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第125話

 運転するセルヴィの横顔を見ながら失くなってしまった長い髪を不意に思い出して、セルヴィに尋ねた。


「ねぇセルヴィ、あのリボンはどうしたの?」

「リボン? ああ、髪結んでた奴?」

「うん」

「さあ……爆発に巻き込まれた時に焼けたのかな。どうして?」

「もしあったら頂戴って言おうと思ったんだけど、そっか。焼けちゃったのか」

「欲しかったの? あんなのが?」

「うん。どんな物でもセルヴィのだもん」


 何だか寂しい。そんな事を考えながら窓の外に視線を移すと、そんな私にセルヴィが静かな優しい声で言う。


「そっか。そんな事を誰かに言われるのは初めてだな。そうだ! 屋台通りに行く前にちょっと僕の使い魔達を迎えに行ってもいいかな?」


 それを聞いて私は目を輝かせた。セルヴィの使い魔と言えばパンサーとかカラスだと言っていたのを思い出したのだ。


「うん! トンスケと仲良くなれるかな!?」

「どうかなぁ。あいつらも美意識高いから。喧嘩しないでくださいね、お嬢様」


 そう言って意地悪に笑ったセルヴィを見て私は頬を膨らませる。


 それから私達は先に使い魔達を迎えに行く事にした。城に近づくにつれて何だかセルヴィの元気が無くなっていく。


 とうとう城に辿り着いた時にはセルヴィは無言になってしまい、やはり事故現場は嫌なのだろうかと考えていると、ふとセルヴィが大きなため息を落とす。


「ここには嫌な思い出ばっかりだ。やはりこれはさっさと城を引っ越すべきだな」

「城を……引っ越す!?」


 それは無理では? そう思いつつセルヴィを見上げると、セルヴィは仮面越しにこちらを見て笑う。


「冗談だよ。ついておいで」


 セルヴィに連れられて城の門の所まで来ると、そこには厳つい門番が二人、大きな門扉を守っている。


「セルヴィ様から言付けられた物を受け取りに来た」


 セルヴィの言葉に門番の二人はセルヴィを見るなり鼻で笑う。


「誰かと思えばヴィンセントか。何だってセルヴィ様はお前なんかに嗜好生物を預けたんだ?」

「さあ? 彼の考える事を俺が知る訳ない」

「っ!」


 セルヴィが「俺」って言った! そんな事に感激していると、門番の一人が私の顔を覗き込んできてペロリと舌なめずりする。


「なぁヴィンセント、そいつがあの例の完璧な嗜好生物だろ? ちょっと吸血させてくれよ」

「駄目だ。これはもう俺のだ。それにセルヴィ様からもキツく言われてるんだ。誰にも触らせるなって。破ったら彼の使い魔に食い殺されるぞ」


 怒りを含んだ低い声でセルヴィが言うと、門番二人はチッと舌打ちして門を開け、ニヤニヤしながら言う。


「じゃ、俺達は大人しく使い魔達に用意された王のタブレットが無くなるまで我慢してやるよ」

「残念だがその前に俺が契約を引き継ぐさ」


 ヴィンセントと言うのは本当に下っ端扱いされているようだ。門番達はヴィンセントのそんな言葉に下品に笑って私達を通してくれた。


 それから門をくぐり城の前まで来ると、そこには執事と思われる人が厳しい顔をして立っていた。セルヴィは彼に手紙を手渡し、それを読んだ執事はくるりと踵を返して無言で城の中へと向かう。


「あれは?」

「遺言書。ここにいつまでもあいつらを置いてる訳にはいかないから。それにスイの所の方が森も近いしあいつらも喜ぶ」


 そんな事を言うセルヴィの目はとても優しかった。やっぱりこの人はペットが大好きなのだ。


 しばらくしてさっきの執事が縄に繋いだパンサー二匹とカラスを三羽連れて出てきたのだが、可哀想にあまり大切にされていなかったのか、毛艶が悪い。


 それを見てセルヴィが眉根を寄せる。


「どうして縄を? それに毛艶も悪い」

「暴れるので。それに彼らはセルヴィ様にしか触らせません。どうぞ」

「……どうも」


 それだけ言ってセルヴィは縄を受け取り、もうここには用は無いとでも言いたげに踵を返した。執事も執事でセルヴィに縄を渡した途端、無言で城へと戻っていく。


 私は慌ててその後を追おうとして、ふと花壇の植え込みに何か見覚えのある物が落ちているのを見つけた。セルヴィから離れてそれを拾いに行くと、それはセルヴィの髪を結っていたリボンの切れ端だ。


「ラッキー!」


 私はそれを軽い気持ちで拾い上げポケットにしまい込み、慌ててセルヴィの後を追う。


 そして車に使い魔達を乗せて発進した途端、セルヴィは憤りを隠せないと言わんばかりに怒鳴りだした。


「あいつら、僕が居ない間にすっかり調子に乗りやがって。僕の物にこんな扱いをするなんて、ただじゃおかないからな!」


 どうやらセルヴィはパンサー達の首にかけられた縄と毛艶が気に食わないらしい。きっと可愛がられてはいなかったのだろう。可哀想に。

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