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第31話

 柘榴は蒼子が寝入ったのを再度確認し、自分の身支度を整えた後で紅玉が眠る寝室に戻った。


 寝台は一つだが部屋は広く、床に用意してもらった敷物と布団を敷いて横になって小さく息をついた。


「困ったことになったけど、まぁ、概ね順調ね」


 流石、神に愛された神女だわ。


 蒼子と別れてからのここまでの道のりは良かったとは言えない。


 離れ離れになった数刻後には刺客に襲われ、強盗に遭遇し、泊まった宿からは不当な高額請求をされた。


 紅玉との二人旅はもう御免である。


 柘榴は一度起き上がり、紅玉の寝顔を見やる。

 神力を使い切り、ぐったりしているがその表情には安堵もある。


 蒼子と無事に再会できた喜びが大きいのだろう。


「本当に頑張ったわね。貴方がいなかったら蒼子様は見つけられなかったわ」


 蒼子と同じく水の神力を持つ紅玉は清い水から神力を得る。


 清い水がなければ力を維持できない。


 それに対して柘榴は火の神力だ。火の神力は陽光からその力を補うことが出来る。

 晴れの日が続くこの町では常に陽光を得る事ができるので蒼子や紅玉のように神力が不足することはない。


「私の神力はほとんど使い物にならないし」


 柘榴の神力は極僅かで、戦闘や人探しに使えるようなものではない。


 その代わりに柘榴は身体を鍛えぬき、蒼子の身辺警護をする専属の護衛になった。


 神力はほとんど使えないが、鍛えぬいた身体と体力には自信がある。

 陽光からの神力と漲る体力で元気だけはあった。


 なので紅玉の代わりにこの屋敷の三人を観察する余裕があった。

 琳鳳、この屋敷と店の主人。男気と色気を兼ね合わせた眼帯の美男子だ。


 柘榴の中の女が興奮している。


 双子の片割れ柊、穏やかな雰囲気に丁寧な言葉遣い、整った顔立ちから一定の客が彼を目当てに来店。家庭的で器用。時折、見せる主人に対する辛辣な対応に柘榴の中の女が興奮する。


 双子の片割れ椋、柊に比べると愛想はないが整った顔立ちと知的な雰囲気に一部の女性客から熱い支持を受けている。柘榴の中の女が可愛いと叫んでいる。


 顔が良い事は勿論だが、双子は特に脱げばいい身体をしているに違いない。


 着物で隠れているがしっかりとした骨格、程よく厚い胸板、しなやかな筋肉がついた脚、どっしりと構えた腰。


 最高だわ……。見るのも食べるのも、武器を持たせても最高な人材だ。


 恍惚とした表情で彼らの身体を想像する。


 そして椋にはさきほど紅玉を運ぶ際に会ったばかりだが、柘榴を見て激しく動揺していた。


 まだまだ、世間を知らないお子様ね。

 うふふ、そんな所も可愛いわ。


 既に就寝していた三人は突如襲った寒気に身震いをしたが目覚めることはなかった。


「蒼子様ったら、こんないい男達を引き当てるんだもの。恐れいるわ」


 流石、私達の神女。引きが強いことこの上ないわ。


「探し物の場所は分ったし、あとはこの町の問題と、刺客の始末ね」


 早く探しものを回収して、王宮に戻らなければ。

 刺客や誘拐犯に蒼子が襲われかねない。


 心当たりがない訳ではないが神女が王宮外に出た事を聞きつけて蒼子の命

を狙っている者がいる。


 蒼子を危険に晒さないために任務を遂行してなるべく早く、王宮へ戻らなければならないのだ。


 柘榴は横になって布団を掛けて目を閉じる。

 横になったばかりではあるが再び起き上がった。


「全く……やっと眠れると思ったのに」


 蒼子様が起きてしまうわ。

 それに蒼子様がお世話になった人達だものね。


「害虫駆除ぐらいは手伝わないとね」


 一人呟き、柘榴は起き上がる。

 外にある気配は多くない。

 この程度なら武器を出すまでもない。


 柘榴は音を立てないよう細心の注意を払い部屋を出て廊下を進んだ。

 そして思いも寄らぬことに玄関で柊と遭遇する。


 驚く柘榴に柊はいつものように穏やかに微笑む。


 微笑む柊に柘榴は微笑み返した。

 柊の手には一本の長い棒が握られている。


「奇遇ですわね」

「ええ、何だか寒気がしたもので目が覚めてしまいまして」

「風邪かしら? お休みにならなくても平気ですの?」

「急に散歩がしたくなったんです」

「あら、ご一緒してもよろしいかしら」 

「それはいいですね」

「では参りましょうか。みんなが起きてしまうわ」


 そう言って二人は玄関の扉の向こうにある複数の気配を睨み付けた。




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