目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

5-3 それはとってもあり触れた

「アルテナッシィィィ! 聖女様を連れて出てこぉぉぉい!」


 ――学園の敷地内中にヴァイスさんの声が木霊する


「聖女様って、あの聖都の聖女のセイントセセイセイセイセイイカ様!?」

「誘拐って何しでかしてんだよあの問題児のアルテナッシ!?」

「失望しました、Fクラスのファン辞めます」


 そんな生徒達の会話を聞く俺達が今居るのは、使われてない空き教室だ。


「ふふ、アルテナッシ君って有名人なんやねぇ?」

「……聖女様程じゃないと思います」


 俺と今、空き教室の扉近くに、隣り合って座ってる人の名は、セイントセイカ様。

 あのホームルームの後にメディから聞いたけど、その名が示すとおり、あのスキルの女神様、セイントセイラ様の血を引く女性、もしくは生まれ変わりだとか言われてるとか。

 まぁ後者の方は否定されるんだけど、なんせ俺の心の中ではいかんこうカートをやってるし。

 どちらにしろ俺はそんな生きる伝説的な聖女様と、


(がっつり、関わっちゃってる……)


 先生にあれだけやめろって言われたのに、現在進行形でやらかしてしまった。はぁ、っと溜息を吐く俺だけど、そんな俺を聖女様はにこにことみつめている。


「あ、あの、聖女様」

「あかん、セイカって名前で呼んでっ」

「……セイカ様」

「なにぃ?」

「もう出て行っていいですか?」

「あかんよぉ」

「なんでですか?」

「うち、死のうと思って飛び降りたんよ、命を助けてくれたお礼を返すまで二人っきりでいたいし」

「え、ええ?」


 自殺しようとしてたって事、この聖女様?

 左目を閉じっぱなしの笑顔は、どこまで本気なのかわかんない。


「ぽっ♡」


 な、なんかオノマトペを自分で言って頬を染めてきた、これってもしかして、

 そういう、アピールされてる?

 やばい、

 やばいやばい!

 異性との交流に慣れて鈍感系主人公ない俺でも、流石にどういう目で見られてるか解る!

 多分、命を助けられたとかの吊り橋効果みたいな奴で、聖女様は俺を言葉にするにも恐れ多い感情を抱いてる、気がする!


(か、からかってる可能性もあるけど、どちらにしろ!)


 こんな場面を誰かに見られたら、変な誤解をされてしまう! とか思ったら、

 ――ガラガラガラァッ!扉が横に滑る音


「あっ」


 誰かが、入って来て、


「ここにおられたのですねセイントセイカ様」

「ソーディアンナさん!?」


 聖騎士団団長のソーディアンナさん、それと、


「おーい、私にも気付くべき」


 ダンジョンレースの時、お目々でスクリーンにレースの内容を投射していた、ドロウマナコさんがスケッチブックと一緒に現れた。……あ、もしかしたら、この人のスキル千里眼で見つかっちゃったのか。

 ピシャンッ、と、扉を閉めた後にアンナさんが、セイカ様に声をかける。


「ホストであるエンリ様が心配されてます、戻りましょう」

「あ~あ、ふたりぼっちの時間終わってもうた、おもんなぁい」

「……セイカ様、お戯れはおやめください、貴方にとっては軽い行動でも、その影響は生徒にとって、一生の命取りになりかねないのですから」


 そう言って俺の方を見やる、あ、よかった、俺が誘拐したんじゃないって事は解ってくれてそう、流石アンナさんさすあな


「えぇ~せやけど~」


 ……で、セイカ様はなんか子供っぽく拗ねてる、こういう所、ちょっとセイラ様っぽい。やっぱり何か、繋がりがあるんだろうか。


「ともかくセイカ様は、早く四国会談、もとい、三国会談に戻るべき」

「んー」


 マナコ先輩の呼びかけにも、渋っている様子、だが、


「あ、せやせや!」


 そこで急に、パァッと笑顔を浮かべて、

 そして、


「三国会談で出てきた問題、アル君と解決してくるんよ!」


 ――唐突なその言葉は

 俺はもちろん、アンナさんもマナコさんも混乱するもので、え、も、問題って何?


話題議題に出とった七大スライム!」


 ん?


「その内の一匹、アルテナッシ君と退治してくるよってに!」


 え、え、えええ!?

 スライム退治って何を言い出してるんだセイカ様!? アンナさんもマナコさんも、驚きで固まっている、

 それに、そもそもに、


「――七大って何?」


 ともかくそうな修飾語――そして、その七という数は、


(俺の埋めるべき心の空白アルズハート数と一緒)


 この符号に意味があるのか、そう思った時、


「ほな行こかICOCA


 そう言ってセイカ様は俺の手を取って、立ち上がり、そして、

 ――ギュッとハグしてきた

 ええええええ!?


「セイカ様!?」


 アンナさんが声をあげ、そして、


「これは――描き残しておくべき!」


 マナコさんが思いっきり描き始めたいやいや待ってこんな姿残さないで!?


「ちょ、ちょっとセイカ様、なんのつもり!?」


 俺がひたすら慌てた、その時、


「ここがお兄ちゃんの教室ハウスね!」

「ああ、匂いが、する」


 フィアの声とスメルフの声と、


「ご主人様以外も誰かおられるようですが」

「と、ともかく踏み込みましょうですわ!」


 メディの声とロマンシアの声がして、そして、

 ――ガラガラガラァッ!扉が横に滑る音

 俺を探して来たであろう4人に、

 俺がセイカ様に抱きつかれている姿は、バッチリ見られてしまった。

 時が、止まる、だが、

 一番に声をあげたのは、


「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」


 やはりというかフィアで、頭の上のチビもピキャー!?って吼えて、


「違うから、これは違うから!」

「何が違うのよ!? あ、ていうかお姉様もいる!?」


 ぼぉぼぉ燃えあがるフィア、声を失うメディ、何やってんのお前という目で見てくるスメルフ、はわわぁ!? なロマンシア、そんな大騒ぎする中でも、


「ふふ、皆、アル君の心配してきてくれたんや、ええ人達やねぇ」


 セイカ様だけはペースを乱さず、そして、


「悪いけど、ちょっと借りとくなぁ」


 そう言った、


「ほなまたね!」


 次の瞬間、

 ――俺は皆がいる教室から

 パッ! っと、

 青空拡がる空中へと、セイカ様に抱きしめられながら放り出されていた。


「え?」


 と思ってたらすぐに、


「えええええ!?」


 か、体が落下する! どんどん凄い速度で落ちてく、このままだと地面と激突する!

 だけど、


「大丈夫よぉ?」


 そこでセイカ様は俺の体を、


「今度は、アル君の為だけの【奇跡】やから」


 お姫様抱っこみたいに抱えて――その途端、

 落下が止まった。


「……え?」


 いや違う、落下のスピードが、限り無くゆっくりになっていく。のろのろと徐々に下がっていく。


「こ、これって――いやここは」

「アレフロンティア大陸の西側にある密林地帯」


 ――抱えられた状態で見下ろすは

 セイカ様の言うとおり、まだ空に浮かんでいるというのに、喉と鼻が灼けそうな程の、緑のむせ返る匂いが立ちのぼってくるジャングルだ。モンギャー! と鳴き声をあげる、極彩色のでっかい怪鳥が、飛び回る姿も見えている。

 そのジャングルの開けた場所へと、俺達は下降していく。


「オーガニ族が住んでる所やね」

「――オーガニ族」


 待って、それって、穴埋め問題の。


「来たかったんやろ?」


 どういう事だ?

 なんで俺の望みが、解ってるんだ?

 俺は呆然と、左目を閉じたセイカ様の顔を見つめる。


「そない不思議な顔せんといてよぉ、こんなんただの」


 そしてセイカ様は、あっさり言った。


「【奇跡】やから」

「――奇跡」

「そう」


 俺の顔を覗き込みながら彼女は、


「【奇跡】スキル――〈チートフルデイズありきたりの奇跡〉」


 そう言った後、


「ほな答え穴埋めを探しに行こ、アル君?」


 そこまで、告げる。


(こ、これって)


 どこまでもお題を見透かすような、その右目に、

 俺は恐怖よりも、何故か、安らぎのような暖かさを覚える。

 どうして、何故、

 ……俺がそう思っていると、


「ああああああっ!」


 下の方から、男の声が聞こえた。目をやるとそこには、


「ま、まさか聖女様が、降臨されるとは!」


 四角形カクカクした眼鏡をかけて、白色の髪をくくったアンダーポニテ、聖職者っぽい格好をした背の高い青年が、


「この〔神探しのゴッドフット〕! これほど喜ばしい事はありません!」


 そう言って手に何か――セイラ様の小さな女神像を握って、なんか、涙まで流している。もしかしてこの人が、オーガニ族の密林で、新たな聖地を見つけた人?


「セイントセイカ様、どうかお足元に気を付けて、ここは穢れた地でありますから――」


 そう、感涙した様子で、セイカ様の到着を喜んでたようだけど、


「……え?」


 今まで見えなかったのか信仰は盲目――セイカ様の腕の中の、


「え、え、え?」


 Fクラスの、多分、一番有名人客観視、〔何も無しのアルテナッシ〕である俺が抱かれているのに気付くと、


「なんで――」


 聖女様がそのまま、降り立った瞬間、

 ゴッドフット先輩は、


「なんでFクラスのクズが聖女様と供にぃぃぃ!?」


 拒否反応解釈違いを起こしたかのように、泡を噴いて絶叫した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?