目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

5-7 人は誰かになれないから

 黄金の川をバイクアニマルで駆ける、オーガニ族のリーダーとのレースは、互いのプライドを掛けての、白熱としたものになった。

 だけど、ゴールであるオーガニ族の村には同着。そこで勝敗を決めるために、オーガニ族伝統の儀式、

 ――ナンバーゲッツで決着をつける事なった

 まず、バイクアニマルにまたがったメンバーが大きな輪になったあとくるくる回りながら、お題を言って、次のバイクアニマル乗りがその単位を言って、答えたらお題を言うというのを誰かがミスするまで続けるという、地頭の良さとリズム感、そしてアドリブ力が必要なゲームの結果、その勝者は、

 奇跡の聖女、セイントセイカ様だった。

 という訳で今現在――


「てめぇなかなかやるじゃねぇかよろしく夜露死苦ぅ!」

「うん、うちも楽しかったよー」


 オーガニ族の村では、聖女様と俺の歓迎をする祭りが開催中である。

 あと、俺の【ツノ】スキルと【ヤンキー】スキルは、パンを枚でなく個と数えた後、力士みたいなオーガニ族に吹き飛ばされた時に無くなった。


「わぁ、このお肉おいしいねぇ!」

「せ、聖女様って結構、なんでも食べるんですね」


 丸太を椅子にして、中央に赤々と燃える火を囲みながら、ジャングル産のフルーツや、ワニンゴワニの唐揚げで盛り上がる宴。流石に、猿酒というアルコールは遠慮している。


「そこどけやぁ! オーガニ族名物、モンギャー鳥の卵で作ったオムレツだコラァ!」


 わ!? 俺の目の前に、マグロみたいにでっかいオムレツがおかれた!


「なんか赤いソースケチャップ的で文字が書かれてるねぇ? どういう意味なん?」

「はっ! お前を愛するI LOVE YOUって意味だぜよろしく夜露死苦ぅ!!」


 うん、確かに書かれてる、……"愛羅武勇"って漢字表記なのは謎だけど。。


「しかし、聖女様ってのも話が解るじゃねぇか」


 上機嫌のオーガニ族のリーダーは、セイカ様に話しかける、


「やっぱり俺らの遺跡に、女神がいただなんておかしいよなぁ!」


 ――それは、レースの前にリーダーが放っていた疑問

 そしてその事に、セイカ様も同意していたのも事実だ。


「ええと、遺跡っていうのはあれですよね」


 俺は、リーゼントも角も無くなった顔で、村の中心に目を向ける。


「あの山みたいに大きな建物の」


 そこには、三角形の段々構造という、いかにも中南米的な石造りの遺跡があった。大きさ的には三階建ての建物高さ10メートルくらい。

 てっぺん部分には怪鳥、モンギャー鳥の巣がある、餌を与える代わりに、定期的に卵を失敬しているんだとか。


「リーダーさんは、その女神の痕跡を見たんですか?」

「ああ、見たよ、あの遺跡に隠し扉があってよぉ!」


 ――隠し扉?

 あ、本当だ、遺跡の真ん中あたり扉が、


「……隠れてへんねぇ」

「隠れてないですよね」


 大きめサイズででかでかとあった。

 どう考えても、初見で看破出来るレベルだ、だけど、


「隠れてたんだよっ! 魔法で封印されていたんだとよ!」


 あ、あぁ、なるほど、そういえばここはファンタジーの世界だった、それくらいの魔法はあるか。


「扉の向こうにはでかい部屋があって、その真ん中に女神の石像って奴があった、だがなぁ!」


 そこでリーダー、猿酒をぐびっと呷り、


「あんな偽物いくらでも作れるだろうが! 詳しく調べさせろって言ったが、聖都からお偉い連中が来るまで中に入ってはいけませんって、またあの扉を閉めやがった! 俺達が荒らしちゃ困るんだとよ!」

「えっと、つまりあの扉って」

「ああ、あいつがいなきゃ開かねぇんだ!」


 と、怒りを隠す様子も無く、吐き出す。

 ――遺跡での発掘物の捏造

 ……前世の世界でも、似たような事はあったけど、確かにリーダーさんの話を聞く限り、その可能性は考えられる。


「だいたいあのゴッドフットって奴はどこいったんだよ、調査を続けるっつって、村から出ていって帰ってこねぇし」


 ……モンギャーって鳴く怪鳥に連れ去られていっちゃいました。ま、まぁSランクのスキル持ちの方だし、どうにかなってるはず、と、思いたい。


「――そもそも俺達オーガニ族はよぉ、東からなげぇ旅をしてきたチームだ」


 ん、東?


「ひい爺さんのひい爺さんのひい爺さんひい爺さんのひい爺さんの話じゃ、元々俺たちは大和に住んでたらしいぜ」

「え、大和?」


 それってつまり、極東の島国から、この大陸の一番西まで、ご先祖様が旅をしてきたって訳?


「悪たれが過ぎてオニハソトって追い出されたらしい、その逃げる途中で、オーガ族って角生えた奴らと会って、喧嘩の後に仲間になって、オーガニ族が生まれたって訳よ」


 つまり、オーガ+オニで、オーガニ族、前世の世界で言うなら、東洋と西洋のファンタジーの融合。

 な、なんか凄い歴史を聞いたような気がする。俺がその事にたじろいでると、


「つまり、オーガニ族さんはこう言いたい訳やね」


 セイカ様は、フルーツジュースを飲みながら、


「女神様の助けなんか借りず、自力でここまでやってきた自分等が、それを崇めるなんて有り得へんって」

「その通りだよろしく夜露死苦ぅ!」


 リーダーさんが元気よく答えると、他のオーガニ族の男女達も、


「俺達が感謝するのは神じゃねぇ!」

「毎日疾風かぜになる仲間達、そして!」

「追放者の俺達を、抱きかかえるように受け入れてくれたこの大地だ!」

「強いて言うなら自然が俺達の神様だよろしく夜露死苦ぅ!」


 そう言って、猿酒の入った木製のコップを、ぶつけあいながら豪快に笑った。

 そっか、自然との共生か、それはとっても素晴らしい事だと思う。

 ……、

 なんでそれでオーガニ族の文化が、珍走団暴走族みたいになってるのかは解らないけど。一番アンチ自然なんじゃ。

 なんて事を思ってると、


「よし、そろそろお開きにするか!」

「早寝早起きしねぇと肌に悪いからな!」


 あ、そこは健康的なんだ。


「てめぇらの寝床の準備してくっから、ここで待っておけよろしく夜露死苦ぅ!」

「よ、よろしく夜露死苦


 去っていくリーダーさん達――そして、改めてセイカ様とふたりっきりになった状況。ああなんだろう、やっぱり気まずい、

 そんな俺にセイカ様は、


「楽しかったねぇ、今日」


 と、言ってきた。


「ほんにアルテナッシ君、凄かったねぇ、ゴリランゴになったりリーダーさん達ヤンキーみたいになったり、凄いスキルやねぇ」

「あはは、その、ちょっともう勘弁したいですけど」

「ええやないの、違う何かになれるなんてステキな事よ」

「そうですかね」

「ほうよ」


 そう言ってセイカ様は、

 左目を閉じたままに、

 笑って言った。


「うちは何度死んでも、聖女にしか生まれ変われへんし」


 その言葉を発する聖女様は、

 どこか、寂しそうだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?