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第20話 ソラの守護聖霊は……

 ソラ達は花壇に到着し、その中に咲く新しい花……つまりソラの聖霊花の儀によって咲いた花へと視線を向ける。


「お、これって」


 ソラの聖霊花の花弁の色は白、つまり――


「レイウィングの守護聖霊は光ということだな」


 カナフの言葉に、ソラは口角を少しだけ上げながら返す。


「光、当たりですねこれは」


 そして、したり顔でそう呟くソラを見て、カナフは腕組をしながら対照的に重苦しい表情をしてみせた。


「え、なにカナフさん。何でそんな神妙な面持ち? 光って何となく特別感ないですか?」


「確かに光の守護聖霊を持つ騎士はそこそこレアではある」


「ですよね?」


「だが、光属性は他の属性に比べて特別に優れているかというとそんな事はない」


「え、そうなんですか?」


 思惑が外れ、憮然としながら尋ねるソラに、カナフは更に追い打ちをかけた。


「それどころか他の属性に比べ不利な部分がある」


 引きつった表情で「……えっ」と声を漏らすソラに、淡々と続けるカナフ。


「八大聖霊の属性に関する優劣の関係は既に説明したな?」


「はあ、光属性……とついでに雷属性は雲と風に弱くて、闇と水に強いんですよね?」


「そうだ、そして八大聖霊の中で一番特殊なのが闇属性、それこそが問題なんだ」


「と言うと?」


 不安げに聞き返すソラに対しカナフが丁寧に説く。闇属性の聖霊石というのは普通に存在するし、ソードの騎体や聖霊騎装にも使われている。しかし、八大聖霊の中で唯一、闇属性を守護聖霊に持つ人間は未だかつて存在しないのだ。という事は当然闇属性のソードも造る意味が無いから存在しないということになる。


 つまり、雷属性と光属性以外の属性を守護聖霊に持つ騎士はそれぞれ二種類の属性に対して優位を取れるのに対し、雷属性と光属性の騎士が優位を取れる属性は水属性の一種類だけなのである。


 ここでようやくカナフの言う事を理解したのか、ソラの表情が曇り始める。


「更にだ」


「ちょっとまだ何かあるんですか? もう聞きたくないんですけど」


うんざりと言った様子でソラがぼやくも、カナフは構わず更に続けた。


「雷とは違い、ソードの騎体の核に使える程純度の高い光の聖霊石はかなりレアでな、光の属性を持つソード自体が数少ない。光属性の量産剣は造られていないし、せいぜい騎士団長用の宝剣がいくつかあるくらいだ」


「何それ、めっちゃ外れじゃないですか光属性! はあ、確かに俺って昔からくじ運無いんだよなあ」


「守護聖霊をくじ扱いするとは何て罰当りな」


 頭を抱えて悲壮感一杯に文句を漏らすソラに、エイラリィは冷たく呟くのだった。


「何やら面白いことをやってるな」


 すると突然聞こえてきた背後からの声に、四人が振り返るとそこには、年端も行かない一人の少女の姿があった。


 見た目の歳の頃は十代前半程、銀色の髪と先端が尖った耳という群島イェスディランの民の特徴を持つ小柄な少女であった。


 その銀色の髪をショートカットにした少女の頭には、三角の耳にくるりと巻かれた尻尾、やや吊り上ったつぶらな瞳と短めの茶色い体毛が特徴の一頭の子犬がしがみついている。


「おかえり、シーベット」


「お疲れ様でしたシーベット」


「依頼は取って来れたのか?」


 知り合いなのだろう、プルーム、エイラリィ、カナフがシーベットと呼ばれる少女の元に歩み寄る。


「当然だ、シーベットを誰だと思っているのか?」


「誰このお子様は?」


 胸を張ってドヤ顔をするシーベットという名の幼い少女を見て、ソラは思わず呟いた。瞬間、ソラの視界から突然シーベットが消え、頭部に重量を感じる。


「この! シーベットがお子様だと、お前こそ誰だ?」


 気が付くと、シーベットはソラの背後から頭部に力一杯しがみ付き、締め付ける。


 ――この子いつの間に? ってか……


「いてててて、苦しいし痛い、早く降りろって」


「お前さては新入りだな?」


「そ、そうだよ、俺は一週間前に仮入団させてもらったんだよ!」


「シーベットの許可なく何勝手に入団している?」


「な、何でお前の許可が必要なんだよ、ってか誰だよお前は」


「シーベットは密偵騎士兼依頼請負人、この騎士団の歴とした一員だ」


 その言葉に、ソラは驚いたように目を見開いた。


「お、お前が密偵騎士の? こんなお子様が?」


「またお子様とか言ったな、もう許さん」


 ソラの子共扱いに腹を立てたようで、シーベットはソラの後頭部へと噛み付いた。


「あいてて、ちょっとプルームちゃん、エイラリィちゃん、カナフさん、見てないで何とかしてくれよ」


 そんな二人のやり取りを見ながら、プルームは微笑ましそうに、エイラリィは呆れたように、カナフは無表情で、三者三様にソラの懇願を無視するのだった。


「ふっ、もう許してやるがいいシーベットよ」


 直後、渋い声でシーベットを諫める言葉がソラに聞こえたと同時、頭部が軽くなり痛みが無くなった。シーベットがしがみ付きと噛み付きを解いたからだ。


 攻撃を中断し、再びソラの前に立つシーベット。


「シバさんのおかげで命拾いしたな新入り」


「シバさん?」


 同時に、シーベットの頭にしがみついていた茶色い子犬が地に降り立った。


「はじめましてだな若き騎士よ」


 そして渋い声と流暢な口調で挨拶をする。


「しゃ、喋った! 犬が!」


「私の名はシバ、シーベットの見守り役を務めている者だ」


「い、いやそんな事より何で喋ってるんだよ子犬が?」


 シバと名乗る犬が喋っている事に対しソラは驚愕した。


「そんな可愛い子犬を見つめるような目で見るな、私はこんなに愛くるしい見た目をしているが可愛い子犬では無く、風の低位聖霊獣だ」


「この子犬が風の低位聖霊獣? つーか聖霊獣を使役している人間なんて初めて見たけど」


 ソラが驚くのも無理はない。漂う聖霊の意思が具現化し、属性の力を行使する獣となったものが聖霊獣で、聖霊獣とはそもそも神格的な存在であり、その存在自体も稀有である。ましてや、聖霊獣を連れている人間などソラは見た事も聞いた事も無かったからだ。


 目を丸くして、シバとシーベットを交互に見つめるソラ。


「失礼だぞ新入り、シバさんはシーベットに使役されている訳じゃない、シバさんとシーベットは家族みたいなものなんだ」


「ふむ、私はシーベットが赤ん坊の頃からシーベットを見守っているからな」


「へーすごいなシバさんは、風の聖霊獣だもんな、こんな見た目でも凄い力を秘めているんだろうな。で、シバさんはどんな事が出来るんだ?」


 シバを見つめるソラのどこか懐疑的な眼差しに、シバはしたり顔で尻尾を高速で振り始めた。すると、ソラの顔にそよ風が吹く。


「これが私の能力だ」


「は?」


「涼しいだろ新入り、暑い日はシバさんがとても重宝する」


「え、これだけ?」


「うむ、あとは私のお腹を撫でるととても癒される」


「いやそれ能力じゃないし、いや能力かもしれないけども! やっぱり喋るだけの子犬じゃない?」


 そのソラの一言にショックを受けたように口をぽっかりと開け、シバは尻尾を垂れ下げる。それを見たシーベットが、再びソラに飛び掛かる。


「お前、シバさんになんて失礼な事言うんだ。謝れ、シバさんに謝れ!」


「いたたた、わかったって! ごめんなさいシバさん」


「随分と騒がしいのう、何をやっておるのじゃ?」


 すると騒ぎを聞き、ソラ達の元へとやって来るヨクハ。直後ヨクハは、シーベットとシバの姿に気付き歩み寄る。


「シーベット、シバさん、戻ったのか?」


「だんちょー」


 シーベットもヨクハの姿に気付き、ヨクハの元へと駆け寄り飛びついた。シバもヨクハの足元にすり寄り、くるりと巻かれた尾を振り続ける。


「今回も苦労をかけたな、依頼は取って来れたのか?」


「勿論だよだんちょー」


「私が付いているのだ、心配はいらん」


 ヨクハに抱き着き、頭を撫でられながら幸せそうにするその姿は姉や母親に甘える小さな子供と、飼い主に甘える子犬の姿そのものである。


 そしてシーベットはヨクハに、自身が取って来た依頼内容の報告をする。


「今回はレファノス王国の領空内で発見された孤島の調査任務、同じくレファノス王国空域内のとある島での聖霊石発掘現場護衛任務。報酬はどっちも金貨三枚だ」


 シーベットは三本の指を立て、どや顔で元気良く言った。





 その後、騎士聖堂に団員達が集合し、ソラとシーベットが改めて顔を合わせた。


「俺はソラ=レイウィング。守護聖霊はさっき分かったけど光、騎種は不本意ながら白刃騎士。よろしくシーベットちゃん」


「誰がシーベットちゃんだ新入り。シーベットのことはシーベット先輩と呼びたまえ」


「こらシーベット、一々突っかかるな、話が進まんじゃろ」


 ヨクハに窘められ、シーベットは渋々名乗りを始める。


「シーベット=ニヤラ。守護聖霊は風、騎種は白刃騎士だ」


 ヨクハが捕捉する。シーベットは普段レファノス王国やメルグレイン王国の傭兵ギルドで依頼を受け、報酬の交渉なども行っており、この小さな騎士団が活動する為の要のような存在なのだと。


 その言葉に、シーベットは腰に手を当てて後ろに反り返った。そしてそれだけではなく、時にはエリギウス帝国に潜入し、エリギウス帝国の戦力の把握や情勢の把握等も行っているとヨクハが加えると、更に後ろに反り返るシーベット。しかし対象的に、ソラは釈然としない様子で思わず問う。


「えっ、そんな危険な事やらしてるのか? こんな子供に?」


 シーベットが行っているという敵国への潜入任務、その危険さに懸念を示すソラに対しシーベットがすかさず割って入る。


「違う、シーベットが自ら志願したんだ。団長達は止めたけど、密偵騎士としてはシーベットみたいな子供の方が怪しまれないし都合がいいからな」


「おぉ、本当に立派だなシーベットちゃん……いや今度からシーベット先輩と呼ばせてもらおう」


「な、中々素直な奴だ。よし仕方ないから仲良くしてやってもいいぞ新入り」


 ソラの突然の敬意の眼差しに、シーベットは照れ臭そうに腕を組んでそっぽを向きながら言った。


「そういえばソラ、お主守護聖霊が光と判明したそうじゃな」


 すると、聖霊花の儀の結果をカナフから聞いていたヨクハがソラに振る。


「そうなんだよ団長、でも光ってなんかイマイチな属性みたいじゃん」


「いや、お主にとってはそうとも言えんぞ」


「そうなの?」


 自身の属性に対し懐疑的な様子のソラにヨクハが説く。騎士がソードを操刃する時、その守護聖霊の種類によってソードに補正が入る。例えば土属性の騎士ならば防御力が上昇し、雲属性の騎士ならば飛翔力が上昇すると言った具合である。そして光属性の騎士は刃力剣クスィフ・ブレイドの強度が上昇する。


「……うーん何か地味」


「地味ではない。お主のような斬撃以外何の取り柄も無い騎士ならば、刃力剣の強度の上昇は白兵戦において大きな頼りとなる」


「何か奥歯に物が引っ掛かるような言い方するな。でもまあ、団長がそう言うなら前向きに考えるようにするかな」


 何はともあれまずは、この先一ヶ月の予定が決まった。ソラは引き続きカナフと共に座学と、プルームとエイラリィと共に反射能力向上訓練の続き。シーベットが取ってきた任務はデゼルがこなし、そしてシーベットは一週間程休息を取らせた後、今度は重要な任務を任せるとの事だった。 

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