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4-7 因果逆転の一撃を

 ――ワンダーなダンジョンで行われてるSクラスFクラス対抗のダンジョンレース


「あぁぁぁぁ! とうとう最終フロア、地下27階に到達したぁぁぁ!」


 外からのヴァイスさんの実況が響き渡る。……冷静に考えると地下27階って。円卓帝国の底に、そこまでの深さは無いと思うけど。魔法か何かなんだろうか。

 そして俺達が今居るフロアは広く、奥の壁には、

 ――今回のターゲットアイテム、ハッピーボックスが飾られている

 あれに先に触れた方が、このレースの勝利者だ。


「いいかぁぁぁ聞こえてるかフィアルダァァァ! ハッピーボックスレプリカを先に手に入れるのだぁぁぁ!」


 相変わらずの贔屓実況、だけど多分、フィアにとってその言葉は逆効果だ。そう、”すぐ隣”にいる彼女の表情からも良く解る。


「こんのぉっ!」


 現在俺達は並走状態、走りながらのフィアの攻撃を、どうにか紙一重でかわしていく状況。


「アルテナッシアルテナッシ何も無しのアルテナッシィィィィ!」


 名を連呼する有様は、怒りに燃えているというより、やっぱり、脅えているようにしか見えない。

 施設で子供の頃、お互いに天涯孤独の身で拾われて、ひとりぼっち。

 まだ才能に目覚める前の頃、お兄ちゃんって、俺に頼るしか無かった頃みたく。

 ……大きくなるに連れ、立場は逆転していった。フィアが俺を頼る事は二度とないと思ってたけど、それでも、


「――大丈夫、フィア」


 俺は、思わず呟いた。


「助けるから」


 その言葉は、一瞬、フィアの表情を呆けさせて、そして、


「ふぅざぁけぇんなぁぁぁっ!」


 彼女の体を一気に燃やした、だけどフィアはその炎を俺にぶつけず、


「〈ブーツ・ウィング《Ver-ni-er》・アンド・ファイアー覚えてますか?〉!」

「ピキャー!?」


 自分のブーツに炎の翼を生やして、一気に加速した! 頭上のチビが鳴き声をあげる中、ハッピーボックスへと近づいていく、それを見て、


「メディ!」

「かしこまりました!」


 俺は体を思いっきり前へ傾け、そして、


「【紫電】スキル」


 体に電流を流して、無理矢理筋肉を加速する加速技! カクレミカクレ先輩を倒した時とは違う、全力バージョン!


「「〈〈サンダーステップ〉電光石火〉!」」


 メディを背負ったまま一気に俺は、フィアを追い抜こうとして、そして、


「【炎聖】スキル――」


 急ブレーキしたフィアは、

 一気に体を捻って、加速する俺達を、

 ――右手の氷のハンマーで殴った後、

 左手の炎のハンマーで、


「〈レッドブルーウィングショ翼を授け飛ばしてけット〉!」


 氷のハンマーを叩いた――二重の衝撃ふたえのきわみは、俺のメディの加速によって重くなってるはずの体を、


「――がはっ」


 一気に、そう、


「あぐああ!?」

「きゃあああああ!?」


 天井に激突するまで、殴り飛ばした。そのまま落ちる中で俺とメディはれて、ドガァッ! っと、メディは仰向けで遠くへと、そして俺はうつ伏せに、フィアの目の前に墜落した。


「う、ぐ、ううぅ……」


 し、死ぬ程痛い……、【皇帝】スキルで死ぬ事は無いけれど、骨が砕けそうな衝撃はそのまま残ってるし、そもそも全力〈サンダーステップ電光石火〉の所為で、立つ事も出来なくて、

 ……フィアも、それを解ってる。だから、


「あは、あはは」


 背後のハッピボーックスに触れようとせず、勝利の余韻に浸りながら、


「あははははは!」


 笑いながら、電光石火のインターバルで、動けない俺を見下ろして、


「ほら、解ったでしょ、〔何も無しのアルテナッシ〕! あんたが私に勝つなんて絶対無理なのよ!」


 そしてフィアは、うつ伏せになった俺の、


「あんなメイドなんかと、一緒に居たって――」


 背中を見た。


「……何、これ?」


 俺の背中には、メディがおぶさる事で隠していた、文字が書かれた紙が貼っている。

 ――それは


「ぬるぽ……?」


 ――フィアがその言葉を読んだ瞬間

 俺の【○。。】を、大文字と小文字二つの組み合わせを埋めたスキルが!

 【ガッ】が!

 発動する!


「えっ!?」


 フィアが驚きの声をあげたのは、寝てるはずの俺が姿を消したからだ、俺はその様子を、”フィアの背後、彼女の上”から見ている。


「あれ!?」


 そして今のフィアの左手には、炎のハンマーが無い――俺がそれを握っているから。


「な、なに、どこへ――」


 俺が今使っているスキル、それは、


 【ガッ】スキル SSSランク

 スキル解説[ぬるぽと言った者の背後上に瞬間移動してガッする]


 。に”文字”じゃなくて”濁点”をねじ込んで、上の位置にズラして無理矢理成立させた言葉スキル


(Eランクスキルのぬるぽのリバ最底辺からの下克上ース技)


 そうだこれは、因果逆転! 事象確定のS越えスキル!

 フィアの後ろにテレポートした俺は、ボロボロの体で、手に持ったハンマーの重さを利用して、一気に、

 振り下ろす!


「〈コーズコールアンドエフェクトガッレスポンス〉!」


 チビに当たらないように振り抜いた一撃は、彼女の後頭部を貫いガッて、


「きゃあぁぁっ!?」


 前のめりに倒れさせ、床へめり込むほどの衝撃を、与えていた。


「……はぁっ!」


 俺は手元からハンマーを零す。〈サンダーステップ電光石火〉の疲れが、また体を支配する。だが、俺がもたれかかるように後ろへ倒れれば、背中に何かがあたる。

 ――それは勿論、ハッピーボックスだ

 勝利条件を満たす為に、俺はそれに、


「タッチ」


 触れた。

 ――その瞬間


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 ヴァイスさんの実況絶叫が響き渡った。


「ダ、ダンジョンレースはFクラスの勝ちぃぃぃ!? まさかこんな、いや、貴様達ぃぃぃ! 何を喜んでいるぅぅぅ! いやSクラスだけお通夜状態――何を笑っとるのだソーディアンナァァァ!? あ、マナコとか他のSクラスの奴等もちらほらとぉ!?」


 ……外の様子は直接見れないし聞こえないけど、実況でだいたい解るのが嬉しい。ともかく、俺達はやったんだ。

 そう、俺達――皆で掴んだ勝利だ。

 ライジやボンバリー、レース前から色々と動いてくれたクラスメイト達、そして、

 ……気絶してしまったんだろうか? 仰向けになって目を瞑ってるメディ。

 ――俺の背中に右手で触れてから

 あの時、紙を貼り付けてからおぶさって、俺と一緒に戦ってくれたメディ。

 そんな彼女をみつめながら、俺は口を開く。


「――ありがとう」


 俺は、メディを通じて、皆への感謝を伝えるように、そう呟いた。


「……何、よ、アルテナッシ」

「あ、フィア」


 フィアがゆっくりと、氷のハンマーを杖のようにして立ち上がる。


「何よ、今の技、何よ、今のレース、何よ、Fクラス、何よ――」


 そして俺の方を、頭上の心配そうなチビドラゴンと一緒に見て、


「何よ、そのメディ


 と、言った。


「……フィア、俺、知ってるんだ、フィアが昨日、中庭であの蛇女に脅されていたの」

「……それが、何よ」

「Sクラスなんか止めて、Fクラスに来よう、もう皆には相談してる」

「ふざけるな」

「……施設に入った一番最初の頃は、俺がフィアを守ってた、だけど」


 お互い天涯孤独の身で、確か俺が5歳で、フィアが4歳で、

 それから数年くらいは、俺をお兄ちゃんって慕ってた。

 そう、だけど、

 その後は、


「フィアが俺を、守ってくれるようになった」


 そう言った。


「……何を言ってんのよ」

「フィアが才能を発揮して、俺が、役立たずだからといじめられはじめた時も、フィアが率先して俺をいじめる"ふり"をして、守ってくれてた、他の人達が手を出しにくいように」

「知らない」

「覚えてるよ――あの施設じゃ、無能な人間をかばう事自体が許同調圧力されないから、そんな形で俺を守ってくれてたんだ」


 ――誰かの役に立てないなら生きる居場所なんてない

 前世と同じ価値観の中で俺は育った、だから、俺はフィアに迷惑をかけたくなくて、フィアから離れようとした。


「俺の事を罵倒はしたけど、絶対に、手は出さなかった、そんなフィアがいつも近くにいてくれたから、周りの皆も俺に手を出しにくくなった」

「知らない知らない、そんなの知らない」

「酒場には、役立たずの俺を、わざわざ従者にする為に追いかけて来てくれた」

「ふざけるな」

「今までありがとう、だから今度は」


 俺は、


「メディや、Fクラス皆で、お前を守りたいんだ」


 そう言った、

 次の瞬間、


「――憐れむな」

「へ」

「同情なんか、するなぁぁぁっ!」


 フィアが思いっきり叫んだ途端、

 フィアのもった氷のハンマーが、え?

 ――なんかドス黒い闇のようなものが噴き出して

 フィアを包み込んで、いや、入り込んでいく!?


「うるさいうるさいうるさい、〔何も無しのアルテナッシ〕が、私を守るな! Fクラスがどうとか、……メディがどうとか!」


 こ、氷のハンマーが解けてく、いや、


「私だけが、あんたを守れるの! 何も無しの――〔お人好しのアルテナッシ〕を守れるの!」


 ――スライムになってフィアと一体化していく!


「皆より、あんな女より、私の傍にいなさいよ!」


 どんどん体が氷に覆われていくフィア、頭の上のチビも、ピキャー!? って鳴いて逃げ出した。氷のハンマーは完全に消え失せ、フィアの体を乗っ取って、そして、

 フィアは二つ名を、

 ……いや、これは二つ名じゃない、

 ――ネームドモンスター名前付き


「私を見てよ」


 {炎聖氷邪フィアルダイグノアー}、


「お兄ちゃん!」


 ……小柄な体を氷で覆い尽くして、それでもフィア本体から発した炎が、氷の間からバーナーのように噴き出して、

 人間というよりそれは、炎と氷のバケモノだった。

 ――俺はその姿を見つめながら


【。。。】


 次のお題を確認した。


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