邪フィアルダイグノアー}、
「お兄ちゃん!」
……小柄な体を氷で覆い尽くして、それでも
人間というよりそれは、炎と氷のバケモノだった。
――俺はその姿を見つめながら
【。。。】
次のお題を確認した。