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4-end 妹とお兄ちゃん

 ……ん、

 んう、

 んうううう……。

 ……寝てる、俺? そっか、フィアを助けた後、気絶したんだ。

 となるとここはダンジョン――違うな、ダンジョンの硬い床とちがって柔らかい感触、それに、頭が枕の上に乗ってる。俺は今、ベッドで寝てる。

 ゆっくりと身を起こしながら、


「――ここは」


 そう、思わず呟いたら、


「学園の医務室よ、あんたと私以外誰も居ないわ」

「わっ、フィアっ」


 声をした方を向けば、ベッドサイドの椅子に、頭の上にドラゴンチビを乗せたフィアが座ってた。


「いや、あんたの隣のベッドにメディってあのメイドも居たんだけど、なんか気を使って出て行っちゃって、いや気を使うとか本当に意味わかんないんだけどね? だいたいなんで私がアルと二人きりにならなきゃいけないのよ、まぁ正確に言えば二人と一匹だけど、私が居るとお邪魔でしょうしとか本当に意味わかんないというか付き合ってないのって聞けばちょっと顔を赤くして違いますって言うしああもうだからその」


 そう、たっぷり長く188字早口で喋った後、


「ありがとう、お兄ちゃん」


 って、言った。

 ……顔を赤くしながらのフィアの言葉に、俺は最初こそ呆然としてたが、


「こっちこそ、今までありがとうな」

「い、今までって、施設の話!? 言っておくけど、私がお兄ちゃんを守る為にいじめてたって、そんな訳の解んない事してないから!」

「だけど、フィアがいるから、俺があまり手を出されなかった、というのもあるし」

「だからそれは――ああもういい!」


 そう言ってから、


「お兄ちゃんのバカ」


 赤くなった顔を反らした。頭の上のチビが、ピキャー♪ って嬉しそうな鳴き声をあげる。


「えっと、レースはどうなったのかな?」

「どうなったも何もあんた達Fクラスの勝ち、学園中が大騒ぎよ? 逆に、卑怯な手を使って勝とうとした私達Sクラスの評判はだだ下がり」

「ご、ごめん」

「いいわよ――もう私には関係なくなるし」

「え?」

「Fクラスに転入するわ」

「本当か!」


 フィアの言葉に、俺は喜びの声をあげる。


「ええ、……ハクバオージェ、って言ったっけ? 元貴族のあいつが、スネークウィップ蛇女先輩にナシを付けてくれたらしいし」

「そっか」

お姉様アンナも喜んでたわ、Fクラスの聖騎士団所属なんて初めてだから。ああ、お兄ちゃんも改めて誘われてたわよ?」

「そ、それはもうちょっとだけ考えるよ」


 苦笑しながら、スカウトをかわす。ともかく、これで俺のやりたい事は全部まとまった。

 あ、いや、

 まだ一つある。


「フィア、あのアイスハンマーだけど」

「ああ、これ?」


 フィアは、ベッド下にあっただろうそれを、ぐいっと持ち上げた。

 ――やっぱりか

 スライムはまた、氷のハンマーに変化したんだ、またフィアの心の隙間からっぽに入り込む為に。


「まさかアイテムの正体が――スライムが化けたものだなんて」


 フィアの様子から、彼女もこいつスライムの目論見に気付いた事が解る。


「……こいつに乗っ取られた時、凄く怖い気持ちになった、あんたを――お兄ちゃんを殺したくなった」

「――殺す」

「私の事を見てくれない、褒めてくれないお兄ちゃんなんて要らないって」


 ……そんな風にまで、人の心を堕としてしまうんだ。

 ――心のからっぽは誰にだってある

 この世界でスライムが、最強の理由を、初めて知った気がする。

 ともかく、俺がすべき事は、


「フィア、このアイスのハンマー、俺がもらっていい?」

「え? い、いいけど、大丈夫?」

「ああ」


 フィアからハンマーを受け取る、冷たくて、ずしりと重い。それを俺はみつめながら、


「フィア、俺のスキルだけど」

「え?」


 ――スキルの開示は信頼の現れ


「こんな事も出来る」


 俺が、ハンマーをみつめてると――目の前に【○○】が飛び出した。


「え、な、何それ!?」

「ピケェ!?」


 フィアとチビが驚く中で、俺は目の前の空白に埋めるものを、

 考えるまでもなく、胸の内から浮かぶ物を、あの日、母さんに望んだ物を、

 ――言葉にする


「【賞賛】」


 誰かに、褒めて貰いたい、認めて貰いたい。

 その言葉でスキルが埋まった途端、

 ――アイスハンマーは輝いた後

 ……何かが書かれた、一枚の紙になった。


「な、何これ――表彰状?」


 この異世界にも存在する、誰かの栄誉を称える言葉が書かれている紙。

 だけど俺の目の前にあるのは、手書きで作られたものだった。

 ――小学校の友達からもらうような

 ……もちろん、俺にそんな思い出は無い、下宿先の棚に飾ってる、小学校時代の笑顔の写真と同じ類い、存在しない物。

 だからこそ俺にとってはかけがえのない宝物。

 ……俺はその表彰状をくるくると巻いて、懐にしまった。するとフィアが、チビと一緒に猛然とした勢いで、


「え、ちょっと今、何したの、なんのスキル!?」

「ああ――俺の【○○マルマル】スキルって、空白に文字をあてはめて使えるんだ、極端な離し、フィアの【炎聖】スキルも使える」

「はぁ!? 何それそんなのチートじゃない!?」

「いやそれが、【○○】の文字が既に埋まってたりとかしてさ、【ぬ○○】の時は【ぬるぽ】しか思いつかなかったし」

「そもそも【ぬるぽ】ってどういう意味だったのよ!」


 そんなやりとりをしながら俺は、


「とりあえず、大分使い方も解ってきたんだ、どんな難しいお題が出たって、心を強く持てばきっと」


 なんとなく自然と、ステータス画面のスキル欄を開き、今のお題をチェックして、

 チェック、して、

 ……、


「……セ」

「セ?」

「セイントセイラ様ぁぁぁ!?」

「お兄ちゃん!?」


 フィアが驚くのも構わずに、きっと俺の心の中で、未だにはいかんこうカートをしてるであろう神様に、叫んでいた。

 ――だって俺のレベルアップを賭けた新しいお題は






 【穴埋め問題】スキル -ランク Lv2

 スキル解説[全部カタカナで埋めてね!]


1【○○○○○】 [魔法の呪文]

2【○○○】 [取り戻せ]

3【○○】 [オーガニ族のシンボル]

4【○。。○】 [神様、空から女の子が!]

5【○○○○】 [ただ一つの勲章]

6【○○】 [ノジャイナリィのもう一つの可能性]

7【○○】 [罪]


 アルズハート

 [【笑顔】【賞賛】【○○】【○○】【○○】【○○】【○○】]

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