「よし、全騎戦闘態勢!」
そしてソラ達に指示を出すと、ヨクハ達は自身のソードに搭乗し、エリーヴ島から飛び立ち、島を背にして空中で敵騎を待つ。
『ヨクハ団長、敵騎多数接近中。数はおよそ五十騎よ』
本拠地のパルナからの伝声に、ヨクハは前方に視線を向けると親指程の大きさとなったソードの軍勢が押し寄せてきているのが見て取れた。しかし――
「五十騎。一個師団にしては少なすぎるのう、パルナこの軍勢の中に騎士師団長と思わしき者はおるか?」
『ううん、こっちの探知器の情報では五十騎全騎が銀色の騎装衣、つまり銀衣騎士よ』
――本隊ではないという事か……様子見? それともこの程度の戦力で攻略出来ると踏んだ? ……いずれにせよ――
「どいつもこいつも舐めてくれるのう」
言いながら、ヨクハは不敵に笑みを浮かべた。
「ニコラ殿」
『はい?』
「今回の敵の軍勢は〈
『確かに師団長と思わしき騎士が操刃するソードが見当たりませんね』
「この程度の戦力であればわしらだけで問題は無い、〈因果の鮮血〉の戦力は本隊に備えて温存する」
『なっ、しかし!』
突然のヨクハの提案に、驚きの声を上げるニコラ。それも当然、ヨクハ達騎士団はソードが七騎、対し敵部隊はソードが五十騎。単純な数の差は約七倍であるからだ。
『え、ちょっと団長、何勝手な事言ってくれてんだ? 俺達だけって七騎で五十騎のソード相手にする気か? しかも俺と団長なんて蒼衣騎士で大して役に立たないんだから実質戦力差十倍だぞ』
ニコラが反応すると同時、ソラもまた反応し、抗議を始める。
「一々お主とわしを一緒くたにするな。大体わしは陣頭指揮に当たるからちゃんと役に立つ」
『ほら、戦う気ないだろあんた』
「相も変わらずやかましい男じゃのう。とにかくニコラ殿、今回はわしらが引き受けた、お主達はエリーヴ島の本拠地の守護にあたれ」
『そこまで言うのなら……分かりました、ご武運を』
ニコラはヨクハの提言を受け入れると、部隊のソードを引き連れエリーヴ島へと引き返して行った。
『えーニコラさん、素直にわかっちゃ駄目だって。多分うちの団長が見栄張って格好付けてるだけなんだって』
ソラがニコラにそうぼやいた頃、敵の軍勢は既に目前まで迫って来ていた。
敵のソードは全てタルワール。カナフが操刃するソードと同騎体で、ディナイン群島における主力量産剣である。
すると、ヨクハは敵部隊に対し伝声を送る。
「エリギウス帝国直属第九騎士師団〈
ヨクハの問いに、タルワールを操刃する〈
『紋章を持たぬ騎士団か……どこぞの傭兵騎士か反乱軍かは知らんが、先に手を出してきたのはそちら側、批難される言われはない』
すると、アールシュが操刃するタルワールの後方に浮遊する、別のタルワールが
「デゼル!」
ヨクハが叫んだ瞬間、デゼルとデゼルのベリサルダの額に剣の紋章が浮かび上がり、ソラのカレトヴルッフの前に半透明の光輝く盾が出現。直後、タルワールの
『ちっ、
それは任意の場所に、刃力及び実体、あらゆる攻撃を防ぐ光の盾を出現させるデゼルの
アールシュは、不意を狙った一撃が防がれたことに歯噛みした。
対し突如狙われたソラは、冷汗をかきながら、口を大きく開けていた。
「いきなりびっくりした……今のデゼルが守ってくれたのか?」
『うん、大丈夫だったソラ?』
「ああ、この恩は忘れるまで忘れないからな」
『はは、いいよいいよ、すぐ忘れても』
謝意を示すソラへデゼルが配慮したように返すと、ヨクハからの対象的な伝声が入る。
『しっかりせいソラ、何を呆けておった。ここは戦場じゃぞ、一瞬たりとも気を抜くな』
ヨクハが伝声器越しにソラを叱咤した次の瞬間、〈
『全騎突撃!』
アールシュの声に、タルワールが一斉に向かって来た。
それを見たヨクハは、不敵な笑みを浮かべ、
「全騎、迎え撃つぞ」
その勇ましい号令と同時、ヨクハ達が背にするエリーヴ島から二つの光矢が放たれ、雷を纏った高速のそれは、一瞬にして二騎のタルワールの腹部を貫いた。
直後、動力炉を貫かれた二騎のタルワールは空中で爆散する。
そして雷を纏ったその光矢は、エリーヴ島の森の中に単独身を隠し、合図を待ちながら敵騎に照準を合わせていたカナフのタルワールの狙撃によるものだった。
『エリーヴ島に狙撃騎士が潜んでいる、全騎に告ぐ、
カナフの精確な狙撃に脅威を感じたアールシュが、歯噛みしながらそう指示した直後、〈
攻撃を防ぐ事が出来る結界は二種類。
すると、〈
「
『了解!』
ヨクハの指示を受け各々が散開し、持ち場に付く。すると、指示を受けていないソラが立ち尽くす。
『あの、団長、俺はどうすれば……』
「ソラ、お主はとりあえず死なないように頑張れ」
『何か俺だけ適当じゃない!?」