SクラスとFクラスの対抗レースから7日後、前の世界で言うと一週間後の学園、Fクラスの教室にて、
俺はたった今、クラスメイトの大切な物を奪ってしまっていた。
「――こーん」
その大切な物は、
「こぉぉぉぉぉん!?」
語尾である。
〔狐火見たりノジャイナリィ〕、Fクラスのクラスメイトで、祖母が大和出身という
フィアよりも小柄でオレンジ髪で、【狐火】スキルを使うと彼女の周りに、熱くも冷たくも無い火の玉が浮かぶ。そしてその火の玉は、まるで狐の耳や尻尾みたく、彼女の体から生えるようにも展開される。
そんな如何にもお狐な彼女の特徴は、のじゃという語尾、なん、だけど、
「どういう事こんアルテナッシ! なんで儂の
「え、えっと、ごめん!」
俺はともかく、手を合わせて謝るしかない。
「そういうスキルみたいだから」
【コン】スキル Eランク
スキル解説[ノジャイナリィの語尾が丸一日こんに変わるこん]
「力の限りこんここぉぉぉぉぉん!」
「あ、ちょっと狐火で攻撃しないで、熱くないけど冷たくないけどなんか痛い、痛い!」
狐火でこんこん叩かれる俺、そんな俺を見て冷や汗を流すメディと、そして、
「本当、お兄ちゃんのスキルって、使いにくいわよねぇ」
SクラスからFクラスに転入したフィアが、
「【適当】スキル、[何が飛び出すかわかんない]だっけ」
そう、俺の【○○】スキルを、嘘を交えて説明した。そしてメディもその嘘を補強する為に口を開く、
「どんな効果か、そして何時発動するかも解らないスキル、Bランクでございましたね」
「あ、うん」
ダンジョンレースの際に、俺の
メディもフィアも【○○】スキルについて、完全に明かすのはやめとこうと言った。
俺も、その方がいいと思った訳だけど、
「そのスキルのとばっちりで儂がこうなるのはおかしいこんよ! 戻せこぉん!」
「い、一日で治るみたいだから!
そもそも俺が今、ノジャイナリィの語尾を変えてしまったのは、
――セイントセイラ様の
【穴埋め問題】スキル -ランク Lv2
スキル解説[全部カタカナで埋めてね!]
2【○○○】 [取り戻せ]
3【○○】 [オーガニ族のシンボル]
4【○。。○】 [神様、空から女の子が!]
5【○○○○】 [ただ一つの勲章]
6【コン】 [ノジャイナリィのもう一つの可能性]
7【○○】 [罪]
そう、穴埋め問題、雑誌の読者ページとかに良く有る奴。レベルアップの条件に、セイラ様がまさかこんなものをぶちこんでくるなんて思わなかった。
だけどご覧の通り、
「ともかく、思い通りにスキルを使えないから、普段はメディさんに助けてもらってる訳だね」
「美しい主従関係だひひん!」
元貴族のハクバオージェが穏やかに笑い、彼の従者ウマァガールが右手を高くあげる。するとフィアが頬を膨らまして、
「そこはなんとかしなさいよお兄ちゃん、メディがいなくても戦えるように」
「ピキャー」
と、頭の上の
「あ、ああうん、それは努力するよ」
俺は苦笑しながら、狐火にしばかれながら、なんとか答えて――するとそのタイミングで、チョークコクバン
「さて、授業を始めるわよ、……ところでフィアルダ?」
先生がまず、フィアに声をかけた。
「あなたが
「――はい、先生」
そこでフィアは、柔らかく笑い、
「Sクラスより、楽しいです」
その言葉に、俺も含めて、
「あーし的にもかわいい子増えるの超アガるー☆」
「それ私へのセリフ? チビへのセリフ?」
「両方☆ セットで吸わせて欲しいし☆」
「ピキャ!?」
フィアと
――バァン! っと
「わっ!?」
せ、先生が、黒板を思いっきり叩き付けた。そして、フィアを恐ろしい形相で睨み付ける。
「そんな事は聞いていない、私が聞きたいのは」
そして先生は、フィアに向かって、
「Sクラスの
あ、思いっきり
こ、この異世界、現実世界の物がそのまんまちらほら、多分スキル経由で流れ着いてきてるんだけど、確かにSクラスだけはホワイトボードが使われてるって話だ
「え、えっとそれは」
フィア、戸惑いをみせる。正直黒板にだって、
「黒板だと思います!」
フィアの中身は大人なので、このクラスでの正解を出した。よし! と、満足そうにうなずく先生。
「それじゃそんな偉大な黒板を使って、
「四国会談?」
あれ、どっかで聞いた事があるような、そう思ってると隣のメディが、
「この前、カフェテラスで、アンナ様からお聞きしましたね」
あ、そうだったそうだった。結局、四国がどの国の話か解んなかったけど。とか思ってると早速先生が、チョークで俺の疑問に答えるように国名とその代表者を書いてくれる。
円卓帝国のエンペリラ様、大和の国のミズチサクラ様、エルフの森のエルフリダ様、そして、
聖都の聖女セイントセイカ様、という名前が並ぶ。
「だけど、エルフリダ様は火急の用が入って来られなくなったらしいわ、だから三国会談ね」
そう言って先生は、黒板消しでエルフリダ様の名前を消した。
――エルフという存在
施設では勉強する事を禁じられていた俺でも、話は聞いた事がある。前世の世界で語られるとおり、とんがり耳の麗しい容姿だとか。ただほとんどのエルフが森で一生を過ごすとかで、実際に遭遇する事は
会いたい訳じゃないけれど、俺のイメージ通りのエルフになるのかな、とか、考えてると、
「ともかく、今の所この方々が学園に来られる予定は無いけれど、万が一にも出会ったら失礼の無いようにする事」
ああ、それは確かに。ただ、大和の国の人は多分、和風っぽいファッションと、額から生えてる角で解るんだろうけど、
「あの、先生、聖女様の特徴ってどういうものでしょうか?」
そっちがわかんない、……セイントセイカって、セイラ様とそっくりな名前だから、多分似てるんだろうけど。
「あ、それは俺も知りてぇ」「聖都の存在そのものがヴェールに包まれてますからね」
双子からの追加の質問があって、先生は、
「私も伝聞でしか聞いた事がないけれど」
そう言って、チョークを黒板に
「片目、らしいわ」
そう、その字を書いた。
その言葉に、眼帯とか付けてるのかなぁと想像する。
「ともかく、触らぬ聖女に祟り無し、問題だけは起こさないでよ、特にそこ」
「……え?」
そこで先生は俺を見る、……ていうかなんかクラスの皆も俺を見てる!?
「〔何も無しのアルテナッシ〕、貴方ってトラブルメイカーな所があるから」
「そ、そんな!? 俺、迷惑をかけるような事はしません!」
慌てて弁明する俺だけど、
「嘘吐けこーん!」
って、早速迷惑をかけてしまったイナリィが声をあげた。
「それじゃさっさと儂の
「ご、ごめんってばぁ!」
また狐火でしばかれる俺、イナリィをなだめようとするメディ、だけど止まらないイナリィ、当然、
「教室ではお静かにぃ!」
結局俺達三人は、仲良く先生の
「ともかくアルテナッシは、聖女様に絶対に会わないように!」
そんなのそう、言われなくても当たり前。俺が聖女様と出会うなんて、
――空から降ってこない限り有り得ない