世界を終末へと変えてしまった元凶――龍王を倒すため、生き残ったたった五人の少女たちが奮闘していた。容姿端麗なその姿に似合わず、身体はボロボロ、呼吸は激しく乱れて、武器を握りしめた小さな手は小刻みに震えていた。
『なぜそこまでして我に立ち向かう?』
龍王が口を開く。その低い声に重々しい空気が伝わる。
「それは…私たちの、みんなの思い出の場所をあなたになんか壊されたくないから!」
「どんな困難だってみんなで乗り越えてきた! そう、だからこの戦いも…!」
「そうよ! 私たちの思いはずっと変わらないわ!」
「やるしかない…。それがボクなりのケジメ」
「だから龍王! 今ここであなたを倒す!」
ある少女はかつての家族を思い出し、ある少女はかつての友達を思い出し、ある少女はかつてそこにあった笑顔を思い出し、ある少女はかつての日常を思い出し、ある少女はこれからの未来を思い描いた。
それぞれの思いは誰にも負けないくらいに強かった。誰にも曲げられないくらいに硬かった。誰にも笑われないくらいに格好良かった――。
他に生き残っている人がいたら、誰もが少女たちに託したことだろう。この星の未来を。夢を。希望を。
誰にも期待されなくたって、少女たちは戦い続けた。その戦いの先に何も得られないことが分かっていたとしても。それが彼女たちなりの醜い復讐であったとしても。
「ぷはーっ!」
圧巻の物語に、気が付くと引きずり込まれていた。数時間にも渡ってゲームにのめり込んでいたらしい。ドキドキハラハラの展開に、汗が滲んでいた。
白を基調としたまるで美術館のような綺麗な部屋に、ゲーミングチェアにちょこんと座っているロングヘアの小さな女の子の姿があった。
彼女はまだ小学生で、しかしそうは見えないほどに可愛らしい見た目をしており、裕福な家庭のお嬢様のようだ。そして、服装はオシャレそのものと言っても過言ではないほどに似合っている。
「細野さん!」
ペットボトルの水を小さな口で一口飲んで落ち着きを取り戻してから、秘書の名前を叫ぶと、子供らしい甲高い声が部屋中に響いた。
「何でしょう?
細野と呼ばれた女性が、女の子の斜め後ろに現れて聞き返す。細野さんはこの女の子の秘書だ。
「今すぐ、このゲームの開発者を調べてっ」
女の子は片手でスマホの画面を見せる。
「えっと、なぜ·····? しかも、名前すら聞いたことないような·····」
その画面には『少女時変』と書かれた、ノベルゲームがあった。
「そういうことは聞かないの」
女の子は椅子を回転させてそっぽを向いてしまう。その時にさらさらの髪がフワッと揺れる。
「しっ、失言でした! すぐに調べてきます!」
そう言って細野さんは慌てて部屋から出て行った。
それを確認すると、女の子は笑顔いっぱいの顔になってスマホを抱きながらイスをクルクルと回す。
「ふふっ。すごいゲームを見つけちゃった!」
このゲームは大傑作だ。大成功している。だからこそ、もっと日の目を見なければならない。ランキングにすら載らないのは絶対におかしい。
少女は強くそう思い、この現状を変えるため行動に移すことにした。