――ダンジョンレースから7日の時が経ち
円卓帝国中央部、六つの施設に囲まれる形で鎮座する、皇帝の城。
城門に通じる部分は聖騎士団という、この国の防衛機構を一任されている箇所にあり、鉄壁の門として機能していた。一方、アル達が通う帝国学園に面している部分には、その学園を一望出来るような高台、学園遠見の塔が設けられている。
三代目の皇帝が、学舎の様子を眺める為に、そして現在は監視の為に運用されている高さ
「サクラさん!」
少年皇帝エンペリラの、弾むような声が響く。彼の目には、ある女性の後ろ姿が映っている。
「ごめんなさい、お待たせしました!」
屋上は
「こんな早くに来て頂いてるなんて、嬉しいで――」
そう言って、サクラと呼んだ女性へ近づこうとして、そして、
横からすっと、彼の目の前に突き出される刃、
「控えられよ、エンリ殿」
その言葉と供に、行く手を刀で遮られた。エンリは凍り付いた表情をそのまま、その刀の持ち主へと向ける。
「……ゲンブさん」
エンリの眼に、背筋をしゃんと伸ばした、真っ白な総髪の侍が映る。その額には、鹿の角のような物が生えている
老剣が皇帝に無礼を働いた事に、ヴァイスは大声で抗議をするが、ユガタの【静寂】スキルで無効化される。
そのやりとりを――壷算で詐欺を行っていた、忍者がそばで見ていて、いい気味だとばかりにくつくつと笑っている。思わずくノ一を睨み付けるエンリだったが、
「
忍者と侍の向こうに居る――エンリにサクラと呼ばれた女性が、
静かで美しく、だけどどこか寂しげな声と、そして、
その
「急遽、メイドと
――エンリにとっては一年振りの再会
白藍色の着物姿を纏った彼女の容姿は、水色の長髪、面立ちは涼しげながら華やか、そして額から生えている角は、
彼女は無表情のままに、エンリへと語りかける。
「四国会談が、三国会談になりましたね」
サクラはエンリを
「サ、サクラさん、僕」
エンリはサクラを見上げる形になるけれど、そんなエンリにサクラと呼ばれた女性は、
「もうその呼び方も、お止め下さいと、願ったはずです」
たしなめるように言った。
「どうか、セイリュウと呼ぶように」
「……わかりました、セイリュウさん」
「よろしい」
その顔の一切の笑みは無く、あの頃の面影は何も無い。
「それで、今日の議題は」
「……はい」
言葉促された少年は、まだテーブルに付かないままに、口火を切る。
「七大スライムの復活について」
「――スライム」
その言葉に、目を細めるサクラ、いや、セイリュウに言葉を続けるエンリ。
「はい、300年前に現れて、100年前に姿を消したと言われている七大スライムです、……偶然なのかその名を冠するスライムが、学園生徒と交戦しました」
エンリは懐から書物を取り出す。
「これは皇帝が代々継承する記録です、かつて大陸を混乱と恐怖に陥れたスライムの
厚い書物を開けば、それに目を滑らせながら、
「
そう、次々と七大スライムの名を読み上げていくエンリだった、だが、
「それが私達、大和の国になんの関係が?」
と、セイリュウは、冷たく言い放った。
「……それは」
言葉失うエンリに対しても、セイリュウは、無表情を貫いて。
「とりあえず、席に座りましょう、エルフリダ様は欠席ですが、もう一人来るのですから――」
そうセイリュウが言った、その時、
「ええ天気やねぇ」
声が突然、まるで刻を告げる鳥のようにいきなりに聞こえた。
穏やかでゆっくりとしてて、聞いてるだけで春風を感じるような、そんな声。エンリ達は慌てて視線を、声のした方に映す。
白を基調として、所々銀細工の意匠がほどこされた聖衣に包まれた、女性の後ろ姿がそこにあった。
「学園もよう見えるんよ」
純白すらも通り越して透き通ったかのように輝く長髪、それがゆらりゆらりと揺れる、
――いつのまにそこにいたのか
「おおきによぉ、エンリ君、うちのわがままで
「いえそれは、貴女様の頼みなら当然で」
「うん、前から気になってたんよ、ここからの眺め」
そう言って白い髪の少女は、手すりからぐいっと身を乗り出した。危ないですよ、っと、エンリが声をかけても引き下がらない。
「わぁ、いっぱい生徒さんおるねぇ、もう眺めてるだけで嬉しくなるんよぉ」
……彼女は、国の未来を決める、四国会談に出席する存在。
アレフロンティア大陸中央に聳え立つ聖山、その頂きに作られた聖都、
「ああ、なんか幸せな気分やし、このまま」
その国を治める”聖女”である彼女は、
〔奇跡はここにセイントセイカ〕は、
左目を、
開けぬ彼女は、
「死のうかな」
そう言って、まるで、兎が草むらから飛び出すように、
学園の敷地内へ目掛けて、身を投げた。
――神様、空から女の子が