どうせバレているなら手っ取り早い。私は正直にセルヴィに尋ねる事にした。
「ねぇ、セルヴィにとって私は夢なの?」
「そうだよ。絃ちゃんは僕の夢だ。君が僕に隠れてこっそり嗜好生物から逃れようとしていた事も知ってるけど、僕が逃がす訳ないよね? せっかく掴んだ夢なのに」
「し、知ってたの」
「そりゃ知ってるよ。ペットが何してるのか、何考えてるのか、察知するのは飼い主の役目でしょ?」
「……」
相変わらずのペット扱いに黙り込んだ私に気にもとめず、セルヴィは続ける。
「スイに前に言った話は本当の事だよ。僕は君だから嗜好生物にした。君となら一生一緒に居られると、居たいと思ったから。最初は文献の通り無理やり言う事を聞かせようともしたよ。でも君と過ごすうちにいつの間にかそんな風に思わなくなってた。絃ちゃんは思っていたよりもずっと変わってて面白かったからね」
「お、面白い……」
引きつった私を見てセルヴィがいつになく優しく微笑んで私にカップ麺を渡してくる。
「それに、僕は自分だけを愛してくれる嗜好生物が欲しくて仕方なかった。絶対に裏切らない存在が欲しくて仕方なかったんだよ」
「ヴィー……」
あまりにも切なげで悲しそうな声に思わず胸が詰まる。
セルヴィは私を外の世界に連れ出してくれた。だから救われたのはセルヴィだけじゃない。私だってセルヴィに救われたのだ。
あのまま香澄家に居れば、きっと私は両親の言う通りに生きていたのだろう。何も知らず、一生お嬢様の仮面を被ったまま。
そんな私をセルヴィはずっと見張り観察して本当の私を見つけて受け入れてくれた。相手が吸血鬼だろうが何だろうが、こんな人はセルヴィが初めてだったのだ。
もうこれ以上自分の心に嘘はつけそうにない。
少し前から感じていた事。それは、セルヴィと共に一生を送るのも悪くないかもしれないと言う事だった。
たとえセルヴィにとって私がペットでしか無くても。
あの日、セルヴィはまず私の状況を両親に報せてくれたようだった。
それから冴子にもちゃんとフォローを入れておいてくれたようで、冴子からはひっきりなしに私を心配するメッセージが届くし、両親はしょっちゅうお見舞いに来てくれる。
そう、私はまだあの病院に居た。あれは一週間前の事だ。
『え、入院?』
セルヴィがそう言って私の荷物をその場にドサリと落とした。もうすっかり元気になった私は、てっきり帰れるだろうと思って身の回りの物をセルヴィと片付けていたのだが、そんな私達の元へスイがやってきて「しばらく入院が必要だ」と告げてきたのだ。
『そうだ。突然吸血鬼の血を大量に体に入れたんだぞ? 何が起こるか分からないだろう?』
『……そりゃそうだけど、何も入院までしなくても……』
『だったら俺がお前達の家へ行こうか? 俺はそれでも構わないんだぞ?』
『馬鹿言うなよ! どうしてお前をうちに上げなきゃいけないんだよ!』
『そうだろう? だから入院だと言っているんだ。幸いにも絃はまだ夏休みの真っ只中。大学が始まるまでにはまだ時間もあるだろう』
『どれぐらい?』
低く呻くようなセルヴィにスイがちらりと私を見て言った。
『最低でも一週間。長くて二週間は居てもらう』
『ほぼ夏休み中ずっと!? 絃ちゃんと海に行ったりキャンプする予定だったのに!』
『そうなの!?』
それは初耳なのだが? そう思いつつセルヴィを見上げると、セルヴィはこくりと頷いた。それは是非とも行きたかったが、スイはそれを許してはくれず——。
私が入院してからたった一日であまりにも駄々をこねたセルヴィは、とうとう病院を出禁にされてしまった。
まぁそれは仕方ない。セルヴィが私の事を今まで以上に構おうとして大変だったのだ。