そんなセルヴィからは毎日贈り物が届く。花やら枕カバーやら色々と。
今日も午後の診察にやってきたスイが苦虫を潰したような顔をして病室に入ってくるなり私の膝の上に何かを置いた。
「これ何?」
「察しろ。ヴィーからだ。着替えだそうだぞ」
「着替え……」
丁寧に包装された包を開けると、中から出てきたのは繊細なレースで編み上げられた今にも透けそうな薄ピンクのベビードールが出てくる。
「あいつ……これをどんな顔をして買ったんだ?」
呆れた口調のスイに私は想像して少しだけ笑った。スイの言う通りだ。あの顔であの声で、なんて言ってこのベビードールを買ったのだろう? もしくは通販で頼んだのだろうか?
私はベビードールをもう一度眺めながらぽつりと呟いた。
「セルヴィには私が一体どんな風に見えてるんだろう?」
「さぁな。どこかのお姫さまにでも見えてるんじゃないか」
相変わらずつっけんどんな言い方だが、そんなスイにもすっかり慣れた。この人はこう見えてただぶっきらぼうなだけの、良識のある医者だ。
「セルヴィの方が美人なのに。変なの」
「あいつがここまで何かに執着してるのは初めて見たな。同胞にもこんな物を送った事ないだろうに」
「そうなの? 恋人とか一杯いると思っていたわ」
あのマメさであの顔であの性格ならさぞモテるだろうに。口では「同種なんて!」などと言っていたが、実際の所はどうなのだろうか。
興味津々でスイを見上げると、スイは真顔で首を振る。
「ヴィーの恋人? そんなもの聞いた事がないな。あいつはとにかく気性が激しいんだ。あの容姿だから選び放題なんだろうが、大抵あの性格についていけなくなるんだよ。そもそも恋愛に発展する前にあいつの場合は一晩相手して血を吸ってはい、終わりだ。それが俺の知ってるセルヴィ・ハミルトン。間違えてもこんな気色の悪い物を誰かに送るような奴ではなかったぞ」
そう言ってスイは真顔で私が広げているベビードールを指さした。
「でもセルヴィは早く結婚したいと言っていたけれど……跡継ぎもいるんでしょ?」
何なら早く結婚して子孫を作って、遺言書を書くなどと言っていたが?
私の言葉にスイは怪訝な顔をしている。
「結婚? 子ども? 確かに跡継ぎは必要だろうが、あいつからは一番縁遠い単語だな。何せ既にハミルトン家はヴィーの代で終わると懸念されているぐらいだ」
「そうなの……それじゃあ私はしばらくは家族と幸せそうに暮らすセルヴィを見なくて済むのかしら」
性格が悪いと言われるかもしれないけれど、目の前で気になる人が自分ではない誰かと幸せな家庭を築くのを見ていられるほど私の心は広くない。
恐らく既に私の気持ちに気づいているスイは、私をフォローしてくるつもりなのか大げさに頷いた。
「それは保証してやる。下手したら一生そんな日は来ないだろう」
「ありがとう、スイさん。慰め上手なのね」
「慰めではなく、事実だ」
「ええ」
それを聞いて思わず笑顔を浮かべた私を見てスイは何とも言えない顔をする。
「だが、あまりにもヴィーと居るのが辛くなれば連絡しろ。お前のように完璧ではなくとも嗜好生物は他にも居る。お前はもうどのみち人間とは上手く暮らしてはいけないだろう。その時は俺がそいつらを紹介してやる」
「……ありがとう。少しだけ希望が持てたわ」
スイの言う通りだ。どのみち私はもう普通の人間との生活を送る事など出来ないだろう。
あまりにも真面目な顔をしてそんな事を言うスイに、とうとう私は声を出して笑ってしまった。
ちなみにこのベビードールは早々にタンスの肥やしになると思う。