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第九話 けももふテンカイチメイドカイ!

9-1 けものでメイドでもふもふで

 ――週の初めは帝国学園の授業日

 なのだけど、俺こと〔何も無しのアルテナッシ〕は学園に申請して、ドワモフ族達が住まう集落、クリスタルケイブへ向かうことの許可を得ていた。

 大陸北部、冬ともなると雪に包まれるけれど、今は涼しい風が、高原いっぱいを吹き渡る場所に、ドラゴンバスで降り立った俺は、そこから歩いて2時間の道のりを、目的地目指して歩いて、いる、訳、だけど、


「ねぇねぇお母さん、なんであのお兄ちゃんメイドなの?」

「いいじゃない、人それぞれよ」

「けどなんか恥ずかしがってるよ~、罰ゲームとかじゃないの?」

「いいじゃない、恥じらいこそがエッセンスよ」


 ……【メイド】スキルでメイド黒髪ロング姿クラシカルになった俺は、メイド姿のまま、顔を赤くして歩いている訳で。

 ――【○○○】に俺はメイドという言葉を埋めた

 それは、今、スライムに乗っ取られたという、ドワモフ族のリーダーであるワクモフサンが主催する、天下一メイド会に参加する為である。

 なおかつ、今の俺のスキル欄は、【ド○○】になっていた。メイドのドからはじまる言葉、つまりしりとり、そう、

 これはレベルアップの試験であると同時に、俺のメイドである、メディを拐かしていった、

 ――尻王エルフリダ様の尻を取る為の力である

 ……うん、1から整理してみたけど、何を言ってるのか自分でもわかんない、というかわかりたくない。


(と、ともかく、早くドワモフ族の里に行かないと)


 クリスタルケイブの入り口は、ここからも見えるのあのおっきな山にある洞窟らしいけど……、まだまだかかりそうだなぁ、

 とか、思っていると、


「困ったもふ~、帰れないもふ~」

「ん?」


 なんかかわいらしい声がする――そう思って視線を移動すると、そこには、


「うわっ」


 お、おっきなワゴン車サイズ緑色の水晶で出来た岩と、その前で、


「このままじゃ、天下一メイド大会に遅れちゃうもふ~」


 ……そんなことを言っている、俺と同じメイド姿、だけど、

 背丈は俺の半分85cmくらい、もふもふの猫と熊の合いの子のような顔をして、耳はでっかく目もおっきい、ふわふわしっぽをスカートからはみださせた、白い毛並みがもっふりふわふわな――マスコットみたいにかわいらしい獣人が、めそめそと水晶の前で泣いていた。


(――ドワモフ族だ)


 授業で習って見たとおりの姿、だけど、実物はその域を超えて、


(か、かわいい)


 ギャンかわだ。あまりこういうのなんかちいさくてかわいいやつは琴線に触れない、と思っていた俺も、キュートさという暴力に思いっきり殴られる。正直、わたわた困っている様子をそのまま眺めてキュートアグレッションしまいそうになったけど、


(いやだめだめだめ)


 困っているんだから助けないと、そう思い、俺は声をかける。


「あの、どうしたの?」

「もふっ!?」


 俺が呼びかけるとドワモフ族のその子は、全身の毛と尻尾を逆立ててこっちへ振り返った。


「わわわ、人間さんもふ!?」

「ご、ごめん、驚かすつもりは無かったんだけど」

「い、いえいえ、こちらこそもふ!」


 なんだかお互いぺこぺこと頭を下げ合ったあと、ドワモフのその男の子? が、


「人間さん、メイド服姿ということは――」

「あ、うん、大会に出るつもりで」

「そ、そうモフか」

「えっと、君はどうしたの? 何か、困っているようだけど」

「……近道が塞がれて、帰れなくなったもふ」

「――近道が?」

「そうもふ、ボクの通ってきたこの秘密の地下トンネルが!」


 そこでドワモフ族の男は、肉球のある手で緑色の水晶をバシンっと叩いて、


「このミント岩で塞がれてしまったもふ~!」

「ミント岩!?」


 え、ミ、ミントって、あのミント?


「ええと、ミントってあの爽やか系のハーブだけど、庭に植えるとあっというまに繁殖しちゃって、雑草みたいになるあれ?」

「そうもふ、ミント岩はそのミントの岩バージョン、おかげでトンネルにも生えてきたもふ!」

「岩が生えてくる!?」

「そうもふ! クリスタルケイブの鉱石は、全部植物みたいににょきにょき生えてくるもふ!」


 こ、鉱物が草花みたいに。……久しぶりに異世界っぽさを感じる展開。


「うう、昨日のお昼に出た時は、こんなんじゃなかったのに、誰かが嫌がらせでミント岩を蒔いたでもふか~」


 見た目綺麗なクリスタルなのに、これがそんな迷惑な代物だったとは。


「えっとでも、近道は使えないのは残念だけど、普通の入り口を使えば」

「――危険もふ、人間さん」

「え、危険?」

「ボク達ドワモフ族の里、クリスタルケイブの正規の入り口は」


 そこで目を細めたドワモフ族の男の子は、


「森王エルフリダ様が! 勝手に! "勝ち抜けメイドバトルロワイヤル"を開いてて、実質進入不可もふ!」

「何をしてんのあの暴君!?」

「まぁ一応、パパの出した賞金+契約金は1億エンだから、参加希望者が集まりすぎてて、それを減らす必要はあったもふけど」

「あ、一応そこらへんは名君ムーヴなんだ……」


 ほ、本当にあのエルフだけは、評価に困る。ちゃんとしてるといえばそうだけど、メディをさらうなんて許せないこともするし、

 ……あれ、待てよ?


「パパ?」


 確かに、このドワモフ族の男の子はそう言った。俺がそのことを疑問にすれば、


「……申し遅れましたもふ、ボクはドワモフ族のリーダー〔文化は遊びのワクモフサン〕の息子」


 子供なのに、とても丁寧に、


「〔真問い詰めし何これ?ゴルリクン〕もふ、よろしくもふ」


 そう、自己紹介をしてくれた。

 この子が――ドワモフ族の長の息子、まさか問題の元凶の血縁者に、あっさり出会うなんて。

 いやいや、感心してないで、こっちも自己紹介しなくちゃ。


「えっと、俺は〔何も無しのアルテナッシ〕です、よろしく」

「〔何も無しのアルテナッシ〕!?」

「え、わっ、どうしたの!?」


 俺の名前を聞いて、なんか凄いビックリしてるけど、


「そ、それじゃお兄さんが、アシモチャンをいじめたお兄さんもふか!?」

「い、いじめた!?」


 不意打ちで突然に、入学試験の時立ち塞がった、ロボットの女の子の名前が出てきて俺は慌てる。


「い、いじめてないよ! ていうか、アシモチャンを知ってるの!?」

「ア、アシモチャンは、友達もふ、昨日もボクにこのメイド服を持ってきてくれたもふ」

「そ、そうなんだ」

「昨夜はそのままお宿で発明談義もしてたもふが、その時、お兄さんの名前も出てたもふ!」


 確かにアシモチャンは技術者な訳だし、職人気質のドワモフ族の人達と交流があってもおかしくはないけど。

 ともかく、誤解をといてないと、


「俺はアシモチャンをいじめてないよ、入学試験の時に、戦っただけだよ」

「ほ、本当もふか~?」


 う、なんか疑いの目で見られている。……と、とりあえず話題を変えないと!


「えっと、ゴルリ君も、メイド大会に参加するの?」

「……そうもふ」


 そこでゴルリ君は、視線を落として、


「大会に優勝しないと、パパにも直接会えないもふ」

「――会えない」


 ……スライムに乗っ取られたドワモフ族の長ワクモフサンは、引きこもりになってしまったと聞いたけど。

 まさか、実の息子とも、会ってないなんて。

 どう言葉をかければいいか、言葉に詰まっていると、


「……お兄さんは、何が目的もふか?」


 ゴルリ君の方から聞いてきて、


「1億エンの賞金のため?」


 ……俺は、


「……メディっていう、友達を救う為、それと」


 ――そして


「君のお父さんを、スライムから救う為」


 そう、言った。


「え? ……パ、パパを?」


 戸惑い、信じられない様子のゴルリ君、……それはそうだろう、俺にそんな力があるなんて、信じられないと思う。

 だけど、スライムを無力なアイテム化に出来るのは俺だけだって、テンラ様は言っていた。

 だからこれは、俺の仕事宿命

 ……そのことをしっかり決意しなおして、俺は、


「ゴルリ君、俺の後ろに行ってくれる?」

「え? ……わ、わかったもふ」


 ゴルリ君はとてとてと、俺の背後へ移動する。そのタイミングで、俺はステータス欄のスキルメニューを展開する。


 【ド○○】


 近道である、坑道トンネルを塞いでるというミント岩、

 それを砕く、ドから始まるスキルは、たった一つ、

 俺はそれを、

 高らかに叫ぶ――


「【ドリル】スキル!」

「え、え、えええええもふううう!?」


 俺の言葉に呼応して、右腕そのものが、螺旋をぎゅんぎゅん描く金色のドリルへ変化する! 俺はそれを思いっきり、緑の水晶へ突き立てる!

 ――掘削音と衝撃の中で


「〈ドリドリルインパクトド級のドリルドリドリルだ!〉」


 目の前の水晶は砕け散り、

 俺とゴルリ君の目の前に、入り口が現れた!


 【ドリル】スキル Sランク

 スキル解説[突き抜けたなら俺の勝ち!]


「す、すごいもふ~!?」


 でかい水晶が木っ端みじん、目の前に起きたことにテンションマックスのゴルリ君に、俺は呼びかける。


「ゴルリ君、俺の背に乗って!」

「は、はいもふ!」


 呼びかけにぴょんと俺に飛びつくゴルリ君――そのぬくもりに、メディとの〈オールレンジテレグラ以心電信フ〉を思い出しながら、


(待っててくれ、メディ!)


 トンネル内を埋め尽くすほどに繁殖したミント岩を、


(エルフリダ様から君を、取り戻すから!)


 ドリルで掘り進めながら、心の中で決意を新たにした。

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