オーガニ族村の宴の後、焚き火の前、二人きりで丸太に座っている状況で放たれた、
「うちは何度死んでも、聖女にしか生まれ変われへんし」
その言葉に、絶句するばかりの俺にセイカ様は
左目を瞑った、寂しげな笑みのままに言葉を続ける。
「今度こそ違う人生をと願って、死んでみるんよ」
――300年30年間隔で転生していると聞いた
俺と違って、同じこの世界で。
「うちの転生はね、赤ん坊になって生まれ変わるんちゃうんよ、5歳くらいの状態で、知識そのままにこの世のどこかで生まれ変わる」
ああ、親無しのパターンか。異世界転生もののテンプレートの一つ。
……うっすらだけど、俺も同じパターンで転生させると、テンラ様に言われた事を思い出す。今思えばそれは、母親をトラウマとする俺に対しての、テンラ様なりの配慮だったのかもしれない。
「せやから、髪も染めて名も変えれば、違う生き方を出来るはずなんよ? それでも16歳くらいになる頃には、"生まれ変わった聖女様だ"って見つかるばかり」
「――それは」
「否定もできひんのよ、だってどう隠れて生きても、【奇跡】スキルは目立ってまう、隠れようが変装しようが名を偽ろうが、……うちはスキルを、【奇跡】を誰かのために使ってしまう」
……そっか、それが聖女様の、
"セイントセイカの生まれ変わり"の
そうなれば、いくら否定しても、生まれ変わりだと崇められ、聖国の女王に据えられる。
まるで呪いのように。
「結局、
……セイカ様の言葉に、俺は押し黙る。
何度生まれ変わっても、素性を偽ろうとしても、自分にしかなれない。隠れて生きようとしても、【奇跡】を行使すれば見つけられて、聖女様として崇められる。
――いやでも
「セイカ様のスキルを使えば」
【奇跡】を起こせば、そういう問題も解決出来るんじゃ?
そう言ったけど、セイカ様は、
「言わへんかったっけ? うちの【奇跡】スキルは、誰かの為限定で、自分の為には使えへんよってに」
――そういえば
セイカ様は【奇跡】スキルを、俺の為にしか使っていない。自分じゃなくて、誰かの願いの為にしか、奇跡を行使できない。
「だから無理なんよ、うちは誰にもなれへん、冒険者も、音楽家も、パン屋さんも」
セイカ様は、そして、言った。
「学園の生徒にも、なれへんしね」
――彼女が今日、学園の敷地へ身を投げた理由を
……この言葉から、知ってしまった気がして、だけど、それを指摘する勇気は無くて、だから、
「……その、聖女様が転生者って事は、本当に皆は知らないんですか? 生まれ変わりとして、見つかってしまうのに?」
俺は話題を反らすように、その矛盾について問いただせば、
「"信じられている"のと、"知られている"んは違うんよ」
そう、また笑顔を浮かべた。
「聖女様の生まれ変わりって言われ続けとるけど、うちの口からハッキリと言うのは、アル君がはじめて」
つまり、セイカ様が生まれ変わり続けているというのは、あくまでそう信じられているだけ。
事実だけど、それを公式に認めていないって事か。
……どちらにしろそんな真実は、俺みたいな学園の生徒に、易々と明かすような事じゃないはずだ、
「――なんで」
だからその事を、思い切って聞こうとしたら、
まるで俺の心を見通すかのように、
「友達になりたいから」
と、言った。
「聖女様と、俺が、友達?」
「そう、友達の間には、秘密はあったらあかんやろ」
――それは
予想もしなかった言葉に、俺は戸惑ってしまう。そんな俺に、
「あかんかなぁ? ……エンリ君は、壁を超える事が大切って、言ってくれはったけど」
「……」
その言葉に――俺は思い出す。
何もなかった俺に、手を差し伸べてくれたメディの事、
俺を守る為に、ずっと一人でがんばっていたフィアの事、
その他、スメルフや、ソーディアンナ、その他沢山のクラスメイト達、
――壁は壊すものでなく乗り越える物
……そっか、
あの言葉の真意は。
俺は、ゆっくりと口を開く。
「俺はただの学園生徒で、セイカ様は聖女様、その身分の差は果てしないものです」
「……せやね」
「――だけど」
寂しそうに顔を反らしそうになったセイカ様に、
「だからこそ、立場を超えて友達になる事が、大切なんだと思います」
そう言った。
違う立場、違う生き方、違う考え方、
その違いを捨てずに、誰かと繋がるという事が、
きっと、強いという事だから。
「……ほんま?」
俺に顔を向けるセイカ様、俺はここで少し黙って、それでも、勇気を出して思い切って、
「よろしくお願いします、セイカ様」
友達になる為に、
手を伸ばす、握手を求める、
――メディが俺にしてくれたように
セイカ様は、一瞬、止まった後、だけどすぐに笑顔を浮かべて、
「これからよろしゅう」
そう言って俺に手を伸ばした、その時、
モンギャー! という、
「わっ!?」
「えっ!?」
あの怪鳥の鳴き声が聞こえる――握手も忘れて俺達は音のした方を向けば、
「あ、モ、モンギャー鳥ですね」
ばっさばっさと翼の音を、親子月の夜空に響かせる快調が、遺跡のてっぺんにある巣へと戻ってる様子で、
「……あれ?」
あの鳥、何かを足で捕まえているような、
それによく目を凝らした瞬間、その鳥の足にぶらさがっている物が
――突如、黄金色に輝きだした
「うわっ!?」
「ひゃっ!?」
思わず目を半分瞑る程の強烈な光! その発光に、怪鳥もモンギャー!? と言って、足で掴んでいた物を落とす。俺とセイカ様は、手でひさしを作りながら光の方へ向けば、
「い、遺跡が輝いてる!?」
村の中央で静かに佇んでいた遺跡が、今はその全てが光り輝いてて、そして、
――その
「う、嘘、あれって」
「ゴッドフット先輩!?」
〔神探しのゴッドフット〕先輩が、遺跡の最上段で、
「ああ、あぁぁぁっ!」
……ゴッドフット先輩は、
「――浄化せねば」
泣いていた。
「女神の加護で、この穢れた地と、穢れた貴様を!」
俺への敵意を慟哭にして、
「今、助けます、聖女様ぁっ!」
自分の信仰を、燃やしていた。