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第120話

 私の反応にようやくセシルが満足げに頷く。


「ようやく私の望む反応をしてくれましたね。そうです。だからあの方は孤独なのです。誰にも心を打ち明ける事が出来ない。あの方に友人は居ません。居るのは臣下のみです。私のように」

「そう……だったんだ……」


 だからセルヴィはあそこまで私の存在に固執したのか。ただの愛情不足からくる執着ではなかったのか。そして吸血鬼の王様だからこそ、ダンピールにその生命を狙われていたのか。


 私は俯いて今までのセルヴィの孤独を想った。セルヴィが今までどれだけの長い年月を一人で生きてきたのかは知らないが、セルヴィは私に言った。私を見つけたあの日から、ようやく人生が動き始めたのだ、と。


 あの言葉には一体どれほどの思いが込められていたのだろうか。セルヴィにとって嗜好生物はペットだ。


 けれど誰も信用できない王にとってのペットは、それこそ本当に心を救う存在だったのではないだろうか。


「私……もうずっとペットでいいよ……セルヴィの側に居る……もうずっとずっとヴィーの側に居るから! だからどこにも行かないでよ! 私を置いて行かないでよ!」


 それだけ叫んで私はようやく声を上げて泣いた。子どものように泣き叫び、何度も何度もセルヴィの名前を呼ぶ。


 そんな私にサシャとセシルが何を思ったのかは分からなかったが、少なくともサシャはそんな私に釣られたかのように涙を零し、セシルですら眼鏡を外して何かを我慢するかのように瞳をきつく閉じていた。


 結局私は道中ずっと誰からも続報の無いスマホとトンスケを抱きしめ泣いていた。ただ泣くことしか出来ない自分の無力さをこれほど恨んだ事はない。


 ジェット機から下りた場所からさらに車に乗り換え移動する事一時間。周りの景色に次第に建物が増え、地面が石畳に変わっていく。


 大きな通りの沿道には長い花壇が作られていて、そこには色とりどりの花が咲き乱れている。目に飛び込んでくる景色はまるで中世映画のワンシーンのようだ。


 街行く人達は洋服を着ているので、何だか映画セットで出来た観光地のようにも見えた。


 大通りの正面には真っ黒で荘厳、かつ厳かな雰囲気のお城が街を見下ろすかのように建っている。その出で立ちはまさに吸血鬼城だ。


「あそこがね、私達の実家だよ」


 サシャが静かに私の肩に手を置いて言う。それを聞いて私はようやく実感した。やはりセルヴィは王なのだ。


「あそこにセルヴィが居るの?」

「分からない。誰からも連絡がないから」


 そう言ってサシャが視線を伏せた。確かにサシャの言う通りだ。あれから誰からも連絡がない。


 私はおもむろにスマホを取り出し、もう何度も見たスイからのメッセージを読み返していて、ふとある事に気づいた。


「ねぇサシャ、この数字はなんだと思う?」


 メッセージの件名には、何を意味するのか分からない数字の羅列が記してある。


 それをサシャに見せると、その数字を見るなりサシャは息を呑んで運転をするセシルに早口でまくし立てた。


「セシル! スイの自宅へ向かってちょうだい!」

「スイのですか?」

「そうよ! 兄貴はそこに居るわ! 絃、この数字は自宅番号なの。いわゆる住所ね」

「そうだったの!? ご、ごめんなさい。私、全然気づかなかった」


 内容にばかり目が行ってタイトルなど気にも止めなかったが、どうやらここの住所は数字の羅列らしい。


 車はすぐさま道路を折り返し、元来た道を戻り始めた。そして大通りから外れて脇道に入ると、今度は静かで自然に囲まれた場所に出る。


「あそこがスイの家。あの人、何度言っても王都では暮らさないの。昔から」

「静かな所が好きなのかな」

「きっとそうね」


 私の言葉にサシャが小さく微笑み、私の頭を撫でてくれた。その手が何だかセルヴィのものと被る。


 ようやくセルヴィの元に到着した時には私はすっかり疲れ果てていて、サシャに支えてもらわなければ歩くことさえ出来なかった。


 車から下りて一歩セルヴィの元に近づく度に心臓が悲鳴をあげる。


 会いたくない。


 けれど会いたい。


 相反する思いが吐き気という状態になって身体に現れた。それでも私は前を向き、どうにかスイの屋敷へと辿り着く。


「来たか」


 呼び鈴も何も押していないのに、スイが屋敷から顔を出した。


 スイは憔悴しきっている。


 その顔を見るだけでセルヴィがどれほどまでに危険な状態かが分かってしまった。


「ヴィー……は?」


 震えながら呟くと、スイは何も言わずに顎で屋敷の中をしゃくる。どうやらついて来いと言っているようだ。

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