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第33話『お嬢様、都市伝説の裏側を知る』

 そんなリスキーな事、まだまだやりたい事が山程ある私には到底出来ない。


「そんな訳だから明日、僕と一緒に定期検診行こうね」


 にっこりと微笑んだセルヴィを見て、私はもう頷くしかなかった。


 翌日、私はセルヴィに連れられてそれはもう大きな病院に来ていた。ところがセルヴィは病院に正面から入らずに何故か裏口にまわる。


「表から入らないの? 保険証とか受付とかは?」

「いらないよ、そんなの。どうせあいつは暇してる」

「あいつ?」


 意味がわからなくて首を傾げている間にセルヴィは私の手を引き、裏口のすぐ側にあったエレベーターについていたセンサーのような所に何やら鍵のような物を読み込ませて乗り込んだ。


 エレベーターの中には押せる階層のボタンが3つしか無い。地下3階と4階と9階のみである。


 何だか不安になって来てセルヴィの手を強く握ると、そんな私の不安を察知したのか、セルヴィが振り返って私の頭を撫でながら言う。


「大丈夫だよ、絃ちゃん。怖くない、怖くない」

「う、うん」


 完全に子供扱いをされているが、不思議と頭を撫でられてそんな風に言われると少しだけ落ち着いてくる。


 エレベーターが止まったのは4階だ。下りるとそこには他の階と同じようにズラリと病室が並んでいるが、何故かどこの病室もガラガラだしやたらと静まり返っている。


「なんか……変な病院」


 その時だ。私達が下りた通路の反対側からエレベーターの音がして、そこからセルヴィとは違うベクトルの端正な顔立ちをした男が下りてきた。白衣を着ているのでその人物が医者だと言う事は一目で分かる。


 その人物を見るなりセルヴィが軽く声をかけた。


「スイ、久しぶり」


 セルヴィが挨拶をすると、スイと呼ばれた男はちらりと視線を腕時計に落として淡々と冷たい声で言う。


「お前が時間通りに来るなんて、明日この星は砕けるんじゃないか」

「失礼な。絃ちゃんの前では僕は品行方正だよ。絃ちゃん、紹介するね。この男はスイ。僕の、というかハミルトン家の専属医なんだ」

「専属医?」


 そんな人がどうしてこんな普通の病院に? 


 私がよほど不思議そうな顔をしていたのだろう。スイがこちらに近寄ってきて片手を差し出してきた。


 その手を掴もうとすると、すぐさまセルヴィにスイの手が振り払われる。


「触るな。そう、専属医。僕が行く場所には必ずついてくるんだ。鬱陶しいでしょ?」

「そんな事はないけれど……こんな立派な病院なのに、もしかしてここは吸血鬼の為の病院なんですか?」

「吸血鬼の為ではないな。だが、吸血鬼の為の階がある。聞いた事があるだろう? 病院には4階と9階は無いのだと」

「あの話はその為!?」


 驚いた私にスイとセルヴィが二人して頷いた。てっきり都市伝説だろうと思っていたのに、まさかこんな裏話があったとは!


「ちなみに9階には別の種族の階層があるんだよ。人間には見えない人たちの為の階がね」

「じゃ、じゃあ地下3階には何があるの?」


 エレベーターの中のボタンを思い出した私が言うと、二人は真顔で口を開く。


「あそこは他種族に殺された者たちの安置所だ。お前が行く事は無い」

「そうだよ。お化けが一杯だから絃ちゃんは入っちゃ駄目だよ、絶対に」

「う、うん。分かった」


 他種族に殺されたというのがとても不穏だが、私はゴクリと息を呑んで頷いた。


「さて、では検査を始めようか。ヴィー、お前はあそこで待ってろ」


 そう言ってスイが指さしたのは待合所だ。ところがセルヴィはそれを聞いて何故か眉を吊り上げる。


「僕も行くに決まってるだろ」

「いらん。邪魔だ。行くぞ」

「は、はい」


 セルヴィとは違う威圧的なスイに私はすっかり怯えていたのだが、セルヴィはそんなスイを無視して無理やりついてきた。


 けれど診察室に入ってこようとした所で、あっさりとスイによってその道を阻まれる。


「おい!」

「俺は別に検査をしなくても良いんだぞ?」

「……くそ! 早くしろよ」

「はいはい」 


 それだけ言ってスイはセルヴィの目の前でドアを閉めて、置いてあった椅子に腰掛ける。


 そんなスイに私は恐る恐る話しかけた。


「仲、良いんですか?」


 私の言葉にスイは苦い顔をして私を見下ろしてくる。


「ん? うちの家はあいつの家に仕えている医者の家系で、さっきも言ったが俺は言わばあいつの主治医なんだ。とは言っても治療するのはあいつじゃない。あいつに吸血されたり、あいつとやり合った奴らだけどな。だから仲が良いという訳ではないな」

「それは……大変そうですね」


 それは絶対に大変だ。要はあのセルヴィのお守役という事なのだろう。


 セルヴィとスイのやりとりを見ていて思ったのは、セルヴィは仲間に対しては遠慮が全く無いということだ。私といるセルヴィとは随分と違う。

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