ワンダーなダンジョン最下層の27階、ハッピーボックスが置かれているフロアーで。
俺は、ようやく電光石火の疲れが抜けてきた体を、炎をまとわない、ただのハンマーを置きながら、ゆっくり起こす。
目の前には、そう、
{炎聖氷邪フィアルダイグノアー}、
……氷のスライムに飲み込まれて、
「見て、見て、私を見て、私は凄いんだから、お願い、どこにも行かないで、やだ、やだやだ、やだぁっ!」
……あぁそうか、
くやしいとか、憎いとか、
なんでそんな感情があるか、少しだけ解った。
――許せないからだ
大切な者を奪われた時に、ただ嘆くんじゃなくて、
助ける為に、手を伸ばすために、その為に心を燃やせるように、この感情はあるんだ。
俺は今、フィアを乗っ取ろうとするこの
許せない。
――からっぽな心に火が灯る
……俺はスキルを再確認する、
【。。。】
小文字三つ、
きっと今までなら、絶望してた。だけど、
「――わかってきた」
スキルの使い方、そうだ、【○。。】の、”。”に、
俺のスキルは、心に関わるって。
出来ないと思ったら出来ない、出来ると思ったら出来る、だから、
「――寒いよ」
フィアのその言葉を聞きながら、
俺は全力で、心を燃やして、
「ここから出してよ」
フィアを、
「お兄ちゃん」
助ける――俺の名前を呼びながら、フィアを操る氷のスライムは、
雪崩のように、俺に襲いかかる。
俺を抱きしめるように、スライムが迫ってきた直前、
【。。。】に文字をあてはめて――次の瞬間、
「はぁぁぁぁ!」
俺の放った、刀を握ったままの右ストレートが――
スライム化したフィアの巨体を、氷に皹をいれながら吹っ飛ばす!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
あ、ヴァイスさんの実況が聞こえた、
「え、いや、何が起きてるか解らず黙ってたが、なんだなんだ、レースはまだ続いてるのかぁぁぁ!?」
……勘違いしててもそれでいい、ともかく俺は、自分のスキルを確認する。
【ッョィ】スキル Sランク
スキル解説[最強の下位互換スキル、シンプルに強い]
あぁ、やっぱり、”思った通り”のスキルになってる――そう思ってる内にスキルは消滅し、【。。】ってお題になった時、
「ア、アルテナッシ、よけてぇ!?」
氷の中のフィアがそう叫ぶ中で、氷のスライムが、フィアの炎が噴き出す拳で殴りかかってきた。俺は、【。。】に再び言葉を埋める、そして、
「【ィヵ】スキル――」
目の前に
「〈ブ
大量のイカスミで目つぶしをして、同時に足元にそれを撒き、相手をこかせる――おかげで、また氷が少し砕ける、
そして
ァ ィ ゥ ェ ォ ャ ュ ョ ッ ヮ ヵ ヶ
これが基本、それに
「え、ちょっと、何故
ヴァイスさんの実況通り――縛りプレイは逆に、俺の心を加速させる、氷のスライムに囚われたフィアを、助ける為に次々とスキルを思いつかせる。
この様子に、
「これのどこが”何も無し”だぁぁぁ!?」
ヴァイスさんの
「こんなのもう、”何でも有りのアルテナッシ”じゃないかぁぁぁ!」
――この異世界の人生で、スキルは”与えられるもの”だと思ってた
なんでもいいと、自分から願いはしなかった、だけど、
それじゃダメだ、
欲しがらなきゃ、ダメだ、
手を伸ばさなきゃダメだ、求めなきゃダメだ、俺はスキルを自分の心のままに手に入れたい、いや、
この手で作り出したい。
――守る為に
「【ィェ】スキル――〈
氷スライムの攻撃を、小さな家を壁にして防ぎ、崩壊する家から飛び出しながら、スライムの体を刀の峰で思いっきり叩けば、更にひび割れていく、あと少し!
「お、お兄ちゃん」
「フィア、今、助けるから!」
俺がそう叫んだ瞬間、
――世界が一瞬で灰色になり、時が止まった
「……え?」
……ちょ、ちょっと待って、これって、
《100点をとったからって、何よ?》
《そんなの当たり前でしょ》
《褒める意味もないわ》
――俺のトラウマ
ス、スライムから、影が流れ出て、母さんの形になって――
――なんで
《どう、凄いでしょ!》
……え?
《お人好しのアルテナッシとは違うのよ》
《モンスター討伐、最年少記録を更新したわ》
《あんたとは違うのよあんたとは》
……母さんじゃない、影が有る、影が、喋ってる。
これ、俺の
――これって
《ねぇ、なんで離れるのよ》
《一緒にいると迷惑かかるって何よ!》
《何を言ってるかわかんない!》
母さんの影の隣は、フィアだ。
まだ、ちっちゃな子供の頃の
これってもしかして、フィアのトラウマ?
《やだよ、やだよぉ》
《一人に、しないでよ》
……こんな風にフィアは、
俺の居ない場所で、泣いてたのか?
ああ、俺は、
――最悪だ
《がんばって、偉くなったら、一緒にいれるかな》
《強くなったら、私が守ってあげられるかな》
《……私の事》
《褒めてくれるかな?》
フィアに、
……俺と同じ、
家族に、認めて貰えないって、トラウマを。
《褒める訳がないでしょ!》
……母さんが、また叫んでる。
《褒められるような事なんかしてないんだから!》
……転生の女神様は、現れない、だから俺は、
――この止まった時の中で刀を抜いて
「――ごめん」
その一言と供に俺は、
――母の影を斬りつけた
……あまりにも呆気なく、母さんの影は霧散して、その後に、
目の前にいるフィアの
刀を、
振るわず、
「がんばったね、フィア」
その一言を、フィアの
その瞬間――時は一気に動き出し、
「――あぁ」
目の前には、氷の中で、
「あぁぁぁぁぁっ!」
泣きながら笑う、フィアの姿があって、
俺はスキル欄を確認する、
【。。。。】
――四文字、だけど
俺は
「フィア! 助けるから!」
俺は叫びながら、刀に
「思いっきり! 炎を燃やして!」
【ヵ゛ィァ】スキル Sランク
スキル解説[地母神スキルの下位互換、大地の恵みを力にして]
「――わかったわよ」
フィアは泣き笑いながら、ひび割れた氷の隙間全てから、
「お兄ちゃん!」
炎を噴き出させる――急速に解凍されていくスライムの体に、
――とどめの一閃
「〈
俺の刀は、
氷に当たった瞬間、凍り付いて止まる、だけど、
「あぁ」
ダンジョンという場所、
「あぁぁぁ!」
刀は轟き叫ぶように奮えて、その振動が刀の氷を割り、そしてスライムの体を砕く!
「あぁぁぁぁぁぁ!」
外側からの振動と、内側からの炎、その
――
中からフィアがこぼれ落ちて、
フィアは、全身の炎を内へと納めながら、俺の前で、
「ありがとう、お兄ちゃん」
そう言ったまま、うつ伏せに倒れ、目を閉じて、
――俺もその後を追うように
疲労感と達成感と供に、気絶するように眠るのだった。