――【ヤセイ】スキル
【野生】の下位互換とは言うけれど、この
そんな風に、セイカ様を担いだ俺は、ジャングルを突っ切っていき、
――密林の中では一際に目立つ
舗装されたような巨大な道の傍に来た頃には、すっかり夜が訪れて、親子月が照らす中で、
「本当に、すみませんでした」
俺は、セイカ様に土下座してた。
「えぇ、なんで謝るんよぉ?」
「いやいや、聖都の聖女様を、ウホウホ言いながら担ぐなんて、それだけで許されざる事ですから!」
「まぁそうやねぇ、ゴリラ罪かもしれんねぇ」
聞いた事無い罪名だけど、もう、それで裁かれてもしょうがない。
だってセイカ様は聖女様で、そんな人をこんな夜遅くに連れ回すなんて、許されざる大罪で、ともかく俺は顔をあげて、
「あ、あの、聖女様、そろそろ学園に戻った方が、皆様心配されてるでしょうし」
「ええ~まだスライムは倒せてへんやろ、それに」
セイカ様は、俺に手を差し伸べながら、
「君の
――穴埋め問題
……俺は、真顔になりながら、伸ばしてくれた手を握る、セイカ様はそのまま俺を引っ張って立ち上がらせて――そのまま手は離さなくて、
「……その、多分、俺の心には、セイカ様が知ってる人がいると思います」
「やっぱり?」
「ですけど、だからってこれ以上を迷惑をかけるのは」
「ええ、迷惑ちゃうよ」
そしてセイカ様は、さらりと言った。
「楽しいもん」
「――楽しい」
その言葉は、
「うちね、男の子に恋するなんて初めてやから」
「ま、待ってください! それはきっと勘違いで」
「せやけど、恋なんて心のバグみたいなもんちゃうの、知らんけど」
し、知らんけどって。
恋なんて、そんなノリでするもんでいいの? そう思う俺にセイカ様、
「吊り橋効果でもなんでも、この心のドキドキが愛しい、キュンキュンする、せやからもっと味わってたいんよ」
「で、ですが」
「ねぇ、頼むよ、うちにもっと恋させて」
そしてセイカ様は、
こう言った。
「300年生きてて、初めての初恋なんやから」
……、
え?
300年!?
「え、嘘、そんなに長く!? そ、そういう種族なんですか!?」
それとも、【奇跡】スキルの力とか――そう思ってると、
「ああ、うち300年前からずっと転生してるんよ」
「転生!?」
「うん、だいたい30年間隔で、体はピチピチ、心はそのまま、チートやろ?」
「て、転生って、そんな」
まさかセイカ様と俺と同じ、異世界転生者? そう思ったけど、
「ほんまよ? この世界で、何度も同じ姿、同じ名前で生まれ変わっとるんよ」
――この世界で
そ、そうか、転生=異世界転生ってイメージあったけど、元々転生って、同世界でするものだった。
……もしそれが可能だったら、気紛れで死のうと塔から飛び降りたのも解る。いや、解っちゃいけないけど。そう思ってると、セイカ様ちょっと心配そうな顔で、
「えっと、
とか言ってきた。
「い、いやそんなことは」
「よかったぁ」
そしてセイカ様は手を離し、
「この事、誰かに言うんは初めてやけど、アル君は解ってくれる気がしたんよ」
と、言った。
……そりゃそうだ、だって俺は、アルテナッシとしては16歳だけど、有田梨央としては35歳。
俺の心はきっと、セイラ様を通じてセイカ様と繋がってる。
――もう色々と隠せない
「あの、俺――」
だからもう俺は、
――俺の唇に人差し指をあてた
そのたった一本の指に、俺は顔を赤くして止まってしまう、そんな俺に、
「まだええよ?」
と言って、
「まずは、スライム退治をしてからにしよ? それまで、うちのわがままに付き合って」
と、笑った。
「……わ、わかりました! その、デート相手としては不足だと思いますけど」
「まぁせやねぇ」
俺の言葉を、否定せず寧ろ肯定しながら、セイカ様、
「うちの今のムーヴ、恋に恋するって奴やもんねぇ、自分でもどこまで本気かわからんし」
と、自己分析。流石通算300歳の方、色々と達観してる。
「えっと、とりあえず、まずオーガニ族に会わないと」
「うん、うちも最後に会ったんは60年以上前やから、楽しみ!」
60年前――一体何回目の転生の時かという事が気になりつつも、俺が聞くべき事は、
「あの、オーガニ族ってどんな方々なんですか?」
――この
スメルフや大和人みたいな獣人族もそうだし、リザードマン族、ドワモフ族、あとエルフ族か、そういう、人間の姿からかけ離れた人達は、スキルを授からない、授かっても役に立たないスキルばかり、だとか。
その代わりスキル無しでも特殊な強さと、それに伴う独自の文化を持っている人達が多いみたい。リザードマン族は火に強いから、火山の傍に住むみたいな。
会う前に、それくらいは知っておきたいと思って聞けば、
「バリバリの自然派やったねぇ」
「自然派、ですか」
密林で暮らすくらいだからそりゃそうだよね。機械文明とかに頼らずに、自然の営みと供に生きるみたいな。
あ、もしかしてオーガニ族ってオーガニックって事?
(素朴な暮らしをしてる、優しい人達なのかな)
そう思いながら、俺はセイカ様の言葉を思い出す
――あの密林を突っ切った所に、黄金の川っていうのがあるらしいんよ
「それじゃセイカ様、オーガニ族がいる黄金の川まで行きましょう」
「もう着いとるよ?」
「え?」
「黄金の川」
いや、何を言ってるんだろ。
俺達の前には、だだっ広い道があるだけで、水の一滴もありゃしない――ん?
(なんか、聞こえてくる?)
道の向こうから何か音が聞こえて、あれは、
「――
沢山の眩しい光が集まってて、そして、
――ブオンブブブブオォン!
「うわぁ!?」
な、なんかけたたましい音が響かせながらこっちに近づいてきて、え、ちょっとあれは、
(バイク?)
思わずそう思ったのは、ハンドルっぽいのを握って、ライトを光らせたものにまたがっている姿が見えたから、だけどそれは、
(ち、違う、バイクじゃなくて――角の生えた動物だ!)
ガゼルとかに良く似てる動物が、人を乗せれるくらい大きいサイズ。
(いや、
ともかくも、またがってる人達が、
「パララパリパリラー!」
「ブォンブォンブォンブォン!」
「マッテタゼェコノ”
な、なんか口でクラクションみたいな事言ったり駆動音みたいな事言ったりツルハシ引きずってそうな事を言ってたり!
そしてそれに跨がってる人は、筋骨隆々で大柄で緑色の肌をしてて、牙が生えていて、そして何よりもその頭には、
「――角だ」
この人達が乗ってる獣から生えてハンドルのように握っている角とはまた違う、逞しくて強そうなものが二本生えている。
――その
そして、一番先頭の人が――なんか動物の毛皮で作った特攻服みたいなものを来た角生えた人が、
「てめぇら、気合い入ってっかぁ!」
って言えば、全員がおおおお! って唸って、
「俺達の
って言えば、
(
俺が心の中でそう叫べば、またもやパパリラパリラララー、と、声での爆音が鳴り響くのだった。