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英雄の資格 ~果たされなかった約束~
英雄の資格 ~果たされなかった約束~
御魂
異世界ファンタジー戦記
2025年03月19日
公開日
4.7万字
連載中
485年、ディゲーニア王国にてファスコ国王が死んだという知らせが王国中に届いた。 国王が死んだという知らせに国民は悲しみに暮れ、涙を流した。だが、アルクス協教会の編纂者であったミラフェスはこの知らせに悲しみよりもがっかりした感情が優先していた。 国王は60年前、北に住む魔王ヴァシリッサを討伐したことにより、当時の国王から褒美として、妻であるノエル女王と結婚、国王に就任したのだ。 だが、本来武勇伝として語るはずの魔王討伐に関して、ファスコ国王は死ぬまでその詳細を一切誰にも語らなかった。 教会の編纂者であり王宮付きの編纂者でもあったミラフェスも何度も国王に交渉し、魔王討伐について自伝として書物を残さないかと言い続けてきたが一度もその口を開くことは今までなかったのだ。 しかし、国王が死ぬ数日前、唐突にミラフェスを自室に招き魔王討伐に関する過去を語ると言い出したのである。そして内容が膨大であると予想したミラフェスは準備のため数日後、取材をするというとウキウキし、取材の準備を始めた。 その矢先の訃報である。ミラフェスは心底がっかりした。 だが国王の葬儀が終了して数日後、協会にある青年が訪れた。ディオと名乗る人物は自らを国王の隠し子と名乗り、ミラフェスにファスコの過去を調べて欲しいと依頼してきたのだ。 ディオが本当に国王の息子なのかすら怪しい状況だったが、ミラフェス自身もようやく聞けるはずだった国王の武勇伝をこのまま終わらせていいのかという迷いがあった。 魔王討伐自体は事実であるため、その功績を辿れば本人に聞かずともこの魔王討伐に関する歴史が分かるのではないかと考えたのである。  そして同時に何故今まで国王が秘密にしてきたのか、このディオという青年が本当に国王の息子なのかもこれで分かるのでは?と思ったミラフェスはディオの依頼を承諾し、ファスコ国王の魔王討伐の取材に旅に出るのだった。  だがミラフェスは知らなかった。  この旅で国の存在を揺るがす重大な事実を知ることになると。

国王の死

 その情報が私の所に届いたのは、ちょうど私が起きた時だった。


「ミラフェス様!ミラフェス様!」


 ドンドンドン!


 朝の静寂を破るように、激しいノックの音が響く。


 まったく、昨日は夜遅くまで取材の準備をしていたのだ。もう少しだけ眠ってもいいのに。


「……起きるか」


 ベッドから出て、朝日を浴びる。目覚めも良い、なんていい日だろうか。今日はついにあの国王からあの話しを聞ける日なのだ、気持ちが高ぶっている。


 さて、早朝にドアを叩くものは一体……。


 ドアを開けると、そこに居たのは協会に所属し、私のお世話係をしているエレンだった。だがいつもの穏やかな表情とは違い、かなり慌てている。


「どうしたんです?そんなに慌てて」

「それが!……先ほど王宮より発表がありまして……国王が……」

「……っ!国王に何があったのです!」

「……昨夜、亡くなったと」

「……そんな」


 思考が……一瞬止まった。


 そして私は力が抜けたように膝から崩れ落ちた。



「ファスコ様!」

「ああ!そんな!ファスコ国王!」


 宮殿よりディケーニア王国国王ファスコが棺に乗せられ、その棺を従者たちが背負い、ゆっくりと階段を降りていた。


 その様子を国民は跪いてみていた。悲しんでいる者、泣き叫んでいる者、ただただ顔面蒼白で見ている者など様々だ。


 そんな中私は国民が心に浮かべるような感情は持っていなかった。


ただただ、がっかりしていた。


私は教会の編纂者として、王宮に度々通い、王宮で起きた事象を書き留める仕事についていた。主に王宮がやった政策についてや、生まれた子供について、王宮の貴族の時事ネタなどである。


だが、長年王宮に接してきた私でも唯一分からないことがあった。


それは無くなったファスコ国王の過去の話である。


ファスコ国王は血筋としては王族の人間ではない。元々は一平民だ。ではなぜ一平民が国王にまでなれたのか。……それはファスコ国王が約六十年前に北に住むとされてきた魔王を討伐し、英雄となったからである。


その功績を称えられ、前国王の娘ノエル王女と結婚。前国王に息子が居なかったこともあり、ファスコは前国王の死後に国王になったのである。


普通に考えれば、英雄と称えられる魔王討伐について、武勇伝として周りの従者や王国民に話すはずだ……と思っていた。


だがファスコ国王は頑なに魔王討伐に関して何も喋ろうとはしなかった。しかも自分の妻や子供にすら話していない様子である。


私は王宮付きの編纂者としてなんとか国王に魔王討伐に関する武勇伝を聞き出そうとしたが、どんなに交渉しても無理だった。その話題になるとすぐに表情を変えて違う話題に移るぐらいだ。


しかし、三日前、いつも通り国王と王国や民について話していた時だった。年を召して強かったお酒に弱くなったのか、酔いが回った国王が私に言ったのだ。


『……もう頃合いか。そろそろ話してもいいか、あの魔王討伐について』


 驚いた。今まで絶対に口を割らなかった国王が酔いのせいもあるだろうが、魔王討伐について話すと言い出したのだ。


 だが、六十年も前の魔王討伐である。話す内容も濃密で質問することも多いだろうし、紙が何枚あっても足りないと思った私は準備の為に三日後、つまり今日、国王の下で取材をするはずだったのだ。


 ついに魔王討伐について取材が出来る……魔王討伐の伝記が作れる……そう思った私は興奮しながら三日間準備をしていたのだ。


 その取材の当日に国王の訃報である。……あと少しで王国民すべてが望んでいたであろう伝説を編纂できると思った私は心底がっかりしてしまい、数日間部屋に引きこもってしまった。



 ……数日後。


トントントン。


誰かが扉を叩いている。出る気にもなれない……いやここ数日、何も食べてないか……エレンが食事を持ってきたのかもしれない。


だるい体を起こすと、ゆっくりと扉の前に行き、開けた。


 だが、扉の前に居たのは、見知らぬ男性だった。


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