俺は、〔何も無しのアルテナッシ〕、
俺は今、俺自身の
そして
「やったやった、わたしがいちいなの! うしさんつよい!」
「ええええ!? なんですか今の壁走り、チート使ってませんデスかセイラちゃん!?」
「つかってなーい! もいっかいやろ!」
「望むところデス!」
「むう、流石にガチ勢相手には、キャラもこだわって選ぶべきデスか」
「……あの、テンラ様」
「オオウ!?」
俺が声をかけると、テンラ様ビックリ。そしてセイラ様もこっち見て、
「あ、アルおにいちゃん!」
フィアみたいにおにいちゃん呼び――まぁセイラ様、ちっちゃい女の子だもんな。……1059歳とか言ってたけど。
ともかくも、二人は一旦ゲームを
「みてたよ、すごいね、がんばったね!」
がんばったって、さっきの戦闘?
「ああああそうデスそうデス! セイラ様!」
うわ、テンラ様のテンションが急にあがった。
「なんでスキルのお題を、意地悪するデスか!」
「いじわる?」
「そうデスよ、【ルービックキューブ】とか、嫌がらせみたいなだったじゃないデスか!」
「だって、テンラちゃんがよういしてくれて、おもしろかったから!」
え、何それ、あのゲームみたく、テンラ様がセイラ様に遊ばせたって事?
「むぐぐぅ」
……ええとつまり俺のスキルの
セイラ様が、アドリブとかノリとかで、その場で適当に決めていたと。
「で、ですがやっぱりデスねぇ、毎回変な小細工とかせず、ただの【○○】とかにして、チート級のスキルを使い放題にした方がいい気が」
そう、俺の気持ちを代弁するうように、転生の女神様は言った、
すると、
「でも、あんまりつよいスキルつかいすぎると、おにいちゃんのこころがこわれちゃうよ」
「え?」
「あっ」
――その言葉は
「Sランクとか、SSSランクとか、つよいこころ、つよいのぞみがないとできないもん!」
からっぽな、弱い心の持ち主の俺に、
「それに
突き刺さる。
「も、もしかして、
「うん、はいかんこうかーとのじどううんてんとおなじ! おにいちゃんのこころのつよさにあわせた、たのしかった!」
「た、たのしかった」
楽しかったって、そんな。
……でも、だけど、確かに、
スライムに乗っ取られたフィアルダの戦いは、このスキルで初めて、短時間に色んなスキルをいっぱい使えて、
楽しかった、気がする。
「いまはいじわるでいっぱいこころのれんしゅうするの! はいかんこうかーとのたいむあたったくとおなじなの!」
と、そこまで言うと、セイラ様はまたはいかんこうカートをプレイし始めた。
セイラ様の言葉に、俺は、テンラ様と顔を合わせた。
「……セイラ様が、高次の存在になってたのはいいましたデスよね?」
「あ、はい、……ちなみに高次の存在って?」
「簡単に言えば、”誰か個人を依怙贔屓しない”存在って事デス、詳しくはエピクロスで検索してくださいデス」
いや、検索出来ない、ここ異世界でネット環境は無い。
でも確かにそう考えると、
「転生の女神様は、俺をめちゃくちゃ依怙贔屓してますよね?」
そう、ずっと前から聞きたくはあった。
「なんでですか?」
沢山の人が無念のままに死ぬ中で、何故、俺だけが転生者として選ばれたのか。
そう聞けば、
「”たまたま”です」
女神様の答えは、あっさりしてた。
「私が転生の女神になって、まだ数百年足らずデス、全ての不幸な魂を、助けられる程の力はない、手が届く範囲にあなたの魂があった……だから究極的に言えば、たまたまデス、もし、この世界に必要だから選ばれた、とか思われていたのならごめんなさいデス」
「……そう、ですか」
一応は、納得出来る理由、
弱い自分に何か使命があっただなんて、思えなかったから。
「……でも、それでも」
……まぁだけど、それでも、
「なんでですか?」
改めて、そう聞かずにはいられなかった。
偶然に意味とか、運命とか、求めすぎるのは良く無いかもしれない、
だけど、どこか申し訳ない気持ちがある、
……そんな俺の想いに応えてくれるかのように、
「貴方が幸せにナル義務なんてありまセン」
転生の女神様は、微笑みながら、
「だけど、貴方が幸せにならないと、腹が立つ、ただそれだけの”依怙贔屓”デス」
そう、キッパリと言った。
「その為だけに、16年も、俺の心の中でがんばってくれてたんですか?」
「私は転生の女神デスよ? 勝手に救って、異世界にただ放り出すだけなんて、無責任にも程があるデスよ、さて」
そしてテンラ様は、軽く指をふる、すると、
――俺のステータス画面が勝手に開き
アルズハート
[【笑顔】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]
この項目が、表示された。
「覚えてますデスか? あなたはその
ば、爆発、そうだった。
余りにもインパクト有りすぎる言葉、ずっと気になってたけど、どういう意味なんだろう。
「――より正確に言えば、スライムに乗っ取られて心も体も
「え」
そ、それって、もしかして、
「フィアルダちゃん、スライムと融合してましたデスよね?」
「は、はい」
「スライムは――心の隙間、空白を、憎悪によって乗っ取るのです」
「からっぽな心を、憎悪で?」
「単純な話デス、大好きな人で満たされてた心があって、その大好きな人を奪われたら心がからっぽになって、その隙間には大好きな人を奪った相手への憎悪が生まれる、そうなればどうなるか解りマスよね」
「――それは」
それは、ファンタジーじゃなく現実的に考えても、
当然、その奪った相手を、傷つけるだろうし、殺すだろう。
――もしもその奪われたものが大好きな人とかじゃなくて
幸せとかだったなら、
世界を憎んで、傷つけ、殺す事すらあるかもしれない。
「スライムが憎悪を操ってるのか、そもそもスライムが憎悪そのもので出来てるか、それは私にもわかりませんデスが」
そう言ってから、テンラ様は、セイラ様を見た。
「セイラ様があなたを”依怙贔屓”する条件は、スライム退治デス」
「スライム退治」
「はい、
……前世だと、
「強いスライムを一匹倒すごとに、失った心を一つずつ取り戻すようにしたみたいデス」
「という事は、あと6匹?」
「いえ、5匹デス、最初の空白どうやって埋まったか忘れましたデスか?」
――ノーフェイス戦
確か最初、ノーフェイスは倒した後、宝石になった。だけどそこに【○○】が浮かんで、【笑顔】と埋めたら、宝石は写真になった。
「
じゃあ、イグノアーがアイスハンマーになったのは、そういう事?
フィアの心を乗っ取る為に。
「だけど、からっぽなあなたの場合、欲望そのものが薄いデスからね、宝石なんてありきたりなものに化けるしかなくて、仕舞いには、写真なんてささやかなアイテムに化けて、無力化されたデス」
「ほ、宝石が写真になったのは、そういう事」
「起きたら同じ事をすればいいデスよ、……えっと、そうデスよね、セイラ様?」
そうテンラ様がたずねれば、
「やった、はねがでた~!」
ゲームに夢中だった。
でも、俺がやるべき事は、よりハッキリした。
からっぽな心を埋める為に、スライムを倒す事。
「まぁ、適当なスライムをしばけばいいって事デスよ、世界を救うまではいかなくても、ちょっとは良くなるじゃないデスか?」
「は、はぁ」
「さてと――そろそろお目覚めの時間デスね」
え? って思ってると、テンラ様とセイラ様の姿が薄らいで行く。
「あ、そうだセイラ様、そろそろスキルのレベルアップお願いするデスよ」
え、レベルアップって、そんなお願いすればできるものなの?
「え~そうだな~どうしようかな~」
あ、この
モニター画面を見つめながら、セイラ様は、
「それじゃ、とっておきの
そんな約束をした後、ゲームを一時中断して、
「がんばって、おにいちゃん!」
振り向いて、そう言ってくれた後、
「エンジ
テンラ様もサムズアップで俺を見送って――
俺の夢は、覚めていく。