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幕間

ExtraSide三人称視点 四国会談、学園遠見の塔にて

 ――ダンジョンレースから7日の時が経ち

 円卓帝国中央部、六つの施設に囲まれる形で鎮座する、皇帝の城。

 城門に通じる部分は聖騎士団という、この国の防衛機構を一任されている箇所にあり、鉄壁の門として機能していた。一方、アル達が通う帝国学園に面している部分には、その学園を一望出来るような高台、学園遠見の塔が設けられている。

 三代目の皇帝が、学舎の様子を眺める為に、そして現在は監視の為に運用されている高さ50メートルの塔15階建て相当、その屋上にて、


「サクラさん!」


 少年皇帝エンペリラの、弾むような声が響く。彼の目には、ある女性の後ろ姿が映っている。


「ごめんなさい、お待たせしました!」


 屋上は四角形スクエアの広場で、中央には丸いテーブルが置かれている。会談の為に整えられた場所に、騎士のヴァイスと執事のユガタを引き連れた少年は、


「こんな早くに来て頂いてるなんて、嬉しいで――」


 そう言って、サクラと呼んだ女性へ近づこうとして、そして、

 横からすっと、彼の目の前に突き出される刃、


「控えられよ、エンリ殿」


 その言葉と供に、行く手を刀で遮られた。エンリは凍り付いた表情をそのまま、その刀の持ち主へと向ける。


「……ゲンブさん」


 エンリの眼に、背筋をしゃんと伸ばした、真っ白な総髪の侍が映る。その額には、鹿の角のような物が生えている

 老剣が皇帝に無礼を働いた事に、ヴァイスは大声で抗議をするが、ユガタの【静寂】スキルで無効化される。

 そのやりとりを――壷算で詐欺を行っていた、忍者がそばで見ていて、いい気味だとばかりにくつくつと笑っている。思わずくノ一を睨み付けるエンリだったが、


森王しんおうエルフリダ様は」


 忍者と侍の向こうに居る――エンリにサクラと呼ばれた女性が、

 静かで美しく、だけどどこか寂しげな声と、そして、

 その高い背199cmと供に、少年149cmへと振り返る。


「急遽、メイドと療養休暇バカンスの為に、ご欠席との事」


 ――エンリにとっては一年振りの再会

 白藍色の着物姿を纏った彼女の容姿は、水色の長髪、面立ちは涼しげながら華やか、そして額から生えている角は、従者二人忍と侍よりも荘厳で美しい。

 彼女は無表情のままに、エンリへと語りかける。


「四国会談が、三国会談になりましたね」


 サクラはエンリを見下ろす50cm差形で、


「サ、サクラさん、僕」


 エンリはサクラを見上げる形になるけれど、そんなエンリにサクラと呼ばれた女性は、


「もうその呼び方も、お止め下さいと、願ったはずです」


 たしなめるように言った。


「どうか、セイリュウと呼ぶように」

「……わかりました、セイリュウさん」

「よろしい」


 その顔の一切の笑みは無く、あの頃の面影は何も無い。


「それで、今日の議題は」

「……はい」


 言葉促された少年は、まだテーブルに付かないままに、口火を切る。


「七大スライムの復活について」

「――スライム」


 その言葉に、目を細めるサクラ、いや、セイリュウに言葉を続けるエンリ。


「はい、300年前に現れて、100年前に姿を消したと言われている七大スライムです、……偶然なのかその名を冠するスライムが、学園生徒と交戦しました」


 エンリは懐から書物を取り出す。


「これは皇帝が代々継承する記録です、かつて大陸を混乱と恐怖に陥れたスライムの名前ネームドが書かれています」


 厚い書物を開けば、それに目を滑らせながら、


ノーフェイス顔無き悪意イグノアー孤立する罵倒フェイカー偽りに溺れよロスト――描けぬ――


 そう、次々と七大スライムの名を読み上げていくエンリだった、だが、


「それが私達、大和の国になんの関係が?」


 と、セイリュウは、冷たく言い放った。


「……それは」


 言葉失うエンリに対しても、セイリュウは、無表情を貫いて。


「とりあえず、席に座りましょう、エルフリダ様は欠席ですが、もう一人来るのですから――」


 そうセイリュウが言った、その時、


「ええ天気やねぇ」


 声が突然、まるで刻を告げる鳥のようにいきなりに聞こえた。

 穏やかでゆっくりとしてて、聞いてるだけで春風を感じるような、そんな声。エンリ達は慌てて視線を、声のした方に映す。

 白を基調として、所々銀細工の意匠がほどこされた聖衣に包まれた、女性の後ろ姿がそこにあった。


「学園もよう見えるんよ」


 純白すらも通り越して透き通ったかのように輝く長髪、それがゆらりゆらりと揺れる、

 ――いつのまにそこにいたのか


「おおきによぉ、エンリ君、うちのわがままでここにしてもろて」

「いえそれは、貴女様の頼みなら当然で」

「うん、前から気になってたんよ、ここからの眺め」


 そう言って白い髪の少女は、手すりからぐいっと身を乗り出した。危ないですよ、っと、エンリが声をかけても引き下がらない。


「わぁ、いっぱい生徒さんおるねぇ、もう眺めてるだけで嬉しくなるんよぉ」


 ……彼女は、国の未来を決める、四国会談に出席する存在。

 アレフロンティア大陸中央に聳え立つ聖山、その頂きに作られた聖都、


「ああ、なんか幸せな気分やし、このまま」


 その国を治める”聖女”である彼女は、

 〔奇跡はここにセイントセイカ〕は、

 左目を、

 開けぬ彼女は、


「死のうかな」


 そう言って、まるで、兎が草むらから飛び出すように、 

 学園の敷地内へ目掛けて、身を投げた。

 ――神様、空から女の子が

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