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第25話 紫電一閃

 エリーヴ島に向かって来る二十騎程のタルワール、そして迎え撃つカナフは敵騎のタルワールに狙撃式刃力弓クスィフ・スナイプアローの照準を合わせると、引き金を一つ、二つと引いていく。


 その度に稲妻を纏った光矢が、一つ二つと〈不壊ふえから〉のタルワールの頭部を精確に居抜き、指令伝達中枢を失い操作不能となった騎体が空の彼方へと消えて行った。


 カナフの持つ刃力弓クスィフ・ドライヴアローは狙撃騎士が愛用する狙撃型刃力弓クスィフ・スナイプアロー。光の聖霊の意思により攻撃を放つ刃力弓クスィフ・ドライヴアローに、雷の聖霊石を組み合わせ、貫通力と射程を強化した聖霊騎装である。





「舞え、思念操作式飛翔刃レイヴン


 プルームのカットラスの両肩部から羽の形状をした刃が射出され、空中を高速で舞いながら敵のソードを包囲する。しかし敵は銀衣騎士、その速度に適応せんと刃力弓クスィフ・ドライヴアローを構えた。


 するとプルームの額に剣の紋章が浮かび上がり、思念操作式飛翔刃レイヴンは更に高速に、更に複雑な軌道を描く。


『馬鹿な、何なんだこの思念操作式飛翔刃レイヴンの動きは!』


 〈不壊ふえから〉の騎士達が思念操作式飛翔刃レイヴンの軌道を目で追い切れなくなった次の瞬間、思念操作式飛翔刃レイヴンは〈不壊ふえから〉の三騎のタルワール、その四肢を次々と切り裂いた。そして……


『ぐああああっ』


 上空から舞い降りた思念操作式飛翔刃レイヴンが三騎のソードの腹部に突き刺さると、動力炉を貫かれたその三騎のソードは空中で爆散した。



 ※



「ちゃんと掴まっててねシバさん!」


「了解した」


 銀色の騎装衣を翻しながら、シーベットのスクラマサクスは戦場を駆ける。


『何だこいつは、攻撃が当たらない!』


 〈不壊ふえから〉の騎士が操刃するタルワールが、刃力弓クスィフ・ドライヴアローに爆裂の特性を持つ炎の聖霊石を組み合わせた聖霊騎装、炎装式刃力弓クスィフ・フレイムアローにより炎を纏った光矢を無数に放ち、別のタルワール数騎がスクラマサクスに斬り掛かる。


  だが、シーベットは涼しい表情のまま、スクラマサクスを旋回、回転、急上昇、急下降を駆使し全て躱す。


『何てすばしっこい奴だ!』


 その俊敏さでシーベットの操刃するスクラマサクスは敵を翻弄しつつ背後を容易に取っていた。そして――


『がああっ』


 敵騎の背後から逆手さかて持ちにした刃力剣クスィフ・ブレイドによる剣閃がタルワールの頸部に奔る。それにより頭部を失ったタルワールの騎体は制御を失い、空の彼方へ落ちて行った。


 続いてシーベットは抗刃力結界イノセントスフィアを展開するタルワールに狙いを定めると、スクラマサクスを突撃させる。そして左前腕部に装備された盾の側面を結界に接触させた。


「結界……邪魔!」


 直後、盾の全周に備え付けられている細かな刃が高速で回転し、結界から火花が舞うと同時、光の球体全体に亀裂が走り、粉々に割れて消失する。


 ソードが装備する盾には、刃力を減衰させる効果のあるロティスの樹、その樹液が塗ってあり、更にシーベットが盾に追加する盾付属型聖霊騎装の一つ、砕結界式斬廻盾ディナイアルシールドによる効果で、タルワールの抗刃力結界イノセントスフィアは破壊されたのだった。


 そして、その隙をカナフは見逃さず、抗刃力結界イノセントスフィアを失ったタルワールの腹部を狙撃式刃力弓クスィフ・スナイプアローで狙撃、動力炉を光矢に貫かれたタルワールは空中で爆散した。



 ※



 一方その頃。


「くそっ、やっぱり当たらないか!」


 ソラは闇雲に刃力弓クスィフ・ドライヴアローの光矢を敵のタルワールに向けて放ち続けるも、タルワールは騎体を巧みに操作し連続で回避。次の瞬間、タルワールは刃力剣クスィフ・ブレイドを抜き、ソラに向かって突撃して来た。


『蒼衣騎士が戦場に居るなど!』


「くっ!」


 しかし、ソラの前に耐実体結界アブソリュートスフィアを展開したデゼルのベリサルダが立ち塞がり、タルワールの斬撃を防ぐ。続いて、両手に装備した巨大な盾での殴打により、タルワールを後方に弾き飛ばした。


『大丈夫、ソラのことは僕が守るから』


「デゼル、お前って奴は」


 デゼルのその一言に、ソラは表情を綻ばせる。しかし直後、伝声器越しにヨクハの怒声が響いた。


『このたわけが!』


「な、なんだよ団長」


『何をちまちまやっておる? お主が下手くそな射撃を一発二発撃ったところで当たるとでも思っておるのか? 相手は銀衣騎士じゃぞ』


「……そんな事言ったって」


 叱責され悔しそうに歯噛みするソラにヨクハは告げる。銀衣騎士には先読み能力と、驚異的な反射神経、感情受信能力がある。それを持つ相手に攻撃を届かせるには、能力を持ってしても防ぎきれぬ連撃か、能力を上回る一撃が必要なのだと。


「カナフとの模擬戦を思い出せ、お主の持ち味は何じゃ?』


 ヨクハのその言葉に、ソラは瞳を固く閉じると、決意したように開眼した。


 そして刃力弓クスィフ・ドライヴアローを盾の内側に納めると、腰の鞘から刃が形成された刃力剣クスィフ・ブレイドを抜く。


「はあ、骨は拾ってくれよな」


 ソラのカレトヴルッフは剣を顔の横、かすみに構え、一騎のタルワールに向かって突進。


 するとタルワールは両肩部を展開させ、アーティファクトと呼ばれる追尾式炸裂弾を発射。雷の聖霊の意思により追尾の特性を持たせ、炎の聖霊の意思による爆裂を利用した推進と着弾時の炸裂を行うその聖霊騎装は、ソラのカレトヴルッフに向かって空中に航跡を描きながら無数に飛来する。


 ――あれ、何か見える……気がする。


 ソラのカレトヴルッフは、無数の追尾式炸裂弾アーティファクトの隙間を廻旋しながら回避しつつ、その弾幕を潜り抜け、タルワールの間合いに入った。


「だああああっ!」


『――えっ?』


 直後剣閃がはしるる。カレトヴルッフの刃力剣クスィフ・ブレイドによる袈裟斬りが、タルワールの胴体を斜めに両断し、タルワールは空中で爆発四散した。


『貴様よくも!』


 それを見た〈不壊ふえから〉の騎士が、タルワールに刃力剣クスィフ・ブレイドを抜かせ、ソラのカレトヴルッフに突撃、斬り掛かる。


 しかし、ソラはその一撃に反応。捌いていなすと、上段に構え、振り下ろしの一撃。


『舐めるな、蒼衣騎士風情がっ!』


 〈不壊ふえから〉の騎士は、その一撃に何とか食らい付き、受け太刀の姿勢を取った。


『そこじゃっ!』


 ヨクハの掛け声に、ソラは振り下ろし途中の刃力剣クスィフ・ブレイドの刀身を消失させ、タルワールの刃力剣クスィフ・ブレイドによる受け太刀をかわすと、再度刀身を出現させ――タルワールの頭部から胴体までを一刀に両断した。


  その一撃は正に紫電一閃。騎体が真っ二つになり、空中で爆散するタルワール。


「はあっはあっはあっ!」


 ――倒した、俺が真っ向から銀衣騎士を二人も?


 操刃室内にて肩で息をするソラは、自分の上げた戦果を未だ信じられず呆ける。そんなソラのカレトヴルッフにデゼルのベリサルダが寄る。


『す、凄いよソラ、今の剣技』


 見事敵を撃墜させたソラを、デゼルは驚嘆の声で称えた。すると続いて、ヨクハのムラクモもソラに寄ってきた。


『ふむ、最初の腰抜けな戦いを見た時はどうなる事かと思ったが、最後の方はまあまあじゃな、とりあえずは良くやったという事にしておいてやろう』


「いやあ、いきなり戦場に放り込まれてどうなる事かと思ったけど、プルームちゃんにしごかれたおかげで敵の攻撃が見えるようになったっていうか……攻撃が思うように届くようになったっていうか……」


『お主は元々剣技だけは見るものがあった。しかし、それを活かすには敵の間合いに入り、己の攻撃を放つ為に敵の攻撃を捌く必要がある。その足りない部分を補えば、例え蒼衣騎士と言えどその辺の銀衣騎士なんぞに遅れは取らん』


 賞賛とも取れる言葉を聞き、騎士として戦う事を一度は諦めた、自分の剣が通用したことに人知れず高揚し、ソラは無意識に自分の両掌を見つめた。


「って、こんな悠長に話してる場合じゃなかった。今絶賛戦闘中だったよ」


 するとソラは今戦闘中であることを思い出し、ハッとした様子で言う。


『何を言っておる?』


「え?」


『もうとっくに終わっておるぞ』


 ソラは、ヨクハのその返しで辺りを見回すと、〈不壊ふえから〉のソードの姿はどこにも無く、所々に爆煙が漂っているだけだった。


 戦闘は終了し、〈不壊ふえから〉の部隊はほぼ壊滅、残った数騎は既に撤退を開始していたのだった。


「え、嘘だろ? いつの間に?」

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