しばらくするとセルヴィの上半身の化膿が薄れ、傷がまるで何かに繋ぎ止められているかのように勝手に閉じていく。
そしてとうとう傷がすっかり消え去った時、セルヴィが私の首元から唇を離し、そのまま私の身体を掻き抱くように強く抱きしめてきた。
「絃……」
耳元で掠れたセルヴィの声が甘く響く。この声が聞きたかった。電話が無くなったあの日からずっと、私はこの声が聞きたくてしょうがなかったのだ。
私は堪らなくなってセルヴィに抱きつくと、嗚咽を漏らした。そんな私の頭を撫でながらセルヴィが震える声で言う。
「どうして来たの。絃ちゃんは本当に待てが出来ないんだから」
「当たり前、れしょ、ペットを、置いてくのはらめらよ」
舌が上手く使えないのでどうにかそれだけ言うと、セルヴィはようやくその事に気づいたかのようにハッとした顔をして私の頬を両手で挟んで上を向かせる。
そして私の口元を見るなり息を呑んだ。
「どうしてこんな……! 舌、出して」
「ん」
セルヴィに言われて舌を突き出そうとするが、それは出来なかった。仕方がないので口を開くと、舌につけた傷を見てセルヴィが青ざめる。
「馬鹿だな! どうしてこんな場所をここまでザックリいったんだ!」
どれほどの傷になっているのか分からないが、ついほんの今まで満身創痍だった人には言われたくない。
セルヴィは私の口からどんどん溢れてくる血を舐め取りながら、手を繋ぎ指を絡めてくる。どうやらもうセルヴィが灰になるという心配は無さそうだ。
「んん、んっ」
「じっとして。痛いでしょ、こんなとこ……」
「ん」
舌の感覚どころか唇の感覚も無い。その時だ。
「ロールシャッハが一人で出てきたのですが——っ!?」
「絃、もうお別れは……兄貴!?」
「おい、そろそろ痛み止めのじか——何事だ」
そこへいつの間に外へ出たのか、ドアが開いてトンスケと廊下で立ち尽くしていた三人が部屋へ入ってきて私達を見て絶句した。
傍から見れば私達は濃厚なキスの真っ最中だった訳だが、実際は違う。私の舌の血が止まらないのである。そのせいで少しだけクラクラしてきた。
「……一体、どんな奇跡が?」
「兄貴……兄貴!」
「あー……つまり、危機は脱したという事で良いか?」
何とも言えない顔をするスイに向かって、セルヴィがようやくキスを止めて早口で言う。
「スイ! ちょっと絃ちゃんの舌を見てやって!」
「はあ? 舌?」
そう言ってスイは私達に近づいてくるなり、とめどなく私の口から溢れる血を見て絶句する。
「お、おい、口を開けろ」
「あ」
スイの前で大きく口を開けると、今度はスイが青ざめた。
「こ、こんな所を傷つける奴があるか! ちょっとこっちへ来い! ヴィー、お前の処置はもういいな!?」
「ああ、もう大丈夫。完璧だ」
「よはっは(良かった)……」
それを聞いて思わず声を出した私を見て、セルヴィが怖い顔をして私を睨んでくる。
「全然良くないっ! スイ!」
「ああ。絃、行くぞ」
こうして、私はホッとしたのも束の間、スイに手を引かれて部屋を後にしたのだった。