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5-4 ウーホッホッホヤッホッホー

 オーガニ族が住むという西方のジャングル地帯、その開けた場所。


「ななななんでセイカ様がFクラスのこの男とぉ!?」


 空から響き渡る、モンギャー! っていう怪鳥の鳴き声も吹き飛ばすような絶叫をあげる、神職者っぽい格好をしたゴッドフット先輩。

 うん、まずい、どう考えてもこの状況はまずい、なのにセイカ様は俺をお姫様抱っこしたまんま、


「デートしにきたんよぉ」


 火に油を注ぐような事を言っちゃった!?


「ギャー!?」


 ああ、ゴッドフット先輩、仰向けにぶっ倒れた!? の、覗き込んだらこれ、白目剥いて気絶してる?


「ちょ、ちょっとセイカ様、どうするんですか!?」

「どうするて、うち、ほんまのこと言うただけやけど」

「デートじゃないでしょ!」


 そう俺が、焦った顔で言えば、常時ウィンク顔左目つぶりっぱなしのセイカ様はくすくすと笑い、


「男の子とのおでかけは、私にとってデートやし」


 そう言ってから、俺をやっとお姫様抱っこから密林の大地へと降ろした。


ほやそれじゃ、行こっか」

「行くってどこへ――」

「オーガニ族さんに会いたいんやろ」


 ――あっ


「到着地点はズレたけど――あっちの密林を突っ切った所に、黄金の川っていうのがあるんよ、そこに行けば会えるはずやし」


 そうだ、大切な事を忘れていた、

 セイントセイカ様は、まるで俺の心の中を、正確には俺のスキルのお題を知っているかのような素振りをみせてる。


「あ、あの、セイカ様」

「ん~?」

「なんで俺が、ここに来たい事が解って」


 そう尋ねればセイカ様は、


「うーん、うちもまだ、ハッキリと言葉にできひんのやけど」


 ずずいっと俺に近寄って、かなり近い距離で俺の顔を見上げる、そして片目右目を細めながら、


「アル君の心の中に、私の知っとる人がいる気がするんよ」

「へ?」

「君に抱きとめられた時からそれ感じてて、なんやろねぇこれ?」


 それってもしかして、セイントセイラ様の事?


「不思議やねぇ、君と一緒にいると、助けてあげたい気持ちがいっぱい出てきてぇ」

「――それってまさか」

「うん、もしかしたら」


 セイカ様は、笑って、


「恋、かもしれへんねぇ」

「それは違いますから!」


 恐れ多い感情を言ってしまったセイカ様、その時、


「ギャー!?」


 って声が聞こえて、振り返ったら、


「あ、ゴ、ゴッドフット先輩」


 さっきまで泡噴いて倒れていた人が、泡を噴いたまま立ち上がった。そしてわなわな震えながら俺を指差して、


「き、貴様、何をしてるのですか? 聖女様を誑かすなど」

「ち、違うんです、セイカ様が勝手に言ってるだけで!」

「――その罪、万死に値する」


 ああ、なんか女神像を俺に突き出して、


「【神聖】スキル!」


 俺に攻撃を仕掛けようとして!

 ――モンギャーって


「え?」


 怪鳥の鳴き声が聞こえたかと思ったら――むんずって、


「え、え?」


 そのでっかい怪鳥のモンスターに、肩を掴まれて、そのままばっさばっさと、


「え、え、え?」


 連れて行かれて、飛んでいった。


「えええええ!?」


 そのままバッサバッサと羽ばたく怪鳥に、お空へ連れて行かれるゴッドフット先輩。


「き、貴様私に何をするのですか!? 離しなさ――いややっぱり離すな!? 落ちる、落ちて死にます、あぁぁぁぁぁ!」


 ……そしてとうとう、声も聞こえないくらい遠くまで連れ去られていった


「だ、大丈夫でしょうか、ゴッドフット先輩」

「うーん、助けてあげたかったけど、うちのスキル奇跡じゃ無理やったねぇ」

「……どういう事ですか?」


 【奇跡】スキル、

 この密林への瞬間移動とか、俺の心を覗くとか、正直、なんでもできそうな感じのチートだけど。


「うちのスキルはね、自分の好きなモノにしか使えへんのよ」


 え?

 それってつまり、


「お気に入りゆうか、依怙贔屓ゆうか、ともかくそんな感じ」


 だからさらりととんでもない事を言わないでください聖女様!?


「そうそう、好感度が高い程、奇跡の力も強くなるんよ、うちもまさかここまで瞬間移動君の為に出来るとは思わへんかった、オーガニ族の村直送は無理やったけどねぇ」


 そう言って、またこっちを見て頬を染めるセイカ様、

 や、やばい、どうしよう。

 もしかしたら人によったら、この状況シチュは嬉しくてはしゃぐかもしれないけど、俺は正直、怖い、怖すぎる、

 ――初対面の人間にいきなり好意を寄せられる

 その事に、恐怖を覚えてしまっていると、


「ああでも、あんまりベッタリしたらあかんね」


 セイカ様は、言った。


「アル君は、誰かに好きになってもらう事に慣れてへんようやから」

「――っ」


 その言葉に、俺は言葉を一瞬失った。

 ……それはそうだ、だって俺は前世の時、

 母親にすら愛されなかった。


「あ、あのセイカ様、どこまで」


 そう、どこまで俺の心の内が解っているのか、聞こうとしたその時、

 ――どごぉっ! っと


「へぶうっ!?」

「ああ、アル君!?」


 突然横合いから、とんでもない衝撃が来て吹っ飛ばされた!? 骨が折れそうな痛みを感じながら、俺はそのままジャングルの中までころがって、そして、


「あぐっ!?」


 ジャングルの中にあるでかい木に、背をぶつけて止まる――不思議とこれは痛くない。


「大丈夫、アル君!?」


 そして俺のすぐ傍に、パッ! っと、セイカ様が瞬間移動してきた。


「い、一体何が」

「……ああ、アレってまさか!」


 セイカ様が指差した、俺達が元々居た方向から、


「ゴ、ゴリラ!?」


 っぽい、筋骨隆々の毛むくじゃらの動物が、ぐるるるるぅと唸り声をあげて、俺達にゆっくりと近づいてくる!


「密林の王、ゴリランゴや! アル君、体は大丈夫?」

「な、なんとか」


 よろめきながら立ち上がると、


「ギリギリで【奇跡】スキル、使えたからよかったんよ、木にぶつかっても大丈夫なように! って!」

「あ、ありがとうございます」


 俺のダメージは殴られた分だけですんだって事か、正直、助かった。


「けどごめんね、これ以上は奇跡の加護は無し」

「え?」

「うちのスキルって、好きなもん相手に使える能力なんやけど、……好きなもんが二つあると選べんくなるんよ」

「そ、それってつまり」

「うん、ごめん」


 聖女様は、本当に申し訳なさそうに、


「うち、ゴリランゴ好きなんよ」


 と言った。


「ええええ!?」

「いや、アル君の事は好きなんよ、けれどゴリランゴ相手の好きはまた別の|好きジャンル|すぎるんよ、どっちが好き言われてどっちかなんて選べへんような」


 そんなカレーとラーメンどっちも好き的な言い訳浮気のみたいな事されても!? ああ、そんな事を言ってる間に、ゴリランゴがウッホウッホ言いながら襲ってくる、元世界のゴリラと違って好戦的過ぎない!?

 とか思っている内に、

 ――ウホォッ! っと、


「うわぁっ!?」


 全力でラリアットみたいな事をしてきた、慌ててしゃがみこめば、そのまま後ろの木がボッキリ折れた。慌ててゴリラから距離を取ろうとバックステップかけたら、


「うわっ!?」

「あぁ、アル君!」


 ここはジャングル、足場は岩や木の根やらでゴツゴツしてるから、着地するだけでよろけそう、そこにまたゴリラの豪腕がやってくる、やばい、刀を抜く暇も無い!

 や、やばいこのままじゃ、戦わなきゃ生き残れない!

 だけどここはジャングルで、ゴリランゴの独擅場で、どうすれば、ともかく刀を握らないと――


「あのぉ、アル君」


 だけど、その時セイカ様が、


「なんとなくやけど、アル君のスキル、使えへん?」


 そう言うものだから、俺はハッとしてスキル欄を開き、


(あっ)


 その中から俺は自然と、


2【○○○】 [取り戻せ]


 そのお題を、問題を選び、

 ――あてはめる

 ゴリラはその時、俺に向かって両腕をハンマーのように振り落とした。だが、

 スキルが発動した瞬間、

 俺はゴリラの一撃を、ギリギリで跳ねて躱していた。

 ――そしてゴリラの頭上に浮かぶ


「おおっ!?」


 セイカ様の驚きの声が聞こえる中で、俺は、

 スキルをチェックする。


 【ヤセイ】スキル Bランク

 スキル解説[野生スキルの下位互換、解き放て、己の獣を]


 ああこのスキルで――野生を取り戻した俺は、


「ウホォ」


 立派になった犬歯を剥き出しにしながら、唸って、


「ウオホォォォ!」


 そう叫んで、逆にゴリラの頭へ自分の両腕を叩き付けた! その一発で眼を飛び出させて、仰向けに倒れるゴリランゴ!

 俺はその胸板に、表彰台のように乗って、


「ウホオォォォォォ!」


 自分の両腕をあげて、本家ゴリラのように、自分の胸をドラミング! 己の強さを本物のようにアピール!

 や、やばい、衝動が止められない、理性より本能が上回っている、

 するとセイカ様が、


「ああこれって、アル君が、ゴリランゴになったって事?」


 ……あ、なんかトゥンクしてる。


「ああ、アルくん」


 そして、


「――好きぃ」


 うっとりしてる!?


「ウホォォォ!? ウホ、ウホォォォ!」


 パニックになった俺は慌ててしまったが、その時、

 ――ガサガサと

 密林の生い茂る歯を掻き分けて、ゴリランゴ達が飛び出してきた。それも一匹だけじゃない、二匹三匹ともかく沢山。

 気づけばゴリ蘭語の群れが、俺達をぐるりと囲い込む。

 すっかり完全包囲状態で――何時もの俺ならビビって動けなくなるが、

 ――ヤセイヲトリモドシタオレノココロハ


「ウホウホウホォォ!」


 俺は自分の足元にいるゴリランゴから飛び上がると、そのままセイカ様を片腕でひょいっと担ぎ上げて、ジャングルを走り出す! 向かってくるゴリランゴをぶん殴って、木々の間を飛び越えて、


「ああ、うち、アル君に無理矢理連れ去られてる」


 ……え? セイカ様?


「強引なんやねアル君、あかん、こんなの初めて、もっと好きになってしまう」


 セイカ様の言葉に、心の中で勘弁して!? とは思うけど、


「ウオホオオオオオオ!」


 俺の野生は、まるでセイカ様の好意を肯定するかのように、ジャングルに雄叫びをあげさせるのだった。

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