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9-2 ひきこもりゆう

 ドワモフ族の里クリスタルケイプ、そこへ繋がる近道トンネルを、すっかり埋め尽くすよう繁殖した、緑色のミント岩、


「【ドリル】スキル――」


 目の前に塞がる障害を、


「〈メガドリルブレイク俺の腕が天元突破〉!」


 メイド姿のゴルリ君を、背負ったメイド姿の俺は、右手のドリルで粉砕していく!


「す、凄いもふ凄すぎもふ、けれど!」


 ドリルの推進力で爆進する俺に、ゴルリ君が問いかける。


「砕けたミント岩はどこへ消えてるもふか!? 普通、ドリルでの掘削作業は、掘り出した土を外に運び出す作業がセットのはずもふよ!」

「何を言ってるんだゴルリ君!」


 そこで俺は元気よく答えた。


「ドリルはそんな常識だって打ち砕く!」


 それに対して俺は、


(何言ってんだこいつ!)


 心の中でそうつっこむ、ゴルリ君は凄いもふ~! っておおはしゃぎだけど、どう考えてもツッコミところが多すぎる。

 ま、前から感じていたことだけど、【ヤセイ】とか【ヤンキー】とか【逆境裁判】とか、俺ってスキルに人格キャラが乗っ取られている時が良くあるような。


(これも、俺の心がからっぽだからかな)


 そんな風に、冷静な内側に対して、外面肉体はギュンギュンドリルを回していく。そして、掘り進んでいくうち、遂に、


「ッ! 光が見えた!」

「このを砕けば、ドワモフ族の里もふ~!」


 亀裂の向こうから差し込む光、それが、俺のドリルの回転に比例してどんどん大きくなっていき、そして、


「せぇいっ!」


 俺のかけ声と共に壁が砕けた瞬間、目の前に広がったのは、


「――うわっ」


 今まで、ドリルの回転摩擦による熱さと激しさを一瞬で忘れるくらいの、目映いばかりの光景だった。


「――これがクリスタルケイプ」


 青い水晶を基本とした洞窟であるのだけど、水晶自体が目映い光を放っている。天井への高さは随分と高く100メートルくらい、ところどころにその天と地を繋ぐように水晶の柱が支えのように立っていて、その柱には、ルビーやトパーズにエメラルド、……的な鉱石の塊が、まるで銀河のように散らばっていた。


「凄い……あ、あれは家?」

「そうもふ、水晶岩や鉱石岩をくりぬいて作った、ドワモフ族の伝統的なハウスもふ」


 そう言いながら俺の背中からひょいっと降りたゴルリ君は、俺の目の前に移動し、ぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございましたもふお兄さん、……その、アシモチャンをいじめた人って、怖がってごめんなさいもふ」

「い、いやいいよ、それにゴルリ君のおかげでここまでこれたんだし」

「ありがとうございますもふ。……ところで、一つお願いがあるもふが」

「え、何?」


 そこでゴルリ君は、目を輝かせて、


「お兄さんのそのドリル、見せてほしいもふ!」

「え?」


 っと、あっけに取られている俺が、了承もしない内に、


「チェックもふ~!」

「うわちょっと、危ないよ!?」


 ドリルと化した俺の右手に、目をキラーンと輝かせて、顔を寄せて肉球ハンドでさわり始めた。


「な、なにもふかこれ、やっぱり、ボクの知っているドリルとは構造的に違うもふ!」

「ああうん、なんというか、前世のイメージで出来たスキルだから、ズレがあるかも」

「なんだろう、魔力やスキルとは違う、そう、ロマン漢の的なエネルギーを感じるもふ! お兄さん、このドリル、解体していいもふか!?」

「……え?」


 やたらテンション爆上がりなゴルリ君は、突然、


「【改造】スキル――」


 って、言い出して、え?


「〈サーチアンドデモリッショバラバラにしてやろうかン〉!」


 ええええ!? 何も無い空間から、ごっつめのドライバーやハンマーみたいな、工具が出てきた!?


「え、ちょっと、ゴルリ君、スキルが使えるの!?」


 基本、基礎能力が人間より優れている種族系の人達は、エルフを除いて、スキルは授からない、授かってもスメルフみたいにEランクのはず――俺がちょっと戸惑ってると、


「Dランクの工具を取り出すだけのスキルもふが、便利もふ!」


 そ、そうなんだ、カバンさんの収納スキルの限定版みたいな感じか、いや、十分凄いけど。


「それじゃ早速、弄るもふ~!」

「い、いやいや、このドリル、スキルで変化してるけど俺の腕だから! まずいって!」

「大丈夫もふ、仕組みが解ったらパワーアップさせてあげるもふ! なんかいい香りを出せるようにしてあげるもふ!」

「どう考えても無駄機能だよそれぇ!?」


 って、俺の腕がピンチになったその瞬間、

 ――ドリルが急にキラキラと光って


「あ、戻った」

「もふ!?」


 そのまま消える――結果的にゴルリ君は、俺の腕にぶらんと垂れ下がるだけに。暫くぶらぶらしていたけど、慌てて手を離して、


「ご、ごめんなさいもふ、テンションあがりすぎちゃったもふ」

「い、いや大丈夫だよ」


 しょんぼりするゴルリ君の頭を俺は気づいたら引力なでなでしていた。しょんぼり顔がにぱぁって顔になるのをみて、心がきゅんとする。

 ……そうしながら、スキル欄を確認すると、


 【ル○○】


 【メイド】→【ドリル】→と続いたから次はルから、うん、想定内の変化。……ちょっと気になることとしては、【メイド】スキルは消えてるはずなのに、俺がメイド黒髪ロング姿なことだけど。


(でも実際、メイド姿じゃないと大会に参加出来ないし、その為にスキルが都合良く働いてくれたってことなのかな)


 そう思いながら俺はあたりを見回した、時、


「――そういえば」


 ちょっと、気になった違和感、


「これだけ広くて沢山の建物があるけど、外に出ているドワモフ族はいないね?」


 今が夜でない限り、それは奇妙なことである。

 だけど、事前に得た情報として、


「ゴルリ君のパパが引きこもりになった影響で、ドワモフ族全体もみんな引きこもりになったって聞いたけど」


 まず前提として、ワクモフサンはスライムに乗っ取られている。

 そこまではいいけど、乗っ取られた本人だけじゃなくて、それが集落全体に影響が出た理由はなんなんだろう、と。

 普通に考えれば、ワクモフサンのスキルか何かの暴走、……もう一つは、分裂自在のスライムが、ちょっとずつドワモフ族の心の隙間に入り込んだ、とか。

 その疑問に応えるようにゴルリ君は、


「――直接見てもらった方が早いもふ」


 そう言って、沢山ある住居の中で、四角いブロックを積み上げて出豆腐建築来た建物まで移動したゴルリ君は、その扉を開く。

 俺はその中を覗き込んで、


「なっ」


 ――絶句した


「……このおうちはもともと、ドワモフ族でも有名な、からくり加工の職人さん達のお店だったもふ、だけど今は皆」


 そう、メイド姿ではない、ポケットいっぱいで腰に工具やらなんやらを下げた作業服に身を包んだドワモフ族は、三人並んで、扉を開けた俺達の方を向かず、

 夢中になって、


「あぁぁぁぁ!? そこで雷、ズルいもふ~!」

「やっぱり金マッシュルームが最強もふ~!」

アイテムIノーNショートSカットCモフM!」


 テ、テレビゲームの配管工カートワールドをしてるぅ!?


「え、え、なんで!?」


 俺は慌てて様子を凝視――鉱石の塊みたいなのが、16:9サイズで切り出されていて、レースゲームの画面を映し出してて、それに繋がれているのは、形がゴツゴツしているけど、前世で見た携帯モードへも切り替え出来るもの、

 つまり、ゲーム機にそっくりだった。


「パパがこの前完成させた水晶液晶テレビと、それに繋いで遊ぶワンダーゲーム機、これが里全部に出回って、ご覧の通り、働き者のドワモフ族が、すっかりこのワンダーの虜ゲーム中毒になってしまったもふ!」


 ま、まさか里全員の引きこもりの原因が、そんな理由だったなんて……。


「アクセル全開! ハンドルんを右に! モフウウウウウ!」


 楽しげというには、余りに切羽詰まった様子で遊ぶドワモフ族の背中に、ちょっと恐ろしさを感じていた、

 ――その時


「やめよ、貴様、従者にも関わらず俺に逆らうのか!」

ワンダーゲームの前では誰もが平等、そうおっしゃられたのは貴方様です」


 ……部屋の隅から、聞いたことがある声が聞こえたので、そっちを振り向けば、

 ――携帯モードでゲームをプレイしている


エルフリダ様女性メイドverとカバンさん!?」


 二人がいたので声をあげたけど、


「俺様がぁ! 画面端ぃ!」

「――バースト読みましてそれは入らないので私が近づいて」

「俺様が負けたぁぁーっ!」


 王様もそのメイドも、俺のことそっちのけで、手元の画面水晶液晶に集中しているのだった。

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