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4-9 世界を少し良くする方法

 俺は、〔何も無しのアルテナッシ〕、

 俺は今、俺自身のの中に居る。

 そして俺の心の中真っ白な空間では現在、


「やったやった、わたしがいちいなの! うしさんつよい!」

「ええええ!? なんですか今の壁走り、チート使ってませんデスかセイラちゃん!?」

「つかってなーい! もいっかいやろ!」

「望むところデス!」


 この世界異世界のスキルの女神、セイントセイラ様と、前の世界前世の転生の女神、テンラ様が、二人で一緒にはいかんこうカートワールドってゲームをやっていた。


「むう、流石にガチ勢相手には、キャラもこだわって選ぶべきデスか」

「……あの、テンラ様」

「オオウ!?」


 俺が声をかけると、テンラ様ビックリ。そしてセイラ様もこっち見て、


「あ、アルおにいちゃん!」


 フィアみたいにおにいちゃん呼び――まぁセイラ様、ちっちゃい女の子だもんな。……1059歳とか言ってたけど。

 ともかくも、二人は一旦ゲームを中断ポーズして、こっちへ来る。


「みてたよ、すごいね、がんばったね!」


 がんばったって、さっきの戦闘? 

 ちっちゃな空白しかお題に用意されなかったアレ、


「ああああそうデスそうデス! セイラ様!」


 うわ、テンラ様のテンションが急にあがった。


「なんでスキルのお題を、意地悪するデスか!」

「いじわる?」

「そうデスよ、【ルービックキューブ】とか、嫌がらせみたいなだったじゃないデスか!」

「だって、テンラちゃんがよういしてくれて、おもしろかったから!」


 え、何それ、あのゲームみたく、テンラ様がセイラ様に遊ばせたって事?


「むぐぐぅ」


 ……ええとつまり俺のスキルのお題【】内は、

 セイラ様が、アドリブとかノリとかで、その場で適当に決めていたと。


「で、ですがやっぱりデスねぇ、毎回変な小細工とかせず、ただの【○○】とかにして、チート級のスキルを使い放題にした方がいい気が」


 そう、俺の気持ちを代弁するうように、転生の女神様は言った、

 すると、


「でも、あんまりつよいスキルつかいすぎると、おにいちゃんのこころがこわれちゃうよ」

「え?」

「あっ」


 ――その言葉は


「Sランクとか、SSSランクとか、つよいこころ、つよいのぞみがないとできないもん!」


 からっぽな、弱い心の持ち主の俺に、


「それにじゆう候補が沢山すぎても、なにをえらべばいいかまようだけで、つかれる壊れるし」


 突き刺さる。


「も、もしかして、さっきのバトルフィアルダイグノアー戦で、”。”ばっかだったのも」

「うん、はいかんこうかーとのじどううんてんとおなじ! おにいちゃんのこころのつよさにあわせた、たのしかった!」

「た、たのしかった」


 楽しかったって、そんな。

 ……でも、だけど、確かに、

 スライムに乗っ取られたフィアルダの戦いは、このスキルで初めて、短時間に色んなスキルをいっぱい使えて、

 楽しかった、気がする。


「いまはいじわるでいっぱいこころのれんしゅうするの! はいかんこうかーとのたいむあたったくとおなじなの!」


 と、そこまで言うと、セイラ様はまたはいかんこうカートをプレイし始めた。

 セイラ様の言葉に、俺は、テンラ様と顔を合わせた。


「……セイラ様が、高次の存在になってたのはいいましたデスよね?」

「あ、はい、……ちなみに高次の存在って?」

「簡単に言えば、”誰か個人を依怙贔屓しない”存在って事デス、詳しくはエピクロスで検索してくださいデス」


 いや、検索出来ない、ここ異世界でネット環境は無い。

 でも確かにそう考えると、


「転生の女神様は、俺をめちゃくちゃ依怙贔屓してますよね?」


 そう、ずっと前から聞きたくはあった。


「なんでですか?」


 沢山の人が無念のままに死ぬ中で、何故、俺だけが転生者として選ばれたのか。

 そう聞けば、


「”たまたま”です」


 女神様の答えは、あっさりしてた。


「私が転生の女神になって、まだ数百年足らずデス、全ての不幸な魂を、助けられる程の力はない、手が届く範囲にあなたの魂があった……だから究極的に言えば、たまたまデス、もし、この世界に必要だから選ばれた、とか思われていたのならごめんなさいデス」

「……そう、ですか」


 一応は、納得出来る理由、

 弱い自分に何か使命があっただなんて、思えなかったから。


「……でも、それでも」


 ……まぁだけど、それでも、


「なんでですか?」


 改めて、そう聞かずにはいられなかった。

 偶然に意味とか、運命とか、求めすぎるのは良く無いかもしれない、

 だけど、どこか申し訳ない気持ちがある、

 ……そんな俺の想いに応えてくれるかのように、


「貴方が幸せにナル義務なんてありまセン」


 転生の女神様は、微笑みながら、


「だけど、貴方が幸せにならないと、腹が立つ、ただそれだけの”依怙贔屓”デス」


 そう、キッパリと言った。


「その為だけに、16年も、俺の心の中でがんばってくれてたんですか?」

「私は転生の女神デスよ? 勝手に救って、異世界にただ放り出すだけなんて、無責任にも程があるデスよ、さて」


 そしてテンラ様は、軽く指をふる、すると、

 ――俺のステータス画面が勝手に開き


 アルズハート

 [【笑顔】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]


 この項目が、表示された。


「覚えてますデスか? あなたはそのからっぽハートレスを埋めて、心を満たさなければなハートフルデイズらない、さもなければ爆発スルって」


 ば、爆発、そうだった。

 余りにもインパクト有りすぎる言葉、ずっと気になってたけど、どういう意味なんだろう。


「――より正確に言えば、スライムに乗っ取られて心も体も破壊爆発させれられるデス」

「え」


 そ、それって、もしかして、


「フィアルダちゃん、スライムと融合してましたデスよね?」

「は、はい」

「スライムは――心の隙間、空白を、憎悪によって乗っ取るのです」

「からっぽな心を、憎悪で?」

「単純な話デス、大好きな人で満たされてた心があって、その大好きな人を奪われたら心がからっぽになって、その隙間には大好きな人を奪った相手への憎悪が生まれる、そうなればどうなるか解りマスよね」

「――それは」


 それは、ファンタジーじゃなく現実的に考えても、

 当然、その奪った相手を、傷つけるだろうし、殺すだろう。

 ――もしもその奪われたものが大好きな人とかじゃなくて

 幸せとかだったなら、

 世界を憎んで、傷つけ、殺す事すらあるかもしれない。


「スライムが憎悪を操ってるのか、そもそもスライムが憎悪そのもので出来てるか、それは私にもわかりませんデスが」


 そう言ってから、テンラ様は、セイラ様を見た。


「セイラ様があなたを”依怙贔屓”する条件は、スライム退治デス」

「スライム退治」

「はい、人類が困っているからと」


 ……前世だと、簡単な事最初の村のイメージだけど、この世界だと難問だボスラッシュ、だけどそう、それくらいの条件がなければ、俺にこれだけのスキルが与えられるはずもないか。


「強いスライムを一匹倒すごとに、失った心を一つずつ取り戻すようにしたみたいデス」

「という事は、あと6匹?」

「いえ、5匹デス、最初の空白どうやって埋まったか忘れましたデスか?」


 ――ノーフェイス戦

 確か最初、ノーフェイスは倒した後、宝石になった。だけどそこに【○○】が浮かんで、【笑顔】と埋めたら、宝石は写真になった。


強いネームドスライムは負けそうになると、相手の欲しい物欲望に化けて、心を乗っ取る隙を待つらしいデス」


 じゃあ、イグノアーがアイスハンマーになったのは、そういう事?

 フィアの心を乗っ取る為に。


「だけど、からっぽなあなたの場合、欲望そのものが薄いデスからね、宝石なんてありきたりなものに化けるしかなくて、仕舞いには、写真なんてささやかなアイテムに化けて、無力化されたデス」

「ほ、宝石が写真になったのは、そういう事」

「起きたら同じ事をすればいいデスよ、……えっと、そうデスよね、セイラ様?」


 そうテンラ様がたずねれば、


「やった、はねがでた~!」


 ゲームに夢中だった。

 でも、俺がやるべき事は、よりハッキリした。

 からっぽな心を埋める為に、スライムを倒す事。


「まぁ、適当なスライムをしばけばいいって事デスよ、世界を救うまではいかなくても、ちょっとは良くなるじゃないデスか?」

「は、はぁ」

「さてと――そろそろお目覚めの時間デスね」


 え? って思ってると、テンラ様とセイラ様の姿が薄らいで行く。


「あ、そうだセイラ様、そろそろスキルのレベルアップお願いするデスよ」


 え、レベルアップって、そんなお願いすればできるものなの?


「え~そうだな~どうしようかな~」


 あ、この反応リアクションだと出来るんだ。

 モニター画面を見つめながら、セイラ様は、


「それじゃ、とっておきのおだい【  】をあげるから、それができたらいいよ!」


 そんな約束をした後、ゲームを一時中断して、


「がんばって、おにいちゃん!」


 振り向いて、そう言ってくれた後、


「エンジョイアンドエキサイティン笑顔を忘れずにグデス! また会いましょうデス!」


 テンラ様もサムズアップで俺を見送って――

 俺の夢は、覚めていく。

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